IMFが2023年の世界の成長率を下方修正。忍び寄る景気後退の足音
着実に、そして確実に景気は悪化している ―。
国際通貨基金(IMF)は先週10月11日の世界経済見通し改定において、2023年の成長率を下方修正した。世界の実質成長率予測を前回7月の+2.9%から今回+2.7%へと0.2ポイント引き下げた。この時期に公表する翌年の経済見通しで3%割れを見込むのは2000年以降で初めてである。また、この半年での下方修正の幅は0.9ポイントとなり、リーマンショック時を上回った。米国と欧州、中国の経済は「失速」と表現されるありさまだ。ちなみに「経済成長の高い米国vs経済成長の低い日本」という私の先入観で両国の成長率を見ると、驚くべき結果が出ている。2022年の成長率は米国+1.6%vs日本+1.7%、2023年は米国+1.0%vs日本+1.6%といずれも日本の方が成長率は高いのだ。金融引き締めvs金融緩和、高インフレvs低インフレという対照的な両国の環境が成長率の差に繋がっている。
新型コロナ禍での経済活動の停止、急激な景気回復によって需給バランスが崩壊、そして好景気からのインフレによる暗転…という形で2023年には世界の国々の3分の1が景気後退に陥るとの見方がされている。
主要国の政策金利が軒並み3%超でも、インフレ沈静化は見えない状況
インフレ退治のために効果的なはずの政策金利の引き上げであるが、国際決済銀行(BIS)が集計している世界の主要38カ国・地域の政策金利の2022年の引き上げ回数はすでに160回に達しており、過去最高のペースだ。それでもインフレの沈静化が見えない状況となっている。主要国における政策金利は現在軒並み3%を超えており、これはリーマンショックが発生した2008年以来の水準になっている。
ところで私のコラムで何度も触れてきた「逆イールド」。米国の2年金利(短期金利)は先週木曜日(10月13日)に一時4.53%と2007年8月以来15年ぶりの高水準、10年金利(長期金利)は同日に一時4.08%と2008年10月以来14年ぶりの高水準を記録し、終値ベースで10年金利から2年金利を引いたスプレッドは-0.51%となり、逆イールドが一段と進んでいる。逆イールドは今後の「景気減速の予告」であり、過去に逆イールドが起こると必ず景気後退に陥っている。
米国の著名経営者や投資家などが、世界は景気後退に陥ると警鐘
JPモルガン・チェースの最高経営責任者(CEO)のジェイミー・ダイモン氏は「米国や世界は今から6~9カ月後に景気後退に追い込まれる可能性がある」と語り、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者であるレイ・ダリオ氏は「パーフェクトストーム(最悪の嵐)がやってくる」と語っている。
「景気後退すれば、やはりそれに配慮して金融引き締めペースが落ちるだろう」というロジックが働けば株式市場が上昇する要因となり、すでに我々は何度もこの現象を見てきた。しかし、本当に景気が減速して企業業績が大きく悪化し、下方修正続出の状態になると、金融引き締めがストップしてもマーケットには悲壮感が漂って個別銘柄はボコボコに売られる。これがいわゆる逆金融相場から逆業績相場に入った時に見られる現象であり、私の第51回コラムで述べた「逆金融相場から逆業績相場への流れが一層強まる」というシナリオだ。
株式市場はある程度の景気悪化はむしろプラスに捉えるが、マジの惨状になると本当のマイナスで捉える。このあたりの呼吸について、きちんと理解しておくべきだと思う。さもないと間違った投資行動をしかねない。ただし、逆業績相場の後は「そろそろ金融緩和しなければ、経済が立ち行かない」ということで、金融緩和を伴った本当の意味での上昇相場である「金融相場」がやって来る。
米消費者物価指数(CPI)が低下しても米国の株価が冴えない理由
さて、マーケットである。9月の米消費者物価指数(CPI)発表を受け、先週木曜日(10月13日)のNYダウは取引開始直後から見る見るうちに下げて550ドル安となった。
CPIは総合が+8.2%と市場予想+8.1%を上回ったものの8月の+8.3%からは低下。実は総合は6月の+9.1%をピークに7月+8.5%、8月+8.3%、9月+8.2%と一貫して低下している。本来ならば「インフレは明らかにピークアウトしている」という見方がされても良いが、そうは問屋が卸さない。変動の激しい食品・エネルギーを除いたコアで見ると、6月+5.9%、7月+5.9%、8月+6.3%、9月+6.6%と上昇トレンドにある。要するにこれまでインフレの話題の中心だったエネルギー価格の高騰が落ち着いても、それ以外の生活に直接に関わる住宅、家賃、車、衣服、輸送、サービス価格などが軒並み上昇しており、インフレのピークアウトは確認されていないのだ。だから、朝方のマーケットの急落につながった。
短期筋の買い戻しなどで乱高下する株価。ベアマーケットラリーの典型
その後は急反発して一時950ドル高と急伸。結局は前日比827ドル高(+2.8%)の3万0038ドルで取引を終えた。朝方の大幅安から一転、短期筋の投資家による買い戻しが相場を押し上げ、日中値幅はちょうど1500ドル。これはコロナショックでマーケットが揺れ動いていた2020年3月以来の大きさである。米景気の先行きに対する警戒感を抱きつつも、投資マネーの動向に振り回される展開となった。
短期筋の買い戻しとは、「今後マーケットがまだまだ下がるだろう」との思惑で売りポジションを持っていたが、案の定大きく下げたので利益確定のための買い戻しが次々と入り、途中からはショートスクイーズに巻き込まれて損失確定を伴いながら、慌てて買い戻しが加速したということである。またまたベアマーケットラリーの典型的様相となった。
9月のCPIの結果を受けて11月と12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げはともに+0.75%になるとの見方が強まり、まだまだ金利上昇による株式市場への逆風はやみそうにない。本当の上昇相場というのは日中の乱高下がほとんどなく、来る日も来る日もジリジリと上がるという現象が現れるものだ。翌日金曜日の日経平均は853円高と大幅な連れ高となったが、勘違いして焦って買いに走ると大火傷をする。これほどボラティリティが高ければ、この先も相当覚悟がいるということだ。
好調が続く「勝者のポートフォリオ」。保有3銘柄が年初来高値を更新
私がDFR(ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ)で投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」は先週も好調だった。ポートフォリオで保有する25銘柄のうち3銘柄が年初来高値を更新、そして2銘柄が好決算を発表した。好決算銘柄のうち1銘柄は新年度も2ケタ増収・増益で株価が急騰。そしてもう1銘柄は金曜日の取引終了後での発表だったが、通期の営業利益予想に対してきわめて高い進捗状況となっており、今週からの株価上昇に期待したいところだ。
急落と急騰を繰り返すボラティリティの高いマーケット。よくあるのが急落で売ってしまい、急騰で慌てて買うパターンだ。SNSで「歴史的な買い場!」などと無責任なコメントが飛び交っているのに釣られてしまいがちだが、買った翌日から反対のことが起こるとたちまち損失が膨らむ。勝ち組投資家は下落相場でもほとんど運用資産を減らさず、次の金融相場でドカンと資産を増やす。一方、負け組投資家は下落相場で大きな損失を抱えて、上昇相場でせいぜい元に戻るだけで資産は増えない。そういう勝ち組投資家を育成するのが「勝者のポートフォリオ」の責任者の私の任務であるが、この数カ月で会員数が大きく増加しており嬉しい限りだ。11月2日に毎月恒例のWebセミナーを開催する予定。ここで来たるべき金融相場に備えての大事な話をしたい。
●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。
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