株データブックWeb「記者が斬る!」
【第20回】 2012年7月23日公開(2017年12月6日更新)
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ザイ・オンライン編集部

目指すは「スナック界のコマツ」!
中国市場進出に見るカルビー(2229)の成長戦略とは!?
1年半で株価が2.5倍に成長! さらなる株価上昇の可能性を探る

2011年3月11日に新規上場 株価は右肩上がり継続中

 国内スナック最大手のカルビー(2229)の株価が非常に好調だ。

2011年3月11日~12年7月19日・日足 チャート提供:株マップ.com

 同社は2011年3月11日、大震災当日に新規上場。初値は公募価格と同じ2100円。初値が公募価格を数十パーセント上回ることが多い昨今のIPO(新規公開)銘柄の中ではかなり地味なスタートだったが、上のチャートをご覧になればお分かりのとおり、株価は一貫して右肩上がりを続けて今日に至っている。

上場初値を下回る安値をつけたのは上場直後の4日間だけで、しかもその下げ幅は最大4.8%。この数字だけをみると結構な下落幅に思えるが、当時は大震災直後だったことを思い出してほしい。他の銘柄が軒並み2桁下落していたことを思い出せば、驚異的な落ち着きといえる。

 実際、大震災以降もタイの洪水やユーロ危機など日本株はさまざまなネガティブ要因に揺さぶられたのだが、カルビーの株価チャートからはそうした危機の爪痕はみじんもうかがえない。いったいなぜこれほどまで見事なチャートとなったのか。

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国内スナック業界のガリバーとしての安心感

12年3月期はじゃがりこの大ヒットなどで増収増益を達成

 株価好調の要因は主に3つ挙げられる。まずは業績好調な内需株であること。

 2012年3月期、カルビーは計画を上回って11年3月期比5%増収、14%営業増益を達成。ポテト系スナック「じゃがりこ」の大ヒットや、10年10月に近畿地区を皮切りに順次販売エリアを広げてきた野菜系スナック「ベジップス」が本格的に寄与したことなどが要因。続く13年3月期ではさらに4.1%増収・11%営業増益を見込んでおり、しかも12年3月期実績より8円もの増配も計画している。

 ギリシャショックに代表されるような海外の経済情勢に左右されにくい食品というディフェンシブなジャンルでこれほど好業績を続けられる銘柄を放っておく手はない。海外の機関投資家を中心とした買いが続いているという観測がある

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ニューフェースだから「しこり」がない

 株価好調の要因2つ目は、新規上場だから「しこり」がないこと。「しこり」とは、要するに塩漬け株のこと。過去、株価上昇を見込んで買ったはいいがそれ以降は株価が上がらず、そのまま売るに売れなくなっている株だ。株価の上昇時にはそうした「しこり」を解消しようと売りが膨らみ、結局株価の上昇幅が抑えられてしまいがち。

 その点、カルビーはまだ上場してから1年半も経っておらず、株価が大幅に下落した時期もないため、値動きが軽い。こうした、いわゆる需給面によってもカルビー株の上昇は支えられているというわけだ。

 実際、カルビーと同じように食品関連で、なおかつ今期で増収増益を見込んでいる日清食品ホールディングス(2897)やキリンホールディングス(2503)よりも、カルビーのほうが安定した右肩上がりとなっている。

日清食品ホールディングス(2897)2010年7月20日~12年7月19日・日足 チャート提供:株マップ.com
キリンホールディングス(2503)2010年7月20日~12年7月19日・日足 チャート提供:株マップ.com

 株価好調の要因3つ目は、さらなる成長シナリオが提示されていること。その舞台は海外。編集部ではこの要因が一番株価に影響を与えていると考えている。次ページ以降で詳細にご説明したい。

世界ナンバー1のスナックメーカーは?

