投資の世界では、常に「最も優れた投資法」や「これだけやれば安心」といった正解を求める声が絶えません。
しかし、プロの視点から言えば、「万人に共通する一律の正解」など存在しません。あるのは、あなた自身のライフプラン、リスク許容度、そして目標リターンに最適化された「納得感のある戦略」だけです。
大切なのは、特定の投資手法を盲信することではなく、あらゆる投資判断には必ず「トレードオフ(代償)」が存在することを正しく理解することです。
資産クラス別の「リスクとリターン」の正体
私たちが投資先を選ぶ際、それぞれの資産が持つ優れた特性と、その引き換えに支払う代償を冷静に比較する必要があります。
主な資産クラスについて、以下、その比較をまとめてみたいと思います。
●短期債など(MMF(マネー・マーケット・ファンド)など):金利変動リスクを抑え、高い流動性を確保できます。しかし、その代償として、株式のような大きなキャピタルゲインを享受する可能性を完全に放棄することになります。
●長期債:通常、短期債より高い利回りが期待できますが、金利上昇時の価格下落リスクや発行体の信用リスクは短期債より高くなります。
●定期預金:元本の安全性は高いものの、一定期間、資金が拘束される「流動性の欠如」をコストとして支払います。
●株式:長期的には高いリターンが期待でき、長期的な資産形成の強力な武器となりますが、その対価として、激しい価格変動(ボラティリティ)を「精神的コスト」として支払い続ける覚悟が求められます。
●不動産:安定した収入を得られ、インフレヘッジにもなりますが、現金化に時間がかかる「低い流動性」と「管理コスト」がその代償となります。
●金(ゴールド):有事の安全資産になりますが、利息や配当を産まない(インカムがない)という「機会費用」が発生します。
●ビットコインなどの暗号資産:既存の金融システムに依存しない新しい資産クラスとして爆発的なリターンが得られる可能性があります。しかし、その代償は株式をも上回る極めて激しい価格変動であり、短期間で資産の大部分を失う可能性があるという「圧倒的なダウンサイド・リスク」を受け入れなければなりません。
日本人が日本円という現金で資産を持っていることは一見、ごく普通のことに思えるが、そこには大きな2つのリスクが隠れている
多くの日本人が「最も安全な選択肢」だと信じている日本円の現金保有にも、支払う代償はあります。日本円の現金も絶対安全な例外とは言えないのです。
日本人が日本円という現金で資産を持っていることは一見、ごく普通の自然なことに思えますが、これは実は「日本円」という特定の通貨に100%集中投資している状態になります。
そして、そこには、次に示す通り、表面上は見えにくい2つの大きなリスクが隠れています。
(1)購買力リスク(インフレリスク):物価が上昇すれば、現金の額面が変わらなくても、そのお金で買えるものは減ります。これは実質的には損失が発生している状態と言えます。
(2)通貨リスクと輸入インフレ:日本国内だけで日本円を使って生活している人に一見、為替相場は関係なさそうに思えますが、為替が円安に進めば、日本国内でエネルギー価格や食料品価格が上昇します。結果として「円安がインフレを招く」という形で、現金保有者の生活を直撃するのです。
「何もしないこと(現金保有のまま)」は決してリスクゼロではなく、知らず知らずのうちにインフレと円安というリスクを負っているのです。
米ドル/円 月足 出所:TradingView
リスクとリターンのバランスをどうとるか。投資の本質は自分のニーズに最も適した組み合わせを自ら選び取ることにある
また、リスクを恐れて投資を控えることは、その資金を適切に運用していれば得られたはずの収益を捨てている「機会損失」ということでもあります。
結局のところ、完璧な投資先などどこにもありません。「流動性を取ってリターンを削るのか」「将来の購買力を守るために、目先の価格変動を我慢するのか」。投資の本質とは、こうしたトレードオフの中から、自分のニーズに最も適した組み合わせを自ら選び取ることにあるのです。
世の中の流行や他人の成功事例ではなく、自分がどのリスクを許容し、どのリターンを優先するか。その「リスクという名のコスト」を正しく認識し、納得して、その代償を支払える戦略を選んでください。それこそが、あなたにとっての唯一無二の「正解」になるはずです。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
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