前々回の連載では、「なぜ、日本の会社はコーポレートガバナンスが効いていないのか」についてお話しました。株式市場の資本配分の機能が、日本は米国よりも働いていないのです。
[参考記事]
●なぜ日本企業は株価を気にせず、イノベーションも起きないのか? 私が日本株ではなく世界株に投資する理由とは?
今回はそういった具体例を紹介したいと思います。株価が割安に放置され、買収しようと思えば、実質、無料で買収できてしまうような日本の上場企業を紹介します。
実質、無料で買収できてしまうような日本の上場企業とは……三菱鉛筆!
その日本企業とは三菱鉛筆(7976)です。
同社の財務諸表、開示情報のみを使って簡単に分析したいと思います。私は同社の経営陣とは話をしていません。
三菱鉛筆は「uni(ユニ)」というブランドで筆記具のビジネスを展開しています。売上げ全体の96%が筆記具及び筆記具周辺商品事業となっています。
そして、海外売上げが売上げ全体の約50%を占めており、グローバルな企業と言えます。
三菱鉛筆は優れた商品を多数持っています。たとえば、「ジェットストリーム(JETSTREAM)」という油性ボールペンです。私も持っていまして、確かに他のペンより描きやすいです。なめらかに紙の上を滑りながら文章を綴れます。
三菱鉛筆の直近、2022年12月期 第3四半期のバランスシートを見てみましょう。
現金を476億円、持っています。有価証券は146億円、持っています。投資有価証券の含み益は49億円ほどあります。流動資産の856億円から流動負債の174億円を引くと、運転資本は682億円もあります。
そんな三菱鉛筆の時価総額は780億円(※)ほどです。
(※自己株式を除いた時価総額)
理論上、780億円、または少しプレミアムをつけて、たとえば、900億円ぐらいで、三菱鉛筆を買収できます。
ウォーレン・バフェットの恩師、ベンジャミン・グレアムはデビッド・ドッドとの共著の中で、保守的に見た会社の清算価値を運転資本の額としていました。先ほど仮定した三菱鉛筆の買収価格は900億円であり、これは同社の運転資本682億円を218億円しか上回っていません。
三菱鉛筆の事業価値はわずか200億円ほどとしか市場から見られていない。経常利益に対して低すぎる
三菱鉛筆のEV(エンタープライズバリュー、事業価値)は200億円ほどです。
EVは株式時価総額に純有利子負債を足して算出します。もう少し細かく書くと以下のような算式になります。
EV=株式時価総額+短期借入金+長期借入金-現金-投資有価証券
上記算式のイメージは以下のようなことになります。
その会社をきれいに丸ごと手に入れることを考えると、ざっくり株式時価総額分の資金だけがあれば良さそうに思えますが、その会社が抱えている借入金はいずれ返さなくてはいけませんから、借入金の金額をまず足すのです。ただ、その会社が持っている現金などは借入金の返済に充当してもいいですから、今度はその分を引きます。
このようにして算出した三菱鉛筆のEVは200億円ほどしかないというわけです。市場が見ている同社の事業価値はこれしかないのです。これは三菱鉛筆の前期経常利益の2.4倍ほどでしかありません。EVは通常、経常利益の7~8倍ぐらいはあるものなのにです。
これは同社の営業キャッシュフローの2年ちょっとの分だけです。設備投資は年間40億円ほどで、フリーキャッシュフローは40億円ぐらいです。EVはフリーキャッシュフローの5倍ぐらいということになります。
いろいろな数字を提示しましたが、これらは何を意味しているのでしょうか?
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