 冒頭で述べたように、カルビーは国内スナック業界の最大手企業。ポテトチップスでの国内シェアは60%以上に達し、さらに11年3月期に62.5%だったものが12年3月期には63.2%と拡大させている(12年3月期決算説明会資料より)。

 まさに成長を続ける巨人のイメージだが、世界を視野に入れると全く異なる姿が浮かび上がる。というより、世界ではカルビーはほとんど存在感がない。

林康秀さん カルビー執行役員兼海外第一事業本部・本部長

 「世界全体のスナック市場は約10兆円の規模なのですが、そのうち2.5兆円を押さえているのはペプシコ。もう圧倒的に強い」

 そう話すのは、林康秀さん。カルビーの執行役員であり海外第一事業本部の本部長だ。

 ペプシコ。その名のとおりペプシ・コーラの発売元の米国企業だが、売上高で世界第2位の食品メーカーでもあることは日本ではあまり知られていない(ちなみに世界第1位はスイスのネスレ社)。

ペプシコのスナック部門、フリトレーのレイズは世界で最も売れているポテトチップス

 ペプシコ社はペプシ・コーラのほか、ジュースで知られるトロピカーナ、スポーツ飲料のゲータレード、オートミールで有名なクエーカー、そしてスナックなどを担当するフリトレーの5部門に分かれるのだが、そのフリトレーが巨大なのだ。レイズ、ドリトス、チートスなど33ブランドを有しており、なかでも75年以上の歴史をもつレイズのポテトチップスは世界ナンバー1の売上げを誇る

目指すは「スナックのコマツ」

 では、カルビーは世界ではどれくらいの位置にいるのか? イメージとしては「ペプシコから相当離されたところに2位集団がいて、世界中のメーカーがつばぜり合いをしている。わが社はその中の真ん中あたりを走っている」(林さん、以下同)のだそう。「20年後、30年後ならともかく、この10年でペプシコに追いつけるとは思っていない。でも、なんとか2位集団から抜け出してぶっちぎりの2位になりたい」。

 ふと、米国のキャタピラー社と日本のコマツ(6301)の関係を思い浮かべた。両社ともブルドーザーやショベルカーなどの建設機械メーカーで、まさにぶっちぎりの1位だったキャタピラー社を、中国など新興国での需要増を背景にコマツが追いつこうとしている。そのことを話すと林さんは「確かに、大きな夢はスナック界のコマツですね。そういうと、コマツさんには申し訳ないかもしれないけど」と言ってほほ笑んだ。さて、大きな夢は楽しみにとっておくとして、当面の戦略とは?

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売上げの3割は海外で稼ぐ

 先にカルビーは内需系と書いた。まさに現状はまったくそのとおりで、11年3月期実績で売上高全体に占める海外売上の比率はたったの3.3%(12年4月9日開催「中国事業戦略における説明会」の資料より)。

 「現在は5%に届こうとしている段階」ということだが、それを今から9年後の2021年3月期には30%にまで引き上げていこうとしているのだ。

 「これから成長していくためには国内だけでは無理。だから海外部門を強化していこうと」いうことで、従来は1つだった海外事業本部を12年から3つに増やし、それぞれ担当エリアを決めて販売の拡大を図る。

 「グローバル企業になりたい。海外比率30%を目指す。それが、2年前に松本(晃氏・現カルビー代表取締役会長兼CEO)が提示した大きな目標です」

  決算説明会などでこうした将来ビジョンが提示されているために同社の株価は堅調なのだろう。ただ、それをどうやって実現するか? 

 そもそも、30%とはどれくらいの売上げ規模の30%なのか?

 カルビーでは10年後をめどに国内外の総売上高を「現在の3倍以上にはしたいと考えている」(同社広報部)とのこと。12年3月期の売上高が1630億円だから、その3倍というと約5000億円。つまり、現在の総売上とほぼ同じ程度を海外で稼ごうと目論んでいるようだ。

 そのための重点市場は現在の最大市場である北米と、近い将来、北米に次ぐ大市場となる中国。アジア・オセアニアを担当する林さんいわく「ざっくりいえば中国で500億」を稼ぎ出す公算という。

市場は拡大する ただし急げ!

