設定からまだ3年半程度で、日本での純資産残高が1.3兆円を超えたフィデリティの人気ファンドとは?
日本で人気の「フィデリティ・グロース・オポチュニティ・ファンド」。この投資信託は為替ヘッジや毎月分配金の有無で4つのコースに分かれていますが、その中のDコースだけで純資産は1.3兆円を超えています。2023年3月の設定から3年しか経っていないのにです。
その本体はアメリカの「フィデリティ・アドバイザー・グロース・オポチュニティーズ・ファンド」(運用資産約330億ドル、カイル・ウィーバーが2015年から運用。以下、「グロース・オポチュニティーズ・ファンド」と略)です。
フィデリティ・アドバイザー・グロース・オポチュニティーズ・ファンド公式ページ 出所:フィデリティ公式サイト
私はこのファンドのSEC(米証券取引委員会)提出書類(全保有銘柄と株数)と7月末の全保有リストを、ウィル・ダノフのコントラファンドと同じ手法で分析しました。
[ウィル・ダノフのコントラファンドに関する参考記事]
●「年率14%を35年」──一見、地味な数字がテンバガー以上のものを生む理由とは? ピーター・リンチのDNAを受け継いだウィル・ダノフのコントラ戦略
AI強気は共通。違いは「AIの何を持つか」と「半導体メモリー株への姿勢」
元フィデリティの調査部門責任者である私が、同社の看板ファンド2つ、「グロース・オポチュニティーズ・ファンド」と「コントラファンド」を並べてみて、見えてきたことを3つにまとめます。
結論を先に言います。AI強気は共通。違いは「AIの何を持つか」と「半導体メモリー株への姿勢」。そして後者について、私はコントラファンド側です。
(1)2つのファンド、その半分は同じ
保有銘柄を比べると、2つのファンドのポートフォリオはほぼ半分(48%)が重なっています。エヌビディア、アルファベット、アマゾン、メタ、アップル、マイクロソフト、ブロードコム、TSMC、イーライリリー、ビザ、スペースX。中核となる顔ぶれは同じです。
AI関連銘柄の比率は、私の定義(半導体・半導体製造装置・インフラ・クラウド大手・AI研究所・AIソフト)で、コントラファンドが49%、グロース・オポチュニティーズ・ファンドが72%でした。ちなみにS&P500のこの比率は41%です。
ただし、ここで公平な見方を1つ。
グロース・オポチュニティーズ・ファンドの本来のベンチマークはS&P500ではなく、ラッセル1000グロースなのです。
ラッセル1000グロースという指数は、私の定義では62%がAI関連銘柄になります。つまりグロース・オポチュニティーズ・ファンドの72%という比率は、ベンチマークとする指数より10ポイント多いにすぎません。
一方、コントラファンドのベンチマークはS&P500です。そして、コントラファンドの49%というAI関連銘柄比率は、ベンチマークのS&P500より9ポイント多くなっています。
2つのファンドは、それぞれのベンチマークを基準にすると同じくらい──約10ポイントずつ──AI関連銘柄に傾けている、というのが正確な言い方になります。
運用スタイルも世代も違う2人が、揃ってベンチマークとなる指数より一段とAIに張っている。これはファンドマネジャー個人の思いつきではなく、フィデリティという会社の調査体制が出した答えと読むべきです。
ウィル・ダノフが今年(2026年)末に引退しても、この方向性は変わらないでしょう。
[参考記事]
●「年率14%を35年」──一見、地味な数字がテンバガー以上のものを生む理由とは? ピーター・リンチのDNAを受け継いだウィル・ダノフのコントラ戦略
(2)2つのファンドの違いは「中核銘柄の周りの部分」
(1)で述べた通り、2つのファンドのポートフォリオは約半分が重なっているわけですが、では、重なっていない残りの部分はどうなっているのでしょうか?
