150年前の730倍の工期削減を生み出したコマツ
大分県の観光名所である青の洞門。石工たちがノミで手で掘った144メートルの「トンネル」ですが、1763年に貫通しました。工期は30年。1年で5メートルの「生産性」でした。今、トンネルはシールドマシンでは電車2編成が通れるだけのスペースを確保しつつ、1日に10メートルを掘り進めます。
今回、ご紹介するのはコマツ(6301) (登記社名 株式会社小松製作所)です。戦後復興期にブルドーザで飛躍した企業です。
ブルドーザは機械的な力で土砂等を押し運ぶものです。
その後、建設インフラ分野での主役はブルドーザから油圧ショベルへと劇的に移りました。油圧システムが工業化されたのは60年代のことです。まだ、油圧の工業化の歴史は浅いのです。その後、機械式の建機は順次、油圧となりました。
日本で油圧ショベルが大きく飛躍したのは前回の東京五輪。これは1964年のこと。都市部のインフラ投資の増大による飛躍でした。
欧米では1960年代は、まだ機械式が主流でしたので、日本勢は油圧式の輸出で勢力をグローバルに拡大していきました。コマツなどの日本勢が油圧ショベルで、これほどまでに国際競争力をつけた背景には何があったのでしょうか。
日本の建機が強くなった背景ですが、思いつくだけで4つほどあると思います。
1) 日本は国土が狭い。小型化と油圧性能という相反する要素を両立したこと
2) 日本は地盤が東と西で違う。川もあれば山もある多様な地盤に対応しなければならなかったこと
3) 油圧部材メーカーの開発力が高いこと
4) ライバルとも協力し、オールジャパンで共同研究に取り組み、石炭露天掘り技術を確立したことも新市場の開拓に寄与しました。ブリヂストンの大型タイヤ、三菱重工のエンジンなどが貢献したのです。
ただし、国際競争力が高いだけでは業績は拡大できません。社会の大きな需要を捕まえる必要があるのです。成長するためには。
その点、油圧ショベルは、成長力のある商品でした。なぜなら、ショベルは、先端を変えると切削も吊り上げも積むこともできるからです。つまり、建設現場の多様なニーズを同時に満たす商品なのです。
コマツの株価は17年間で8倍、50年間で40倍に
さて、肝心のコマツの株価ですが、2002年の300円から2019年には2600円と8倍の水準となりました。1960年代は60円でしたので、その頃からは40倍になっております。このように、世界標準的な成長商品を保有できると株価というものは数十倍になります。これが長期投資の考え方です。
競争力があるかないかの判断は、営業利益率を見れば一目瞭然です。コマツの利益率は二桁以上あります。競争力に問題はありません。株式投資は単純に考えてください。利益率が低いと競争が厳しい。よって、長期保有に適さないと判断します。
地域的に、中国がお得意様なのですが、如何せん、短期的には米中貿易摩擦とローカルメーカーの追い上げもあって、中国市場が大幅減収です。こんなことでは、将来大丈夫かなあと心配してしまうのが人情です。
そこで質問です。コマツの扱っているものは、何でしょうか。
食品ですか?
いいえ。違います。
生産材。機械。それもかなり高価なものです。こういう耐久財は景気サイクルの影響を大きく受けるのです。もちろん、建設以上に、鉱山開発や油田の開発といった資源分野は商品市況の影響もあり、よくも悪くも業績のブレが高いものです。
コマツがバリュー株に「見える」のは、景気のサイクルを当てるのが難しいので、その難しさが株価に織り込まれているからです。こういうシクリカルな株は、状況が悪い時が投資タイミングです。
つまり、下方修正の後とか、株価が下がった後とかに買うのが投資の定石です。そういう意味では、今のタイミングは悪くはありません。
過去も現在も未来もコマツの成長を支えるのは、都市開発のインフラです。
未来はどうでしょう。都市開発の需要は確実に伸びるはずです。
なぜならば、都市は、時代に合わせて新しく作り変えていく必要があるからです。そして、高齢化の時代は、都市化が進展していくからです。バリヤフリーにしなければなりません。災害に強くなければなりません。自動運転に適する道路やIoTに適する通信ケーブルや電線を整備します。温暖化が進む地球では、世界中の河川や海岸の堤防は作り直す必要があります。オランダではすべての堤防を2メートルほど高くして国土を守ります。日本も土砂災害、河川氾濫、津波対策など、やるべきことだらけです。
都市開発では、建物が高層化し、深度もどんどん深くなります。所有権が及ばない地下200メートルよりも深いところで、リニア新幹線の駅が作られます。地下に駐車場。地上は高層化。そのために、建機はこれまで以上にどうしても必要となります。
さて、コマツでは先進国と新興国では、新興国を戦略市場としております。もちろん、それでよいのですが、先進国でさえ、かなりの仕事が待ち受けているのです。例えば小型の建機の自動運転は省人化に大きく寄与します。先進国でも買い替え需要は喚起できるはずです。
商品開発も終わりがありません。油圧システムはアナログ技術であり、工夫の余地が残されています。例えば、建機内部の配管の圧力損失はまだ大きすぎると私は思います。ねじ一つ。継手一つをばかにしないで工夫に取り組むことで世界に勝てるのです。
コマツに期待したいのはこれまで通りの経営者と社員のハードワークの維持です。開発も、販売も、組織運営もこれまで通りコマツウェイ(Komatsu Way)でいけばよいのです。
それができる組織だから、株価は50年で40倍になったのです。
コマツの株価の今後の展開は、これまでとまったく同じと想定します。大きなボラティリティを伴いつつ、上昇していくでしょう。50年で40倍ぐらいが目処です。
(DFR投資助言者 山本潤)
コマツの投資判断、目標株価はメルマガ会員ページで公表しています。
この連載は、10年で資産10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページでさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。