元フィデリティ投信トップアナリストで、米国・シアトルからザイ投資戦略メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」で情報配信をしているポール・サイさんが、東京MX2で毎週月曜~金曜22時から放送されている、「WORLD MARKETZ」にゲスト出演した。

AIを使えば、エンジニア3人で半年かかりそうなアプリが半日で作れる!? ポール・サイ氏がヨット用アプリを自作
番組は、シアトル在住ストラテジストのポール・サイさんが、新たにAIを活用して作ったヨット向けアプリ「TidePush(タイドプッシュ)」の話から始まった。
(出所:WORLD MARKETZ)
ポールさんによると、ヨットで航行する水路には狭い場所や潮流が強い場所があり、向かい風や逆向きの潮流にぶつかると、目的地までの所要時間が大きく変わってしまうという。
そこでTidePushでは、自分の船の速度、潮流の予測、風の予測などを組み合わせ、ヨットが潮に押してもらえるような最適な出発時間を計算する。
番組MCの渡部一実さんが「何ノットで航行すれば波に乗りやすいかといったことまで計算して、出発時間や旅行プランを立てるようなアプリなのか」と尋ねると、ポールさんは、潮流など複数の条件を組み合わせて最適なタイミングを割り出すアプリだと説明した。
驚くのは、その開発にかかった時間だ。
ポールさんの感覚では、従来ならエンジニア3人ほどで半年程度かかってもおかしくない仕事だったが、AIを使ったことで、わずか半日で開発できたという。
開発時間が大幅に圧縮されたことで、これまでなら採算や手間を考えて見送っていたような趣味のプロジェクトも、気軽に形にできるようになったそうだ。
TidePushはニッチなサービスということもあり、基本的には無料で公開。最初のページから7ドルのチップを送れる仕組みにしており、すでに実際にチップをくれたユーザーもいるとのことだった。
AIを自分で使うことも投資調査の1つ。ピーター・リンチのように「身の回り」から投資のヒントを探す
渡部さんは、ポールさんが株式投資をするだけでなく、実際に自分でAIを使っていることに注目した。
自分で使えるサービスや技術は実際に使ってみる。それによって、その技術がどれくらい便利なのか、世の中にどれくらい広がりそうなのかを理解することも、投資判断のヒントになるのではないかと尋ねた。
ポールさんは、著名投資家ピーター・リンチの投資手法を引き合いに出した。
ピーター・リンチは日常生活の中から投資のヒントを探し、「この店にはいつもお客さんが多い」「この商品が最近よく売れている」といった身近な変化から、ウォール街より先に成長企業へ気づくことがあると説いていた。
個人投資家も同じで、自分が働いている業界や得意分野であれば、外部の人より変化を把握しやすい。
ポールさんにとってTidePushは、自分自身が使うために作ったアプリである一方、「AIとは実際にどこまでできるものなのか」を確かめるための投資調査でもあるということだ。
鉄道や光ファイバーのバブルと違い、今のAIはまだ「供給より需要が強い」
続いて話題は、AI関連株のバブル論へ移った。
ポールさんはこれまで、19世紀の英国や米国で起きた鉄道バブル、1990年代のドットコムバブルなどと、現在のAIブームを比較してきた。
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鉄道バブルでは大量の線路が建設され、ドットコムバブルでは大量の光ファイバーが敷設された。しかし、当時は設備の供給に需要が追いつかず、事業会社の破綻や株価急落につながった。
一方、ポールさんは現在のAIについて、投資額はGDP全体に対する比率で見ても、まだ明らかに過剰とは言えず、実際の需要も存在していると指摘する。
ドットコムバブル期には、利益を出していないインターネット企業も多かったが、現在のAI関連事業には実際に利益を出している企業も多いという違いもある。
さらに、鉄道がモノを運び、光ファイバーが情報を運ぶインフラだったのに対し、AIは「知恵そのもの」を供給する技術だとポールさんは見る。
AIへの需要は非常に強く、現時点では需要に対して物理的な供給が追いつかない状況にあるため、まだAIの需給バランスは崩れていないとの見方を示した。
ただし、AIが永遠にバブルにならないという見方でもないという。
鉄道や光ファイバーも、最終的には需要が追いついたものの、最初に供給が増えすぎたことでバブルが崩壊した。
