10月の米CPIを好感し、株式はラリーが発生。為替は約6円の円高が進行
先週木曜日のNY市場に驚愕―。11月10日は大注目の10月の米消費者物価指数(CPI)の発表日だった。日本時間の午後10時30分。発表と同時に米国株式先物は急騰してCPIの数字を即、好感する形となった。
これまでのCPIの発表はどちらかと言えば、事前予想を上回る悪い数字が出て株式市場が下落する展開が多かった。その一番典型的だったのが9月13日のCPIショックである。その日のNYダウは1276ドル安と今年最大の下げを記録。8月中旬の直近高値3万4152ドルからわずか3週間でNYダウは3万1145ドルへ3007ドル安の8.8%下落と急落した。
8月のCPIは前年同月比で+8.3%と事前予想の+8.1%をわずかに上回ったとはいえ、6月の+9.1%、7月の+8.5%からは下落傾向にあり、前向きに捉えられてもおかしくはなかった。しかしながら、食品・エネルギーを除く実力値ベースでのコア指数が+6.3%と7月の+5.9%より大きく上回ったのだ。これはインフレの本質が露わになったことを示している。すなわち、7月のCPIまでのマーケットの期待は「インフレはエネルギー価格の高騰が主要因」「もうすぐ原油相場が落ち着くからピークアウトする」というものだった。ところが8月のCPIでのマーケットの反応は「エネルギー以外、全部が値上がり!」「もはやエネルギーだけでは説明が付かない」に様変わりし、「これからインフレが長引きそう…」との失望感に変わった。「9月のFOMCは+0.75%ではなく+1.0%の利上げかも」という見方も伴ったことで今年最大の下げを演じた。
10日のNYダウは1201ドル、ナスダックは760ポイント高と記録的上昇
10月のCPIは+7.7%と事前予想の+8.0%を下回り、9月の+8.2%よりも低下。肝心のコア指数のほうも+6.3%と事前予想の+6.5%を下回り、9月の+6.6%よりも低下した。すなわち、これまで見られなかった幅での下振れとなり「インフレはそろそろピークアウトだ!」という解釈がなされ、米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めペースが鈍るとの観測、ひいては景気減速懸念後退への期待が高まった。NYダウは3.7%上昇の1201ドル高、ナスダックは7.4%上昇の760ポイント高という記録的上昇となった。その結果、NYダウは8月中旬以来の3万3715ドルとなり、ナスダックは前日に年初来安値接近の1万353ポイントから1万1114ポイントまで急回復する形となった。まさに9月13日のCPIショックとは真逆の動きだ。
こうした急激な変化は株式市場にとどまらず、為替は発表直前の146円台から一気に140円台へと強烈なドル売り円買いが起こり、10年物の長期金利は4.08%から3.81%へ0.27%も低下するというダイナミックな動きとなった。
私が先週のコラムで話題にした「ベアマーケットラリーには気をつけろ!」という考えを木端微塵にする過激な動きである。パウエル議長は12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において金利引き上げペースをいったんスローダウンさせる可能性を示唆していたが、今回のCPIの結果により5回連続の0.75%の引き上げではなく、0.50%に間違いなくするだろう。FRBがCPIよりも重視している個人消費支出(PCE)物価指数の動向を見極めた上で1月以降どう舵取りをするかが注目される。さらにCPIコア指数の今後のトレンドにも要注目である。
今後の相場動向を占う2つのポイント
ここからの私の関心事はずばり、次の2点である。
①インフレピークアウトという事実だけで、今後の景気減速を無視してまで買い上がっていくのか?(逆業績相場をすっ飛ばす形での金融相場に向けての動き)
②景気減速が強まることで再び売り基調となり、早駆けのベアマーケットラリーが終了する(逆金融相場から逆業績相場への移行)
米国の2年物短期金利と10年物長期金利の逆イールドは相変わらず-0.5%前後と過去最大レベルのギャップとなっており、景気減速は避けられないだろう。その状況において、たとえ前年同月比のインフレ上昇率が低下してもインフレ自体は高止まりの状態が続き、政策金利を5%程度の高水準に長くとどめる必要が出てくれば、マーケットの反応はどうなるのか? これはまだ未知の局面であるが、今後いろいろと難しい判断が試されそうだ。
さて、マーケットである。相変わらず大きなボラティリティが続いているが、私がDFR(ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ)で投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」は先週アンダーパフォームだった。キャッシュポジションを多めに持っていること、バリュー株を手厚く保有していることで相場の全面高にはついていけなかった。ここはブレることなく淡々と取り組んでいきたいところだ。
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。
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