 現在の総売り上げが1630億円のカルビーで、将来の話としても中国だけで500億円というとものすごい数字に思えるが、「同国でのポテトチップスなどのモダンスナック市場は急速に大きくなると見込んでいます。おそらく全体で5000億円を超える規模には成長する。その10%程度、つまり500億円程度を稼ぐのは決して夢ではない」と考えている。

 これから人口ボーナスを迎えるインドネシアやフィリピン、まだまだモダンスナックが普及していないインドなど他のアジア諸国に関しても市場は拡大していくと、同社ではみている。

ただし、急がなければならない。というのも「新興国は今がチャンスなんです。どこの国でも中産階級が多くなり、そのぶん可処分所得も増えている。その影響でスナック市場も急速に伸びている。ここで乗り遅れると」ぶっちぎりの2位どころか、2位集団から脱落しかねない。ペプシコを追うどころの騒ぎではなくなる。

 実際、カルビーはこの1年あまりで韓国、中国、台湾の現地企業と合弁会社を設立し、現地での販売拡大を図る施策を矢継ぎ早に打ち出している。

 「ペプシコはジャガイモの栽培指導から始めて、じっくりとその国の市場を開拓し売り上げを伸ばしていった。我々にはその真似はとうていできない」。だから、その土地の人々が好む味や食感を十分に知っており、なおかつ販売に精通した現地企業と組んでシェア奪取を狙うのがカルビーの戦略、というわけだ。ちなみに中国では、合弁会社の事業開始後5年後に、前述の10%シェア獲得を目指すとしている。

コスト改革や大株主との関係がリスクに?

ポテトチップスうすしお味

 株式市場は現在のところ、こうしたカルビーの戦略を好感をもって受け止めている。今後、きちんとした結果が出てくれば株価はさらなる上昇も期待できそうだ。

 ただし、何事にもリスクはある。まずはコストの問題。

 2012年3月期、カルビーは売上原価率を期初計画よりも1%削減することに成功した(計画58.7%→実績57.7%)。ただし、海外市場を飛躍的に拡大していこうとするなら、よりいっそうの削減が求められるはず。

 編集部がある原宿のコンビニではカルビーの「ポテトチップス うすしお味」(85グラム)や「じゃがりこ たらこバター」(52グラム)が148円で売られている。「あんな値段で売れるのは日本だけ。極端にいえば価格を10分の1にしなければ新興国では売れない」と林さん。

じゃがりこたらこバター

 「インドネシアでもタイでも、一番売れているのはいわゆる『10円商品』。中国だったら1元(約13円)スナック」。いわゆるBOP(Base of the Pyramid、最低所得者層)を相手にしたビジネスが「出来なかったらダメ。世界で戦えない」。しかし、いままで日本というガラパゴス環境で大きくなってきたカルビーが、はたしてそこまでの低価格商品を生み出すコスト削減力を身につけられるかどうか。

 また、先述のペプシコとの関係も今後の展開次第ではリスクになりうる。実はペプシコはカルビーの主要株主(第2位、12年3月期末時点で20.59%を保有)なのだ。09年、両社は戦略的提携契約を締結しているが、その契約ではペプシコとは「日本国内においてはスナック菓子事業を営まない旨の合意がなされていることから当社とは競合関係にはなりえず、また海外の事業展開については何ら制約を受けていない」(12年3月期有価証券報告書より)とカルビーは認識しているが、それはカルビーがまだ海外での存在感が希薄な現状での話ではないだろうか。

12年4月9日開催「中国事業戦略における説明会」資料より。

 ペプシコは現在の中国スナック市場で2位。ただ、1位の台湾のWantWant社(旺旺集団)は米菓中心であり、カルビーと同じモダンスナックの部門ではペプシコがトップ。いくら市場が急速に拡大するとはいえ、5年後にシェア10%を目指すカルビーが中国市場でがむしゃらに攻勢をかけてきた時、ペプシコはそれでも王者の余裕でカルビーに微笑んでいてくれるだろうか? 

 以上、主に中国を中心にカルビーの海外事業に関する展望を記したが、同社は中国以外でも他のアジア諸国や米州、ヨーロッパ、ロシアなどでも今後攻勢を強めていく。

 はたしてその戦略が実を結ぶか否か。もしあなたがカルビー株に関心があり、なおかつ海外旅行がお好きなら、ぜひ現地のスーパーなどのスナック売り場に足を運んでみてほしい。答えはきっとそこにあるはずだ。

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