AIについても、いつか供給が増えすぎる局面は来るとポールさんは考えている。ただ、現時点では、まだその段階まで少し時間があるのではないかと見ているようだ。
AI時代にソフトウェア会社を見るときは、重要なのは簡単にまねできない強みがあるかどうか
では、AI時代にはどんな企業が強く、どんな企業が苦しくなるのだろうか。
ポールさん自身、TidePushを半日で作れた経験から、ソフトウェアそのものを作ることのハードルは急速に下がっていると実感している。
誰でも簡単にソフトウェアを作れるようになれば、単純にソフトウェアを開発できるだけでは、それ自体が競争力にならなくなる。
一方で、すべてのソフトウェア企業が同じようにAIに脅かされるわけではないという。
ポールさんが重視するのは、エコシステムや既存のビジネスプロセス、ネットワークなど、簡単にはまねできない強みを持っているかどうかだ。
例えば、ポールさんがAIを使ってヨット用アプリを半日で作ることはできても、翌日にマイクロソフトの「Word」や「Excel」をそのまま再現することはできない。
Facebookのようなサービスも、単に同じような画面や機能を作ればいいわけではなく、長年かけて形成された巨大なユーザーネットワークが必要になる。
アマゾンも同様で、ウェブサイトやプログラムだけではなく、物流網やマーケットプレイスなど、物理的・事業的なインフラを持っている。
だからこそポールさんは、AI時代にソフトウェア会社を見るときは、「その会社の根本的な強みはどこにあるのか」を見分けなければならないと強調した。
セールスフォースは「簡単には代替できない」。ソフトウェア株を一括りにして売るのは間違い?
番組では、企業向けソフトウェア大手のセールスフォースについても話が及んだ。
2026年前半にはセールスフォースやアドビなどのソフトウェア株が弱く、「AIの普及で既存ソフトウェア企業は厳しくなる」との見方から売られる場面もあった。
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セールスフォース 週足 (出所:TradingView)
しかし、ポールさんは「ソフトウェア会社はすべてダメになる」という見方は少し乱暴だと考えている。
セールスフォースは、さまざまな企業の中心的な業務プロセスに深く関わっており、1つのエコシステムを形成している。
そのため、同じようなソフトウェアをAIで作ればすぐに代替できるというものではなく、株価も売られ過ぎだったのではないかとの見方を示した。
もちろん、すべてのソフトウェア会社が生き残れるわけではない。
AIによって簡単に代替される会社もある一方で、セールスフォースのように既存顧客や業務プロセス、エコシステムを持つ会社は、AIを自ら取り込むことで競争力を維持できる可能性があるという。
ポールさんは、セールスフォースだけでなく、マイクロソフトやアマゾンなどの大手企業も、AIを積極的に取り込もうとしていると指摘。
AIを取り込めなければ将来は厳しいが、既存の強力なエコシステムにAIを組み合わせられる企業には、依然として強みがあると考えているようだ。
メモリーやAIそのものはコモディティ化する可能性も。AI株は「需給サイクル」を見極める必要がある
一方で、ポールさんは、AI関連なら何でも長期的な競争力を持てるわけではないとも指摘する。
メモリーチップなどは、製品の差別化が難しくなればコモディティ化しやすい。
AIモデルやAIサービスについても、計算能力そのものを提供するだけで差別化が難しくなれば、同じように価格競争へ向かう可能性がある。
そうなると企業の利益や株価は、長期的な競争優位よりも需給サイクルに左右されやすくなる。
需要に対して供給が不足している時には価格や株価が上がる一方、投資が増えすぎて供給過剰になれば、今度は下落するという構図だ。
現在のAI市場では需要が強く、まだ需給はタイトな状態だとポールさんは見ている。
ただ、いつか供給が需要を追い越す局面は来るかもしれない。
だからこそAI関連株は、エコシステムやネットワークといった代替されにくい強みを持つ企業なのか、需給サイクルに左右されやすい企業なのかを見極めることが重要になりそうだ。
ここまで、8月19日(水)に放送された「WORLD MARKETZ」の模様をお伝えした。
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●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。著書『台湾系アメリカ人が教える米国株で一生安心のお金をつくる方法』を発売中。

















