「勝者のゲーム」と資産運用入門

大手UBSのクレディ・スイス買収決定で混乱は収束。金融不安はひとまず後退だが、AT1債の行方を注視。リーマンショック再来はないが、投資リスクの再考を太田忠の勝者のポートフォリオ 第77回

2023年3月29日公開(2023年3月28日更新)
太田 忠
facebook-share
twitter-icon
このエントリーをはてなブックマークに追加
RSS最新記事

スイスの金融大手UBSがクレディ・スイスを4200億円で買収決定

 先週日曜日の3月19日にUBSがクレディ・スイス・グループを30億スイスフラン(4200億円)で買収することが決定した。米国SVB(シリコンバレーバンク)の経営破綻が飛び火し、顧客預金の流出懸念からクレディ・スイスの株価は急落していたが、スイス政府の後押しもあり買収が実現した。リーマンショックの教訓が生かされた迅速な決定と言えよう。

 米連邦準備理事会(FRB)など日米欧の6つの中央銀行はクレディ・スイス買収発表の直後、協調してドル供給を強化すると表明。相次ぐ銀行の経営不安に対応し、金融機関が資金繰りで問題を起こさないよう安全網を拡充する。すでに3月20日より施策を開始しており、少なくとも4月末まで継続する予定だ。

今回の買収劇で約2.2兆円のAT1債が全損となり、債券保有者に動揺が走る

 実はクレディ・スイスの財務指標は金融当局が求める厳しい水準を上回っていた。かつての金融危機を経て規制強化が進み、経営は健全化したはずだったが、株価急落で1日あたり100億スイスフランもの大量の預金流出で流動性が急速に失われ、クレディ・スイスは生き残れなくなった。UBSによるクレディ・スイス買収ならびに日米欧の6中銀によるドルの潤沢な供給により、ひとまず金融ショックは和らいだかに見えたが、クレディ・スイスが発行したAT1債の扱いが波紋を呼んでおり注視する必要が出てきている。

 AT1債とは銀行の資金調達の一種で、AT1とは「Additional Tier 1」の略語。銀行の資金調達には預金や社債などがあるが、リーマンショック後に銀行が資本基盤を増強するために、資本の一部として認められた償還期限のない永久劣後債(利回りは高いが、銀行の破綻時に預金や社債に比べて弁済が後回しにされる債券)である。今回のUBSにおけるクレディ・スイスの買収において、クレディ・スイスの株式は保全された代わりに、AT1債券(2.2兆円)を全損としてスイス金融当局が認めたため、債券の保有者に動揺が走っている。

株式を保全し、AT1債の価値をゼロにした措置が及ぼす行方を注視

 通常は銀行が破綻した場合、株式が無価値になりAT1債には価値が残るが、その逆が起こった。株主が救われ、AT1債の保有者の資産がゼロになったわけである。当然ながら、被害を被った投資家の不満は大きく、集団訴訟を起こす動きが出ている。スイスの金融当局は「目論見書と存続に関わるイベントが発生した場合の緊急法令に従った」と釈明に追われている。AT1債を発行しているのはほとんどが欧州の金融機関であり、世界に36兆円の残高が存在すると言われている。

 欧州の劣後債市場で現在、AT1債のコール(期日前償還)がおこなわれるかどうかの懸念が出ていると報じられている。最も心配されているのが6月3日に償還可能になるイタリアのウニクレディト債(残高13.3億ドル)だ。通常の利回りは10%弱程度であるが3月22日には29%へ急上昇した。想定された償還日が迫る中で額面割れになり利回りが上昇しているためだ。AT1債は永久劣後債であるが、実は発行企業の判断で早期償還が可能である。投資家も信用リスクを考慮して、償還されることを前提にAT1債を購入している。米国のシリコンバレーバンクの破綻から飛び火したクレディ・スイスAT1債の全損は、投資家に保有リスクの再検討を促している。

欧州の劣後債市場は要警戒だが、SVB破綻に端を発した金融不安は後退

 3月24日の欧州株式市場では銀行株への売り圧力が続き、ドイツ銀行は9%安と5か月ぶりの安値を付けた。同行のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ:債務不履行リスクを評価する金融商品)の5年物が2.2%台まで上昇して2018年以来の高水準となった。欧州中央銀行(ECB)は3月20日にAT1債について「新たな金融機関救済の際には、株式より劣後する損失処理方法は否定する」との声明を出したが、今後の動向には要注目である。

 ところで、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)ではこのところの金融不安から「利下げもありうるのでは」との観測も出ていたが、予定通り0.25%の利上げをおこなった。2023年末の政策金利中央値は5.1%と昨年12月の見通しを変えなかったことから、利上げはあと1回の0.25%との見方が示された。最近の長短金利の下落は「利上げ停止」という面と「景気減速」という面の2つの側面を反映しており、引き続き投資家心理は楽観論と悲観論が交互に入れ替わることが予想される。金利低下でバリュー株に比べてグロース株が選好される傾向が出ているが、この動きが定着するかどうかは微妙なところだ。いずれにせよ、ECBおよびFRBはインフレ抑制を優先させてそれぞれ0.5%と0.25%の利上げを立て続けに発表しているため、金融機関を取り巻く環境はマーケットの動揺ほどには深刻な状況ではないといえる。リーマンショックの再来のような可能性はほとんどないと私は考えている。

