「勝者のゲーム」と資産運用入門

増配ラッシュが続く日本企業。個人投資家は大歓迎。一方、水面下で金融所得増税を目論む政府には失望。「貯蓄から投資へ」を促進すべく金融所得減税せよ太田忠の勝者のポートフォリオ 第62回

2022年12月14日公開(2022年12月13日更新)
太田 忠
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岸田首相が突然表明した増税論。国民は無論、自民党内からも異論が噴出

 防衛費を賄うために、所得税以外で1兆円の増税をする―。

 先週、岸田文雄首相が突然表明した増税論が物議を醸している。もちろん我々国民も驚いているが、自民党内の政調全体会議でも異論が噴出しており、大半が反対や慎重な意見となっている。安倍晋三元首相は生前「防衛費の増額分は国債の発行でまかなうように」と主張していた。このところ政府の国家予算の組み方があまりにも大雑把でお粗末な印象を持っている方々は少なくないと思うが、いきなり増税論というのはヒドイ話だ。世論とともに十分に議論を重ねていくべきである。

 さて、今や世界的に株主還元の時代だ。最も目立つのがやはり米国企業の積極的な増配や自社株買いの動きであるが、日本でも好業績企業を中心に株主還元の積極的な姿勢が増えており喜ばしい限りである。

日本企業の配当総額は14兆円超と過去最高を見込み、投資家への恩恵も大

 2023年3月期は上場企業の3社に1社の割合で増配を見込んでいる。日本経済新聞の調査によると、2022年4~9月期の決算期間において調査対象2350社のうち249社が期初の配当予想を上方修正した。一方で下方修正はわずか46社となっている。現時点での配当総額は前期比6%増の14兆円超となり過去最高を見込む。コロナ禍から脱却しつつあるとは言え、不透明な経済環境下での数字である。業績の先行きに自信のある企業ほど株主還元に積極的で、配当利回りが5%を超える企業も多数ある。

 配当政策積極化の背景には、足元の業績好調に加えて、やはり手元資金が豊富であるという裏付けがあるからだ。企業の稼ぎは前向きな投資や還元に回さず自社で貯め込み「内部留保が多すぎる」という批判(財務省が発表した法人企業統計によると、2021年度の企業の内部留保が初めて500兆円を突破)はまだまだ多いものの、5年くらい前と比べると上場企業の株主への還元姿勢は大きく変わったといえる。歓迎したい。

 今年度の配当総額が14兆円ということになると、家計を潤す効果もかなりのものだ。現在、上場株の約2割は個人投資家が保有しているため2.8兆円が配分されることになる。しかし、これはあくまで単純計算の話だ。実際に配分されるのはここから20%の税金が差し引かれた2.2兆円。要するに0.6兆円は国の収入となる。

「金融所得増税」議論は水面下で進行。高い税率をさらに上げるのか

 ところで、約1年前の出来事を覚えておられるだろうか? 岸田首相が就任して間もなく「金融所得増税をする」と述べて株式市場が暴落した「岸田ショック」だ。その時は慌てて、「今直ちにというわけではない」と首相自らが火消ししたことで一度は事態の収束を図った、という例のアレだ。しかし、このプラン自体は無くなったわけではなく水面下で着々と進行し、2022年度与党税制改正大綱において「高所得層ほど所得税の負担率が低くなる現状を是正する」と表明。結論を出す時期は言及されていないものの前向きに検討する意向が示されている。

 「1億円の壁を超えると、金持ちは分離課税の効果で優遇されている」のはその通りだと思うが、私が問題にしたいのは現在の金融所得課税が一律で20.315%(所得税15.315%、住民税5%)となっていることだ。復興特別所得税の0.315%はややこしいので省いて考えるが、とにかくすべての国民が一律20%の税率は高すぎるという点である。

 キャピタルゲインや配当を得るための元手はそもそも課税後のものであるし、配当収入などは企業と個人からの税金の二重取りになっている。東日本大震災をきっかけに2011年から2013年まで適用されていた軽減税率10%(所得税7%、住民税3%)程度がちょうどいいと思う。さらに遡れば、1953年から1988年にかけては株式譲渡益は原則非課税という時代もあった。ちなみに金融先進国の金融所得課税の税率を見ると、米国が0%、10%、20%の3段階、英国が10%、20%の2段階、香港やシンガポールはゼロである。日本はかつて香港やシンガポールのような金融立国を目指してなかったか? 日本は現状、税率が異常に高い国なのだ。

金融所得税一律20%は高すぎる。金融所得に応じて税率を引き下げるべき

 もし本気で日本人全体にとって公平な金融所得課税を考えるとすれば、「累進制」分離課税を導入するべきだろう。「所得の多い人が本来より低い20%の税率で済んでいる」のを問題視するならば、当然「所得の少ない人が本来より高い20%の税率を課せられている」という点も問題視すべきだと思うのだが、全くこの側面はすっぽり無視されている。岸田さんは何とも思わないの? 皆さんも何とも思わないの?

 株式や配当に関わる税率は分離課税ではなく金融所得の大きさで異なる方式にしたい。例えば500万円までの利益は税率5%(本来は0%としたいところだがNISAがあるため5%にした)、1000万円までは10%、1500万円までは15%、2000万円までは20%、それ以上は金額に応じて税率を決めれば良いというような形だ。全員が確定申告して税金を支払う。

 株式投資は資本主義経済において資産を増やす必須ツールだ。特に日本の場合は過去30年間、年収が増えておらず、生活に希望を見いだせない雰囲気が充満している。株式投資で自分の資産を増やしつつ「老後2000万円問題」にも備える必要がある。貯蓄だけではダメだ。なぜなら、お金そのものの価値がどんどん下がっているからだ。「貯蓄から投資へ」を促進すべく、富裕層ではない大多数の人たちにも大きなメリットを与える金融所得課税、これが必要だと思う。NISA枠の拡大や恒久化も大事だが、資産形成を目指す人たちへの金融所得減税を本気で考えなければならない、と私は思っている。

今年最後のWebセミナーの参加人数も過去最高。来年開催に乞うご期待!

 さて、マーケットである。私がDFR(ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ)で投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」は先週もベンチマークをアウトパフォームして好調だった。

 12月7日水曜日に毎月第1水曜恒例のWebセミナーを開催したが、今回も過去最高の参加人数となり、質疑応答も活発で予定の90分間から60分も超過する形となった。テーマは『米国市場の動向から読み解く2つのシナリオ』。まだこれから厳しいマーケット展開が続くことも想定しての運用戦略について話したが、「来るべき」金融相場を目指してモデルポートフォリオはすでに積極策に転じている。2023年は大きく飛躍すべく、より積極的な投資戦略を次々と繰り出すべく着々と準備中だ。興味のある方はぜひ一度、サイトを覗いてみて欲しい。10日間の無料お試し期間でのご利用も可能である。 

●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。

 

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