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50万円を50億円に増やした、たーちゃんさんのシクリカルバリュー株投資を整理する。循環株の劇的な業績回復はなぜ起こる? その難しさはどこにある?

2026年2月4日公開
ポール・サイ
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 最近、医師で個人投資家のたーちゃんさんの投資哲学について、書籍『50万円を50億円に増やした 投資家の父から娘への教え』(ダイヤモンド社)やウェブ記事などをいろいろと読み、自分なりに整理してみました。

 たーちゃんさんは、かなり徹底した逆張り型のバリュー投資で、短期の値動きではなく、業界サイクルと企業の財務をじっくり見る投資スタイルだと思います。

たーちゃんさんの投資スタイル「シクリカルバリュー株投資」とは?

 たーちゃんさんの投資スタイルは、一言でいえば「シクリカルバリュー株投資」。シクリカルとは循環的な景気変動のことを指す言葉です。

 鉄鋼・非鉄金属・ガラス・紙・海運などの景気敏感セクターの中から、本質的には生き残れる企業を選び、市場から見放されて赤字が続いている“どん底期”に仕込み、黒字転換とともに評価が戻るまで辛抱強く保有するのが特徴です。

 景気や業界の循環を数年単位で読み、需要回復の初期サイン(数量の回復→価格の上昇など)や財務体質・潜在収益力を重視して投資判断を行います。

 また、確信度の高い局面では銘柄を絞って集中投資しつつ、全体としてはバリュー株をベースにした守りのポートフォリオも意識しており、「極端な悲観」に伴う歪みを狙いつつ、その企業が次の上昇局面まで生き残れるかどうかを厳しく見極める、高信念・高リスクの逆張りスタイルだと私は理解しました。

シクリカル株の魅力と怖さの根っこには「オペレーティング・レバレッジ(営業レバレッジ)」がある

 こうした循環株(シクリカル株)の魅力と怖さの根っこには、「オペレーティング・レバレッジ(営業レバレッジ)」があります。設備や人員など固定費の比率が高いビジネスでは、売上が少し増えただけでも利益が急拡大し、逆に売上が少し落ちるだけでも一気に赤字に転落します。

 景気悪化局面では固定費負担で大きな損失が出ますが、需要が戻って稼働率が上がると、同じ固定費の上に売上が乗ることで利益が急回復するため、「どん底からのV字回復」が数字上、とてもドラマチックに見えるわけです。

 たーちゃんさんの循環株投資は、この構造を前提に「売上・数量が戻り始めた段階で、オペレーティング・レバレッジが効いてくる前に仕込む」という発想とも言えます。

たーちゃんさんが古典的産業に重心を置くのは、「一時的な不況」と「構造的な沈没」を見分けるための1つのフィルターになっているように見える

 では、どのビジネスが本当に回復し、どれが沈んだままなのかをどう見分けるかというと、「需要が本質的に残るか」と「競争環境が大きく変わっていないか」が鍵だと思います。

 生活に必須のサービス(電力・物流・インフラ関連など)や、景気に振られつつも長期的には人類が使い続けるコモディティ(鉄・銅・エネルギー・肥料など)は、需給バランスが崩れても、どこかの段階で価格と供給量が調整され、サイクルとして戻ってくる可能性が高いです。

 一方で、技術革新で需要そのものが消えていく分野や、プレイヤー構造が激変して過去の勝ち組が構造的な負け組に回った業界は、「サイクル」ではなく「構造不況」になりやすいと言えます。

 たーちゃんさんが、技術革新のスピードが比較的遅く、プレイヤーの顔ぶれも大きく変わりにくい古典的産業に重心を置くのは、「一時的な不況」と「構造的な沈没」を見分けるための1つのフィルターになっているように見えます。

 個人投資家も、このシクリカルバリュー投資をポートフォリオの一部で試すことはできると思いますが、ポートフォリオの全額で真似するのは現実的ではないし、おすすめしにくいと感じます。

自分も海運株で大きな利益を得たことがあったが、「どこで降りるか」を決めるのが非常に難しかった

 自分自身、キャリアの比較的初期に、海運株のスーパーサイクル局面でこのような発想を実践したことがあります。

 当時、すでに海運株は一度大きく上昇したあとで、PERは1桁台と一見割安。しかし、「循環株はピーク時ほどPERが低く見える」というセオリーがある中、中国のスーパーサイクルが続くと判断し、「業績の第2波・第3波」が来ると見て投資しました。

 その結果、投資額の数倍に相当する利益を得ることができましたが、同時に「どこで降りるか」を自分で決めなければならず、そこが一番の難所でした。2008年頃のピークでなんとか利確できたものの、その後、海運株は長い冬に入り、実質的に底打ちしたのは2020年前後と、約12年もの休眠期間が続きました。

[参考記事]
私の歩んできた道(3) アメリカの名門投信会社フィデリティで経験したシクリカル銘柄の見極め方。銀行株はもう追いかけない方がいい。その理由とは?

日本郵船 月足日本郵船チャート/月足・30年(出典:SBI証券公式サイト) ※画像をクリックすると最新のチャートへ飛びます

 つまり、シクリカルバリュー投資は「入り口」も難しいですが、「出口」の見極めはさらにアートに近く、サイクルが一巡するまでの時間も想像以上に長くなり得る、というのが私の実感です。

たーちゃんさんの投資スタイルから得られる3つの示唆とは?

 たーちゃんさんの投資スタイルから得られる示唆として大きいのは、(1)徹底した勉強量、(2)個別企業・業界への深い分析、(3)それでも残る「運」と「不確実性」の存在、の3つだと思います。

 たーちゃんさん自身、何百冊もの投資本を読み、企業の開示資料を丹念に読み込み、詳細なレポートを書いて仮説を組み立てていますが、それでも投資結果は常に確率ゲームに止まっています。

 学習と分析は「期待値」を改善するためのものであって、どれだけ勉強しても勝率が100%になることはなく、ライフイベントやマクロ環境、経営者の判断ミスなど、自分のコントロール外の要因が結果を左右してしまうことも多いでしょう。

 だからこそ、本人は大きなリスクを取る一方で、自分の家族には分散投資を勧めているという点が象徴的で、「どれだけ勉強してもリスクは消えない」「自分はリスクを取りたいが、家族に同じリスクは負わせない」という姿勢に、現実的なリスク認識がよく表れているように感じました。

 

●ポール・サイ  ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。

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