不本意ながら、新型コロナの新規感染者数で世界最多となった日本
まさかまさかの世界一、しかも不本意かつ不名誉な世界一、そしていまひとつ「?」な世界一。
WHO(世界保健機関)は先週水曜日、新型コロナウイルスの新規感染者数の報告書を発表。7月24日までの1週間当たりの新規感染者数は日本が97万人となり前週比で+73%と世界で最も多い数字となった。ちなみに世界全体では661万人と前週より3%減少。米国では3%減の86万人、ドイツは16%減の56万人だった。オミクロン株の「BA.5」が猛威を振るっており、WHOは感染対策の徹底を呼びかけている。今回の日本の第7波の特徴は、20代以下の感染者が急増している点で全体の44.5%、すなわち半数近く占めている。他国に比べて、公衆衛生は徹底されているはずなのに…。
日本はもう経済活動を止めない選択をした。感染者が即入院できないのも黙認している。「感染対策は自己責任で」と現実的な考えに立てばいずれも「良し」としよう。しかし、国際的には日本はブーブー文句を言われる状況にある。先進国の中で最悪の感染拡大状況にあるにもかかわらず、日本は海外からの感染者流入を食い止めるための厳しい水際対策を続けているからだ。欧米諸国は往来再開へ完全に舵を切った。英国は3月、ドイツは6月に入国規制を全面撤廃し、米国も6月に入国前の陰性証明の提示を不要にした。日本は6月に外国人観光客の受け入れを一定条件下で再開したが、入国者数の上限は1日当たりわずか2万人のみと少ない。「ゼロコロナ」規制を掲げる中国に次いで、主要国の中では突出した厳しい制限だ。それが先進国からは腑に落ちない、ブーブー文句の根拠だ。
7月FOMCで0.75%利上げも、パウエル議長の発言を好感し、相場は上昇
さて、今回のテーマだが6月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けてマーケットが変貌しているため、現状分析および今後予想される展開について述べてみたい。
米連邦準備理事会(FRB)は6月のFOMCで通常の3倍の0.75%の利上げを決定した。すでに前回の7月会合で27年ぶりに0.75%の利上げをおこなっており連続での実施となる。短期金利指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は2.25~2.50%に上昇し、2018年12月まで3年かかった前回利上げ時の到達点に並んだ。景気を冷やしもふかしもしない「中立金利」の水準だ。これほど利上げを急ぐのは、皆さんもご存じのように、消費者の生活を圧迫するインフレの抑制を優先するためだ。
興味深いのは、FOMC後に開かれたパウエル議長の記者会見が進むうちに株式市場がみるみる上昇したことだ。「金融政策のスタンスがさらに引き締まるにつれて、引き上げペースを緩めることが適切となる可能性が高い」と述べたことで、金利上昇のこれ以上の加速がなくなり、しかも今年12月の3.4%をピークに来年早々から政策金利が低下するとの市場観測が強まったことで、現状のインフレの「打ち止め」を嗅ぎ取り、もはや株式市場への強い逆風が無くなったと認識されたのだ。また、パウエル議長が「米経済は景気後退に入っていない」との見方を繰り返したことも好感された。
本来、金利上昇下での株高はよく見られるパターンである。テーパリングや金利上昇決定前の金融正常化に向けた動きの中では「相場はガタガタする」が、それを乗り越えれば「マイルドな業績相場に戻る」と私は以前から述べてきたが、まさに今その様相である。7月のNYダウは+6.7%、ナスダック指数は+12.3%と急反発した。グロース株の復調が目覚ましい。
もし仮に来年から金利が低下すれば、それはまさに金融緩和であり「金融相場の到来」に他ならない。今の楽観的なマーケットがもしこのようなシナリオで進めば、もはや今回の下げ相場は終了。今回の逆金融相場&逆業績相場の底値はNYダウが2万9888ドル(6月17日)、S&P500が3666(6月16日)、ナスダック10646(6月16日)ということになる。
GDPが2期連続マイナスの米国。その後株式市場がクラッシュした歴史も
しかしながら、果たしてそんなにうまくいくのだろうか? 今年4~6月の米国の国内総生産(GDP)は年率-0.9%となりこれで2期連続のマイナスとなり、経済理論的にはリセッションに入っている。パウエル議長やイエレン財務長官は力強い労働市場を評して「景気は強い」と述べているが、GDPが2期連続のマイナスになると、その後、大きな株式市場のクラッシュが起こっているという歴史的事実がある。「逆イールド」について本コラムで何度も触れてきたが、今も一貫して2年金利が10年金利を20bp程度上回っており、かなり大きな逆イールド状態である。逆イールドは今後の景気減速の予告だ。
ところで、これまでの下げ相場の中で我々が一番恐れていたのは何か?それはスタグフレーションだ。高インフレが定着する中で、景気後退を招く過度な金利引き締めを迫られる状況、すなわちインフレと景気後退が共存する状況。これは非常に恐ろしい。今のマーケット参加者のほとんどがリアルで経験したことのない世界である。
政策金利が2.50%に対して先週金曜日終了時点の10年債利回りは2.65%である。両者がほぼ同レベルまで接近する状況は普段あまりお目にかからない現象だ。9月の利上げはメインシナリオで+0.50%、引き締めが強ければ+0.75%が予想されるが、いずれにせよ政策金利は上がるため長期金利は再び上昇することになる。したがって、現在の強い金利低下トレンドはいったんすべて織り込まれた形になったと見るべきだろう。
株式市場がクラッシュするシナリオも想定し、それに備えることができるポートフォリオを構築せよ
さて、一般論に話を戻す。「マイルドな業績相場」の後にやって来るのは何か?それは金利が一番のピークあたりに達してからの株式市場のクラッシュ、すなわち本来の姿の「逆金融相場」である。その後、金利引き締め効果によって景気減速が起こり「逆業績相場」がやって来る。先ほどはいきなり「金融相場」に戻るとの見立ての話をしたが、この一般的なパターンがやって来ると、米国市場そして日本市場ともに下落相場入りだ。すでにコラムで「NYダウの下落メドは2万6000ドル、日経平均の下落メドは2万1000円」と述べたが、ガラリと様相が変わりこの水準を覚悟しなければならない。
米国の低所得者は賃金上昇がインフレに追い付かず、自分たちの賃金で十分な食料をまかなえない状況になってきている。低所得者だけではない。今や家賃、ガソリン、電気、ガス、飲食…すべての面において生活者は圧迫されている状況である。多少インフレが減速しても高止まりするのであれば、それは個人消費にとって大きな痛手になる。消費を取り巻く景気指数はすでに急速な悪化を見せているが、改善するにはかなりの時間がかかりそうだ。この点はやはり見逃せない。
今後のマーケットがどう進展していくかは、日々見守っていくしかないが、やはりある程度はクラッシュを想定したシナリオに備えておくべきだと思う。
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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