「勝者のゲーム」と資産運用入門

「老後2000万円問題」は「実年齢マイナス50歳」の生き方に解決のヒントあり! 人生100年時代におけるマネーデザイン術太田忠の勝者のポートフォリオ 第41回

2022年7月20日公開(2022年7月20日更新)
太田 忠
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人生100年時代、50歳以降の年齢は「実年齢マイナス50歳」と考える

 今回のテーマは、前回の第40回コラム『人生100年時代における時間の考え方とは?』の続きである。前回のコラムで私は皆さんに重要なことをお伝えしたつもりである。それは人生100年時代においては「50歳を迎えた後は、人生をリセットした第二の人生が始まると自覚しないといけない」というメッセージだ。すなわち、「実年齢マイナス50歳」との考え方に立つことが大事だと。そう考えることで、平均寿命から逆算して「あと何年生きるのかなぁ…」みたいなネガティブな発想がなくなる。そして、これが実は今回のテーマである「老後2000万円問題」の取り組みへのキーポイントに繋がってくる。

 老後2000万円問題についてはよくご存知だと思うが、今一度きちんと確認しておきたい。老後2000万円問題とは、2019年に金融庁が公表した報告書で提起された。金融審議会の市場ワーキング・グループが「老後20~30 年間で約1300 万円(20年)~2000 万円(30年)が不足する」という明確な試算を出したため社会的に物議を醸した。

年金だけでは老後資金が不足することを露呈した「老後2000万円問題」

 2000万円という金額の根拠だが、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯では毎月約5.5万円の生活費の不足が生じる。したがって老後20~30年間での不足額が約1320~1980万円に上るという試算に基づいたものだ。2000万円という金額は、あくまでも金融庁によるモデルケースでの試算で、それぞれ置かれている世帯の状況によって実際の不足額は当然異なるが2000万円という具体的な金額が示されたことで、マスコミなどでセンセーショナルに取り上げられた。

 要するに「国からもらう毎月の年金額を考慮しても毎月不足が起こる」との暗黙の了解をさせて、「国民の皆さんはそれをわかった上で、各人が責任を持たないといけない」というメッセージを送ったのだ。だからこそ、あれほどセンセーショナルに取り上げられ、当時の麻生太郎財務相が「そもそも報告書は存在しなかった」ことにして結局報告書を受け取らず、騒動を沈静化させた。

企業の退職金も激減。あるモデルケースでは20年前と比べて37%も減少

 今や平均寿命が伸び、人生100年時代と形容される超高齢社会となっているのは周知の事実だ。その一方で、年金以前の問題として退職金が著しく減少していることをご存知だろうか? 以前はほとんどの企業において「退職給付制度」が存在していた。ちなみに今から30年前の1992年度においては企業の92%にこの制度が存在していたが、2017年では80%まで減少。さらに給付金額も激減しているのだ。

 例えば、「大学卒業者または大学院卒業者、勤続35年」というケースにおける1997年の退職金の平均は3203万円だったが、2017年には平均1997万円になっており、実に37%もの減少となっている。しかしながら、これはあくまでも平均値であり中央値でみればもっと少ないと推定される。そもそも1997年とその20年後の2017年では、政府主導による非正規雇用の推進やフリーランス(自営業・個人事業主)の急増で退職金がないケースが激増しているというのが実態だろう。そんな中、金融庁から「もう国の支給する年金では生活していけませんよ」「皆さん、各自で老後資金を準備して下さいね」というメッセージが出されたわけである。 

35歳から毎月3万4000円を年率3%で運用すれば65歳で2000万円に

 さあ、資産2000万円を形成する目標を真剣に考えてみよう。現在のゼロ金利政策下において、貯金だけで2000万円を獲得するにはどのような積立プランが必要か? 仮に35歳から取り組めば、一般的な退職年齢にあたる65歳まで毎月5万5000円を積み立てる必要がある。これがもし仮に年率で3%の運用ができたとすれば毎月の積立額は3万4000円に減少する。すなわち、毎月2万1000円の節約、年間で25万2000円の節約になる。大きな違いだ。ゆえに、今のところ欠陥だらけの制度ではあるものの「つみたてNISA」や「iDeCo」で資産運用することが大事ですよ、という議論がしばしばなされるようになった。確かに、その通りである(いずれNISAやiDeCoについての提言をこのコラムでおこなう予定である)。 

 しかしながら、私が問題にしたいのは、35歳の早期に気付く人ではなく、世の中の大半を占める「もう50歳になってしまった!」とか「60歳だけど何の準備もしてこなかった…」と時計の針を今さら戻せない状態となって嘆く人たちのことである。この人たちの老後感は基本的に「平均寿命まであと何年生きられるか?」 という逆算方式であり、「あー、全然足りない。でも、もう仕事もないし、どうしようもない。この年になって国からそんなことを言われても…」なのだ。

50歳から第二の人生が始まると考えれば、人生も資産運用も上手くいく

 そういう人たちに提唱したいのが「実年齢マイナス50歳」の生き方だ。私自身、58歳であるが実際の意識は8歳である。それ故に「小学二年生と同じ。若いのです!」と言った。これからまだまだ仕事でも趣味でも何でもバリバリできる。「この法則でいけば、70歳の時にちょうど20歳であり、85歳になったら仕事的にも社会的にも乗りに乗っている35歳ということに…」という意識になれば自分を取り巻く事態はすべてにおいて異なってくると思う。要するに意識の違いが第二の人生のあり方を決める、と断言しておきたい。

 とにかく、一度会社から離脱するとあまりにも後ろ向きの人が多すぎるのが日本の問題だと周囲を見渡してつくづく思う。自分で仕事を始めたり、積極的に自分の好きなことに打ち込んだり…ということを最初から諦めすぎている。とにかく、まずは意識改革すること。老後2000万円問題への取り組みが変わってくるはずだ。それがなければ「ぎりぎり生活」「面白くない老後」に簡単に突入することになる。

 本来ならば、第二の人生の方が「経験もある」し「知恵もある」し、「面白おかしく、楽しい」人生になるはずだ。「100歳まで楽々生きられそうな気がする」という意思がなければ、運用プランもなく漫然とシニアになった人は生きていけないと思う。そのような人たちに向けても私は投資助言業務を真剣におこなっているつもりなのだが、今のところ諦めムードが大半であり、とても残念でならない。

●太田 忠

DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

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