「勝者のゲーム」と資産運用入門

日銀新総裁に就任した植田和男氏に期待!大規模金融緩和策を維持するも、YCC是正は必要。注目は6月会合か。市場との対話を重視して進めよ太田忠の勝者のポートフォリオ 第80回

2023年4月19日公開(2023年4月18日更新)
太田 忠
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32代目の日銀総裁として植田和男氏が就任。学者出身の総裁就任は初めて

 日銀の新総裁就任で、株価は上だ!―。

 先週日曜日の4月9日、第32代目の日銀総裁として植田和男氏が就任した。年に8回開催される金融政策決定会合では議長をつとめ、2人の副総裁、6人の審議委員で構成される9人の政策委員の一人として金融政策の舵取りをする重責を担う。任期は5年。前総裁の黒田東彦氏は異例の2期10年間の長期にわたって「黒田バズーカ」と呼ばれる大規模金融緩和を実行してきた。

 植田氏の就任も実は異例だ。なぜなら日銀総裁人事は従来、日銀の生え抜きと旧大蔵省(現財務省)の出身者がたすき掛けの形で総裁をつとめてきたからである。植田氏は1998年から2005年まで日銀審議委員をつとめた経験はあるものの、そもそもマクロ経済学や金融論を専門とする学者であり、東京大学名誉教授の肩書を持つ。学者が日銀総裁になるのは初めてのことだ。ちなみに海外の主要中央銀行のトップにおいて学者出身は珍しくはなく、例えば米連邦準備理事会(FRB)のイエレン前議長やバーナンキ元議長はともに学者出身である。

就任後の初会見で、植田氏は大規模金融緩和策の維持するとの方針を表明

 4月10日に行われた就任後の初めての記者会見の席で植田新総裁は現在の大規模金融緩和策を維持するとの方針を表明した。もちろん、足元の世界的金融不安への配慮も含まれていると思われるが、マーケットに漂う早期の緩和修正観測を牽制する形となった。また、自身の任期中の5年間で2%の物価目標の安定的実現を目指したいと述べた。

 現在のマーケットの最大の関心事は何と言っても、大規模金融緩和の屋台骨となっている長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)をいつの時点で、どのように修正するかという点にある。そもそもYCCは長期金利を一定の範囲に抑え込むための施策であり、無制限に国債を買い入れるという手段を使ってきた。金利の上昇圧力が高まる中、日銀は昨年12月に長期金利の許容変動幅を0.25%から0.5%に広げた。

 皆さんはすでにご存知だと思うが、政府は黒田氏の後任総裁として、まず雨宮前副総裁に打診したが辞退されている。「日銀総裁を辞退?」というのは普通なら考えられないが、さすがにあれだけ風呂敷を広げて半ば収拾がつかなくなった金融政策を立て直すのはあまりにも困難だということだろう。「大規模金融緩和を継続」「引き締めはしない」とかたくなに言っていた黒田前総裁が昨年12月に突然YCCをいじって金融引き締めに転じたのは、海外の投機筋の債券売りに屈したこと、そしてやはり後任人事が困難でそのため少しでも地ならししておいた方が良い、との判断も相当に働いたのではないかと私は勝手に推測しているが、それでも引き受けなかったということである。そうした中での植田新総裁の誕生だ。

YCCの一段の是正は必要。植田新総裁は市場と対話しながら進めてほしい

 現在、国債の買い手がほぼ日銀だけという異常な状態となっており、債券市場の機能が失われる状況に追い込まれている。黒田前総裁時代の大規模金融緩和の10年間で963兆円もの国債が購入されて長期金利を低位に抑制した結果、国債発行残高の54%を日銀が保有するという異常事態になっている。頭の痛い問題だ。

 以前にもコメントしたことであるが、日銀による大規模金融緩和の突然の修正を目の当たりにして、私が一番まずいと思ったのが「市場との対話」を全く無視した中央銀行総裁の姿勢である。マーケットにとっては暗闇からの不意打ちとなった。株式市場の急落のみならず、長期金利は急上昇、為替は一気に円高になった。金融政策を大きく変更するにあたっては、それを実行する数か月前から金融政策のフォワードガイダンス(先行きの指針)を示すことで市場の混乱を避け、事前に地ならしをしていくことが世界の常識だ。FRBのパウエル議長の模範的な姿勢見ていただきたい。そういう意味において、植田新総裁には市場との対話をきちんとしていただきたいと思う。国際的な経済学者である植田新総裁は海外の中央銀行との円滑な対話も期待できると私は考えている。

 YCCの一段の是正は必要である。4月28日に日銀の金融政策決定会合が開催されるが、ここではおそらく見送られるだろう。その次の6月16日の会合は要注目である。一段の是正によって日本は遅まきながらも金融正常化を目指していただきたい。日本の銀行はこれまで何の収益も生み出さないゼロ金利の状況でビジネスをせざるを得ない状況を強いられてきた。銀行は経済のバックボーンの役割を果たす。それが正常な機能を失っているのは良くないことである。

昨年12月のYCC是正で高騰した金融株。金融不安で下落も再評価される

 4月1日に三井住友銀行の新頭取に就任した福留朗裕氏は日本経済新聞のインタビューでこう答えている。「日本も金利がつく世界に戻る可能性がある」「これからは特に国内にフォーカスしたい」「将来の利ざやの拡大を見越して国内の企業や個人向けビジネスに注力していく」「金利復活なら国内は宝の山だ」と。昨年12月のYCCの突然の是正でマーケット全体が急落した中、銀行を始めとする金融株が急騰したのは金融正常化&金利上昇によって、ようやく収益が稼げる状況になるとの判断からである。米国発の金融不安によって日本の銀行株も大きく下落したが、今後は再評価を受けると私は考えている。

 異次元金融緩和の副作用として、日銀が株式市場で37兆円のETFを買った点が挙げられる。株価の押し上げ効果や投資家に安心感をもたらす効果はあったものの、国債とは違って償還がないため出口戦略をどうするか、要するにどうやって売却するのか? という道筋が見えていない。これについても道筋を示して欲しい。私にもいろいろとアイデアがあるが、機会があれば議論してみたい。

「勝者のポートフォリオ」は過去最高値更新&年初来高値3銘柄と好調!

 さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」。先週は週間ベースで過去最高値更新&年初来高値3銘柄となり、引き続き好調である。コラムの冒頭で「日銀の新総裁就任で、株価は上だ! ―。」とダジャレのような書き出しで始めたが、すでにマーケットの一部では植田新総裁に引っ掛けてこのような期待がなされており、私も期待している一人である。

 個人投資家の皆様から寄せられる質問を見ていると、SNS上での心ない暴落論や売り煽りなどで不安になり「太田先生はどう思われますか?」というのが紛れていることが多いが、SNSにおけるマーケットコメントはほとんどがいい加減で無視すべきものである。そんなつまらないものを見ている暇があるのなら、外へ出て街の中を歩きいろんなことを観察した方がずっと有意義である。

●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。

 

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