●コントラファンドの残り半分は、バークシャー、ビザ、研究機器のサーモフィッシャー、たばこ、ホームセンター。「通行料を取るビジネス」と「金鉱のつるはし売り」。また、金融も指数並みの10%ほど持っています。
●グロース・オポチュニティーズ・ファンドの残り3割弱は、カーバナ、Sea、Roblox、中型バイオ、航空会社2社。つまり第2の成長株ポートフォリオです。金融は2.7%、生活必需品とエネルギーはほぼゼロ。マイクロソフトは5.7%(コントラファンドは2.7%)。
そして、グロース・オポチュニティーズ・ファンドをベンチマークのラッセル1000グロースと比べると、AIへの賭けの大半は消えます。
エヌビディアは指数並み(15.1%対15.5%)、ブロードコムは指数より少ない(2.3%対4.9%)、アップルとテスラは大幅に少ない。指数と違う部分は業種ではなく、銘柄選びで、アクティブシェア(※)は40%──夏の間に46%から下がりました。
本当に指数と違うのは、ハードディスクや光通信部品、サーバー組立といった「AIの配管」(指数比+6ポイント)、指数に入っていないTSMCとセレブラス、ラッセル1000グロースがほとんど持たないアマゾン、そして、夏に積み増したアルファベットです。
(※編集部注:「アクティブシェア」とは、そのファンドがどれだけベンチマークの指数と異なる運用をしているかを示す指標。数値は0~100%の範囲で動く)
(3)半導体メモリー株で意見が割れた──そして、夏に差が開いた
直近の開示書類で、コントラファンドは半導体メモリー株を売っていたことがわかりました。マイクロンを2割、SKハイニックスを4割減らし、サムスンはゼロに。相場が上がる中での保有額減少ですから、これは株価下落によるものではなく株式売却によるものです。半導体メモリー関連は今やファンドの2%ほどしかありません。
コントラファンド公式ページ 出所:フィデリティ公式サイト
同じ時期、グロース・オポチュニティーズ・ファンドは半導体メモリー株を買っていました。
2~5月の株数を見ると、シーゲートは3.2倍、サンディスクは2.8倍、マイクロンは1.9倍になっています。そして、サムスンを新規に買っています。その資金源となったのはブロードコム株で、こちらは株数を46%減らしています。
そして、7月末の保有リストを見ると、夏にさらに倍にしていました。マイクロンの保有額は5月末から2.3倍(株価の上昇分を除いても株数はほぼ2倍)、シーゲートは1.5倍、ウエスタンデジタルは株価が下がる中で5割増し、SKハイニックスを新規買い。
結局、メモリー・ストレージ関連銘柄の比率は4.4%から7.3%へ増えています。この数字はS&P500の2.7%、ラッセル1000グロースの4.6%を上回っています。
それらを買うための資金は、アマゾン(6.3%→4.1%)、マイクロソフト(7.2%→5.7%)、メタ(4.9%→4.3%)の売却と、10年間保有したRoku(2.6%)の全株式売却から捻出しています。
同じ運用会社の中で正反対の判断が、縮まるどころか、開いているのです。
半導体メモリー株のサイクルはピークを打ったと私は見ている
私の意見を言えば、半導体メモリー株のサイクルはピークを打ったと見ています。
メモリーは半導体の中で最もサイクルが激しく、「足りない」と言われて株価が3倍になったあとには、必ず増産と値崩れがやってきます。
この局面で、グロース・オポチュニティーズ・ファンドのように、半導体メモリー株の株数を春から夏にかけて約2倍にするのは、私なら怖いです。
公平に言えば、同ファンドのメモリー・ストレージ関連銘柄の比率7.3%という数字の半分近くはハードディスク(ウエスタンデジタル、シーゲート)であり、これはDRAMほど波の激しい商売ではありません。
そして、マイクロンとサンディスクの比率はラッセル1000グロースと同程度──「指数より大きく賭けた」というより、「株価が3倍になった銘柄を指数並みまで買い上がった」ととらえるのが正確です。
それでも、この買い方には、ファンド・マネジャーの意思が十分はっきりと表れています。
このファンドを持っている個人投資家が理解しておくべきこととは?
フィデリティ・グロース・オポチュニティ・ファンドを持っている方は、実質的に「AI関連銘柄72%+半導体メモリー銘柄7%」、そして、上位10銘柄で59%を持っていると理解してください。
もしも、個別にエヌビディアや半導体株、メモリー株もお持ちなら、同じ賭けを二重にしていることになります。
良いファンドかと聞かれれば、良いファンドです。ただ、何を持っているかを知った上で持つのと、知らずに持つのとでは、次の下げ相場での行動が変わります。
次回は、このファンドの「クセ」と、7月までの新規・積み増し銘柄を、調べる価値のあるリストとして挙げてみたいと思います。
詳細な分析結果──全保有銘柄、S&P500・ラッセル1000グロースそれぞれに対するアクティブウェイト、株数ベースの売買──は「paultsai.net」に掲載します。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査に12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語に堪能。米国株などの資産運用について助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
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