新型コロナウイルス感染拡大の第7波が到来し、感染者数は過去最高を記録
「やっぱり来たね、第7波」。先週は再び新型コロナウイルス感染者が急増。東京では1日あたりの感染者数が3万人を超え、日本全国においても連日で最高記録を更新。この原稿を書いている7月22日金曜日は19.5万人となり、6月29日の2.3万人から様変わりしている。読者の皆さんは、もちろん慎重な行動を取られていると思うが、私もノーマスクで会話している人がいたらすぐにその場を立ち去る、他人との外食は一切しない…など十分に気を付けて日々過ごしている。
もし感染しても、もはや保健所には電話は繋がりにくく、症状が重くても入院がままならない状況だ。現在、流行しているBA.5は感染するとかなり辛いと聞く。資産運用では「リスク管理が大事」と日々言っているが、健康あっての人生であり資産運用である。一層、気を引き締めて日々過ごしたいと思う。
歴史的な高インフレに対応するため、欧米の中央銀行で相次ぐ高い利上げ
さて、今回のテーマだが「欧米中央銀行vs日銀」の対立構図がますます強まっているため、この点について掘り下げたい。
大規模金融緩和を続ける日銀に対して、欧米の中央銀行は相次ぎ利上げを進めている。米連邦準備理事会(FRB)は6月に0.75%の利上げを決め、7月も再度の大幅引き上げが既定路線だ。カナダ銀行は1998年以来となる1.0%の利上げに踏み切った。いきなり1.0%もの利上げは主要7カ国(G7)の中では初めてだ。
そして最後まで動かなかった欧州中央銀行(ECB)も先週木曜日の理事会で、政策金利を0.5%引き上げることを決定した。利上げは11年ぶりで上げ幅は2000年以来22年ぶりの大きさだ。政策金利をゼロ%からプラス0.5%、銀行に預ける預金金利をマイナス0.5%からゼロ%に引き上げたことで2014年に導入したマイナス金利政策は完全に終了した。これで欧米の主要中央銀行は利上げで足並みを揃えたことになる。
各国中銀が一斉に動き出した理由は歴史的なインフレへの危機感だ。米国では約40年ぶりに消費者物価指数が9%を超え、ユーロ圏の消費者物価の伸び率は8%超と過去最高を更新中。今秋に10%程度まで上昇するとの民間試算も出ている。引き締めを急ぐため、通常の利上げ幅(0.25%)の数倍の利上げが相次ぐ。景気後退とインフレが同時に進む「スタグフレーション」という深刻なリスクも考慮せねばならず、中央銀行の政策運営の難易度は増している。
ドルの独歩高に対し、自国通貨の価値低下を防ぐために利上げする国も
もし金利の引き上げがインフレに追いつかなければ実質的な金利はマイナス圏に沈んでしまう。従来、FRBは「ビハインド・ザ・カーブ」という政策を取ることが多かった。景気や物価の上昇に対して意図的に利上げのタイミングを遅らせる金融政策であり、マーケットへのダメージを極力抑えるハト派的政策だ。通常ならそういう手段でゆっくり進めていくわけだが、今回は実務者の誰もがリアルで経験したことのない「急げ、急げ」の状況にある。インフレを追い越すくらいの勢いで利上げをしていかないと間に合わない。
FRBの利上げがドルの独歩高を招き、自国通貨の価値低下を防衛するために利上げが広がっているという側面もある。例えば、韓国中銀は7月13日に同国として初めて政策金利を一気に0.5%引き上げると決定したのは通貨安を食い止めるためだ。カナダ銀行のいきなりの1%利上げもそうだ。
日銀は大規模金融緩和の継続を決定し、我が道を行く日本
さて、我らが日銀。先週木曜日の金融政策決定会合で出された結論は「大規模金融緩和の継続」だった。海外で利上げが進む中、緩和継続による急速な円安で企業や家計に与える影響が大きくなっているのは周知の事実だが、黒田東彦総裁は利上げについて「全くない」と言い切った。為替対応での利上げは「合理的でない」と。ますます我が道を行く、という風情だ。
今回の会合で一番目立ったのが、4月の会合で2022年度の物価上昇率見通しを1.9%としていたところを2.3%に上方修正したことだ。日銀が2%超の物価見通しを示すのは、消費増税が影響した2014年度を除き比較可能な2003年度以降で初めてである。政府・日銀が目標とする2%に達したが、黒田総裁は「物価目標の持続的、安定的な実現には至っていない」と述べた。先行きについて2023年度は1.4%、24年度は1.3%と徐々に物価上昇が落ち着く見通しを示した。
黒田総裁退任後の日銀の政策転換も見据え、一方的な円安は進みづらい?
「円安が進んでいるので、ドル建て資産を増やしたいのですが、どれくらい持てばいいですか?」という質問をこのところ多く受けるようになった。今年の春頃、すなわち115円を突破したあたりであれば「金利差を活かしてドルで稼ぐぞ!」という発想はズバリ的中で良かったと思うが、7月半ばに139円台を付けた後、今は136円台とむしろ円安が沈静化している。
今後の欧米中央銀行の利上げペースが見えており、一方の日銀が来年4月までの黒田体制で動かないのが見えているのであれば、もはや「米ドル/円トレード」はもう旨味がなくなってきていると思う。黒田氏の退任後の新総裁は現状路線を継続するとは思えないため、もはや来るべき政策転換を少しずつ見据えることになるとすれば、一方的な円安は進みづらいとみるのが妥当だと思う。
FOMC後の株式マーケットは短期的には波乱含みで要警戒か
さて、株式市場である。先週も日本市場は上昇した。これで3週間でちょうど2000円の上昇となった。先々週の米国市場は「6月のCPIが5月よりもさらに加速し、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の利上げがパウエル議長の事前予告の+0.75%ではなく、いきなり+1%になるとの観測が広がったこと」が下落要因となったが、先週は5年先のインフレ率の低下で「7月のFOMCの利上げが+1%ではなく+0.75%になる」という見方が広がったことで反発した。長期金利が2.8%台まで低下していることも好感されている。
いよいよその結論が今週の水曜日に発表される。私のFOMC後の相場の見方は「+0.75%の決定はすでに織り込まれているため、仮にこの形になっても材料出尽くしで売られやすい」、そして「もしFRBがインフレ退治を急いで+1.0%を決定すれば、マーケットへのネガティブインパクトは大」である。要するに短期的な値戻しが大きかっただけに、警戒する必要がある。そのため、私が助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」では安易な買いは見送ってきた。今後、政策金利が引き上げられることによって、長期金利が再び上昇するのは確実であり、まだロングポジションの引き上げには慎重姿勢が必要であると考えている。今週は大事な週になりそうだ。
なお、個別銘柄においては好決算を受けてファーストリテイリング(9983)やベクトル(6058)が急騰し、そして先週木曜日に商船三井(9104)の大幅上方修正が発表されたことで非常にいい感じだ。再上方修正も期待される。今月のベンチマークに対するアンダーパフォーム(約1%)は市場連動型ETFのウェートを下げた分の影響であるが、すぐに収束すると思う。
●太田 忠
DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。
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