Webセミナー「金融不安を乗り越えて、この先の相場展開を読む」を開催

 さて、太田忠投資評価研究所とダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ(DFR)がコラボレーションして投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」では4月5日(水)に恒例のWebセミナーを20時より開催する。テーマは『金融不安を乗り越えて ― この先の相場展開を読む』。現状の投資戦略、投資の注意点、今後大きな上昇が期待される注目銘柄についても詳しく解説。セミナー後半では皆さまからのすべてのご質問にお答えする形で進めていく。会員限定だが、10日間無料お試し期間中でも参加可能。セミナー当日14時までのお申込み(15時URL配信)。今回も多くの皆さまのご参加をお待ちしております。

●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。

 

国内外で6年連続アナリストランキング1位を獲得した、
トップアナリスト&ファンドマネジャーが
個人投資家だからこそ勝てる

「勝者のポートフォリオ」を提示する、
資産運用メルマガ&サロンが登場!

老後を不安なく過ごすための資産を自助努力で作らざるを得ない時代には資産運用の知識は不可欠。「勝者のポートフォリオ」は、投資の考え方とポートフォリオの提案を行なうメルマガ&会員サービス週1回程度のメルマガ配信+ポートフォリオ提案とQ&Aも。登録後10日間は無料!

太田忠の勝者のポートフォリオ

10日間無料 詳細はこちら※外部サイトに移動します


「勝者のゲーム」と資産運用入門 バックナンバー

»もっと見る

【クレジットカード・オブ・ザ・イヤー 2023年版】2人の専門家がおすすめの「最優秀カード」が決定!2022年の最強クレジットカード(全8部門)を公開!
【クレジットカード・オブ・ザ・イヤー 2023年版】2人の専門家がおすすめの「最優秀カード」が決定!2021年の最強クレジットカード(全8部門)を公開! 最短翌日!口座開設が早い証券会社は? おすすめ!ネット証券を徹底比較!おすすめネット証券のポイント付き
ZAiオンライン アクセスランキング
1カ月
1週間
24時間
イオンカードに新規入会5%OFF!詳しくはこちら! 楽天カードは年会費永年無料で、どこで使っても1%還元で超人気! 【マイルの貯まりやすさで選ぶ!高還元でマイルが貯まるおすすめクレジットカード!
イオンカードに新規入会5%OFF!詳しくはこちら! 楽天カードは年会費永年無料で、どこで使っても1%還元で超人気! 【マイルの貯まりやすさで選ぶ!高還元でマイルが貯まるおすすめクレジットカード!
ダイヤモンド・ザイ最新号のご案内
ダイヤモンド・ザイ最新号好評発売中!

最強5万円株
毎月高配当
ふるさと納税

1月号11月21日発売
定価780円(税込)
◆購入はコチラ!

楽天で「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!Amazonで購入される方はこちら!

[最強5万円株/毎月高配当]
◎巻頭企画①
2年目NISA6つのチェックポイント
損が出ていたらどうする?
旧NISAの正しい仕分け方は?など

◎巻頭企画②
中間決算速報!2025年に向けて上がる株
通期上ブレ期待株
稼ぐ力が高まった株

◎第1特集
少額でたくさん買える!
配当利回り5%超や10倍株など!
最強5万円株93銘柄

十夢が直撃!桐谷さん、5万円株の魅力を教えて!
桐谷さんお墨付き!5万円優待株!
●有名株も大化け期待株も!イチオシお宝株
●長期で安心して持てる!買いの高配当株
-配当利回りトップ50買い売り診断
●株価10倍が狙える株も!プロ厳選株

◎第2特集
毎月配当金&優待がもらえる生活
毎月配当&優待をもらうための3つの極意&買い時
●1~12月決算月別のオススメ株72を公開!
配当+優待カレンダー
●綴じ込み付録:勝ち株を書き込める!銘柄管理シート

◎第3特集
NISAで勝つための新戦略!ETF入門
桶井道さん&たぱぞうさん2人の凄腕のワザも!
【別冊付録】
年末の失敗も撲滅!駆け込み!
「ふるさと納税絶品カタログ」全7ジャンル

●Category①肉類
●Category②魚介類
●Category③加工食品
●Category④新米&ごはんのお供
●Category⑤果物・野菜
●Category⑥菓子・飲料

◎連載も充実!

◆目指せ!お金名人
◆10倍株を探せ!IPO株研究所2024年10月編
◆おカネの本音!VOL.29兒玉遥さん
◆株入門マンガ恋する株式相場!
◆マンガどこから来てどこへ行くのか日本国
◆人気毎月分配型100本の「分配金」速報データ!


>>「最新号蔵出し記事」はこちら!
>>
【重要】定期刊行物 予約購読規約変更のお知らせ


「ダイヤモンド・ザイ」の定期購読をされる方はコチラ!


>>【お詫びと訂正】ダイヤモンド・ザイはコチラ

【法人カード・オブ・ザ・イヤー2023】 クレジットカードの専門家が選んだ 2023年おすすめ「法人カード」を発表! 「キャッシュレス決済」おすすめ比較 太田忠の日本株「中・小型株」アナリスト&ファンドマネジャーとして活躍。「勝つ」ための日本株ポートフォリオの作り方を提案する株式メルマガ&サロン

ダイヤモンド不動産研究所のお役立ち情報

ザイFX!のお役立ち情報

ダイヤモンドZAiオンラインαのお役立ち情報