「勝者のゲーム」と資産運用入門

FRB議長が景気後退の可能性について初言及。暗雲漂うマーケットだが、直近の株価は大きく反発。逆金融相場でグロース銘柄が買われる動きは本物?太田忠の勝者のポートフォリオ 第38回

2022年6月29日公開(2022年6月29日更新)
太田 忠
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酷暑到来で熱中症に注意!先週のマーケットで一番気になったことは…

 先週は毎月恒例の奈良公園での写真撮影&ワーケーションだったが、屋外に出るとビックリするほど汗だくになった。日曜日には「群馬の伊勢崎で6月初の40℃超えを記録」というニュースでビックリし、さらに6月にもかかわらず全国各地で「梅雨明け」のニュースを見てさらにビックリ。私が住む東京の降水量は例年の半分しかなく、ほとんど梅雨を感じさせずに真夏がやって来た…。熱中症のシーズン本番、皆さんも十分に注意していただきたい。

 さて、先週私が一番気になったのが米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の議会証言だ。発言の冒頭で「今後の利上げは経済データに応じて機敏に対応する」と述べ、6月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ幅を従来明言していた0.50%ではなく0.75%に加速させたことに関して、直前に公表された5月のCPI(消費者物価指数)が予想を上回ったことについて触れながら「我々の考え方を可能な限り明確に示し、会合ごとに決定を下していく」と強調した。

FRB議長が一連の利上げが景気後退を呼び込む懸念について初めて言及

 ここまでは既定路線だ。興味深かったのは、その後の質疑で、一連の利上げが景気後退を呼び込む懸念について聞かれ「確かに可能性はある」と認めたことだ。パウエル議長が公式の場で「景気減速の可能性」について語ったのは初めてである。ただし、足元の米経済は強いという認識があるからこそ積極的な利上げを続ける姿勢を崩さなかった。

 パウエル議長は「率直に言えば労働市場を健全に保ったまま物価安定を目指すという我々の望みは、この数カ月間でより難しくなっている」と心中を吐露したが、インフレを牽引するガソリンや食品の価格に金融政策の効果が及びにくいのは当然で、中央銀行として今回のインフレは非常にやっかいな存在だと思う。

 議長の景気減速の可能性についての言及を受けて再確認したが、米債券市場は「逆イールド」の形になっており、今後の景気減速を示唆している(第26回のコラムで解説)。3月29日に2年物の国債利回りが一時、10年債を上回る「逆イールド」が発生し、2019年の夏以来、約2年半ぶりの出現となった。逆イールドの出現は「景気後退のシグナル」とされており、3月末の時点でFRBが今後金融引き締めに動くことで景気が冷え込む展開を投資家が早くも織り込む動きをみせていたのだ。

米国の政策金利が3%を超えれば、逆金融相場に入りに

 通常、長短金利逆転の動きはありえないが、短期金利は足元の金利動向の影響を受けやすく、長期金利は長期的な景気見通しの影響を受けやすい特徴が逆転現象をもたらしている。現在の債券市場では、FRBによる金融正常化の動きで足元の金利が上がっているため短期金利は上昇しやすく、一方の長期金利はウクライナ情勢や商品価格市場の高騰などがもたらす不透明感により景気見通しに自信が持てず金利が上がりにくい。なので、逆イールドが発生したというわけである。

 前回の第37回のコラムにおいて「堅調だった日本市場も逆金融相場入りへ」との話をした。判断の根拠は2点ある。まず一つ目はFRBが2022年末時点の政策金利の見通しを2.75%から3.4%まで引き上げたこと。景気を冷やしもふかしもしないちょうど居心地の良い中立金利は2.5%。米国の政策金利が3%を超える状況になれば、業績相場は耐え切れなくなり逆金融相場に入るシナリオが現実化する。二つ目がマイナス金利政策推進の筆頭だったスイス国立銀行が政策金利を-0.75%から-0.25%へ0.50%引き上げたことだ。物価上昇率は日本と同じく2%台のスイスでもインフレ対策が不可欠になっており、大きなネガティブサプライズだった。

 パウエル議長が景気減速発言、ということになれば「逆金融相場」を通り越して、「逆業績相場」の次元の話になる。ところが先週のマーケットは日米市場とも大幅反発となった。これは私が前回のコラムで「逆金融相場入りとなっても、すべての銘柄が一気に下落するわけではない」「来週は相場全体が反転する可能性もある」と述べたが、まさにその通りの展開だ。

逆金融相場下でグロースや新興銘柄が買われる興味深い現象が発生

 しかも、反発したマーケットで実に興味深い現象が起こった。それは三菱商事(8058)や三菱重工業(7011)のような一貫して上昇していた銘柄が大きく下げ(バリュエーションはまだ割安)、一方でこれまで一貫して売られていたグロースや新興銘柄が買われる(バリュエーションはまだ割高)動きが出たことである。米国市場も反発しているが、「金融引き締め→景気減速→景気敏感株の売りvsディフェンシブ&グロースの買い」という流れである。

 ディフェンシブが買われるのは理屈にあっていると思うが、通常、逆金融相場ではグロースや新興銘柄は割高感から売られる。ところが「景気減速下ではこれらの銘柄が景気敏感株より健闘する」との思惑が働いているように見える。逆金融相場の中で今後もこのような動きがちらほら見られる可能性も否定できず、非常に興味深い動きである。先週の現象が「打ち上げ花火的な単発的動きなのか、はたまた叩き売られたグロースや新興銘柄を買うチャンスの到来なのか…」。さらに付け加えれば、逆金融相場の中で景気減速のマクロ指標が相次いだ場合に「インフレ緩和でマーケットにはプラスになる」との見方が出てくるかどうか。今週以降も要ウオッチである。

●太田 忠

DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

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