「失われた30年」の日本で成長し続ける上場企業が存在する理由
今回は長期投資をデザインするコラムの3回目です。1回目は企業の永続性について、2回目は株価が長期で上昇する根拠について解説しました。今回は成熟国家である日本の上場企業に投資することが優れているのかを検証します。
1970年~1980年代、喫茶店といえば個人経営店が多数を占めていましたが、今はどうでしょうか。ドトールやコメダ珈琲など大手飲食チェーンが席巻しています。また、地方にある駅前通り商店街の多くはシャッター街と化し、そこにあった魚屋や八百屋は大手スーパー、電器屋は大手家電量販店、酒屋はコンビニに取って代わられるなど、多くの個人経営店が淘汰されました。つまり、成熟産業にも新陳代謝はあり、市場シェアを取れる企業は成長余地があるのです。
中小企業は全国に約300万社ありますが、ほとんどは利益が出ていません。その理由は、オーナー経営者は節税を優先し、収益に少し余裕ができると社会還元より、自らの暮らしを良くするために頑張る傾向があるからです。儲かるにつれて徐々に贅沢になり、節税目的で高級外車を購入したり、接待目的で高級クラブで豪遊したりしてしまうのです。
一方、上場企業はどうでしょうか? 部長以上のクラスだと経費を使える金額や裁量は大きいものの、株主や社会などステークホルダーへの責任があるため、使い方は厳しく問われます。例えば、社長が「運転手付きのベンツが欲しい」と言っても、ガバナンス(統治)が効いている企業だと「社長、何をおっしゃっているのですか? そんなことに株主のお金を使うなら優秀な人材をもっと採用しましょう」と言われたりします。
様々なステークホルダーによるガバナンス(統治)が上場企業の強み
PER100倍という市場から高評価の上場企業のIR担当者が「社員一人一人が、今ここで2000円のタクシーに乗れば、100倍に当たる時価総額20万円の価値が失われる。そうならないよう200円の電車に乗って我慢しよう心がけている」とおっしゃっていました。一方、中小企業のオーナー経営者の多くは「会社が稼いだ金を使いたいように使って何が悪い。節税目的で経費を使った方が得だ」と考えてしまう傾向があります。
両者のスタンスの違いは決定的で、将来の趨勢は自ずから確定します。上場企業には利益が残り、それを内部留保し、将来の投資を可能にします。一方、中小企業には利益が残らず、将来に必要な投資ができません。つまり、ガバナンスが効きにくい中小企業は成長が停滞しがちで、ガバナンスが効く上場企業は成長が続きやすいのです。
中小企業の社員に対する資本の装備率は大企業の約4分の1に過ぎません。年収も2割程度も低く、労働環境も過酷なイメージがあります。もちろん、中小企業の中にも素晴らしい経営をしている企業も数多くあるのは承知していますが、平均的なイメージはそうなのです。
適切な「ストックピック」で投資成績はさらに上がる
投資家の立場として見ると、上場企業の圧倒的な優位性こそが投資妙味につながり、成長期待が乏しい中小企業への投資妙味は少ないと言えます。毎年しっかりと経営努力をし、内部留保を積み上げ、再投資している上場企業は日本経済が成熟していても、中小零細企業を圧倒し、成長を続けることができるのです。
ここで勘が良い方は、「上場企業だってピンキリなのでは?」と思うでしょう。まさにその通りです。上場企業もピンキリです。ここにファンドマネジャーや証券アナリストの存在意義があるのです。上場企業を適切にピックアップできてこそ、十分な投資成果を上げられるのです。
投資対象とすべき企業は2種類あります。1つ目が、今もガバナンスがしっかりしており、今後も大丈夫そうな企業。2つ目が、今はガバナンスがだめだけれど、今後良くなりそうな企業です。一方、投資対象にすべきでない企業は、今はガバナンスがよいけど今後悪くなりそうな企業と、今も今後もガバナンスが悪い企業です。
株式投資が難しいのは、絶対水準の評価と、相対水準の変化の評価が混在するからです。ダメな企業が良くなる場合、最も変化率が大きいので株価のアップサイドも大きいものの、残念ながら往々にして成功する確率は低く、競馬で例えると万馬券みたいなものです。一方、現在の絶対水準が高い企業は、今後良くなる確率が高いものの、株価のアップサイドはそれほど大きく狙えません。競馬で例えると、一番人気の馬券のようなものです。
(DFR投資助言者 山本潤)
この連載は、10年で資産10倍を目指す個人のための資産運用メルマガ『山本潤の超成長株投資の真髄』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページでさらに詳しい銘柄分析や、資産10倍を目指すポートフォリオの提案と売買アドバイスもご覧いただけます。