東証がPBR1倍割れの企業に改善要求。株価テコ入れのきっかけとなるか?
いよいよ東証が上場企業の株価評価をテコ入れへ―。
昨年から東京証券取引所は「日本株が割安でも買われない原因に根本的な改革を迫る」として議論を重ねてきたが、いよいよPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る上場企業に対して、現在の株価水準を引き上げるための具体策の開示を求めることになった。対象は東証プライム市場とスタンダード市場に上場する3300社のうち、PBRが1倍割れの過半数に該当する約1800社である。PBRが1倍を下回る要因分析、改善のための具体策の開示(開示方法は自由形式)を求める。
読者の皆さんはすでにご存知だと思うが、PBRが1倍を下回る状況とは、もう今の経営などやめて企業を解散し、手持ちの純資産を分配したほうが株主のリターンが大きい状態を指す。「あなたの企業の存在価値などありません」「もう解散した方がいいですよ」という株式市場からのメッセージである。
TOPIX500銘柄でPBR1倍割れの企業は43%。一方、米S&P500は5%
東証はPBR1倍割れの企業が多いことに危機感を強めており、上場企業の経営者に意識改革を促すことで低水準な株価のテコ入れを図るのが目的だ。1800社はもちろん時価総額の小さなものから大きなものまですべてをひっくるめての企業数であるが、問題は時価総額の大きな日本を代表する企業ですら解散価値を下回っている企業がゴロゴロしている点である。ちなみに東証がまとめたデータよると、2022年7月時点で東証株価指数(TOPIX)500構成銘柄のうちPBR1倍割れの企業の比率は43%。これに対して米S&P500種株価指数ではわずか5%、欧州ストックス600で24%となっており、日本が格段に多いことがわかる。時価総額が大きい企業は合格点、という形にはなっていないのだ。「日本企業は国際競争力がなく、価値創造力もきわめて貧弱だ」と海外投資家から思われても仕方がない。
そもそも純資産とは株主から集めた資金である。これが有効活用できておらず、収益力が低すぎるために解散価値を下回る評価となる。それがPBR1倍割れだ。「おまえの企業は資本効率が悪い!」と株主や投資家から問題視されて当然である。
ところでPBRを向上させるためには何が必要なのだろうか? PBRはPER(株価収益率)とROE(自己資本利益率)を掛け合わせた値である。仮にPERを一定とすればROEを高めることでPBRは上昇する。PERは投資家による主観的評価で多分に決まる傾向があるが、ROEはそういう外部からの評価ではなく自社努力さえすれば、自ら高めることができる。具体的にはROEを構成する諸要素となる売上高純利益率や総資産回転率の向上、さらに財務レバレッジを引き上げる手段なども該当する。とにかく、株主から預かっている資本を生かしてより大きなリターンを生み出す努力を行うことが大切であり、その実践が企業価値の向上につながるというわけだ。
PBR1倍割れの企業に求められるのは、継続的な株主還元とROEの向上
PBR1倍割れの企業にとっては、まずは解散の烙印を押されないPBR1倍を目指すためにROEをどれくらい高めなければならないのか? という発想が必要である。単に株価上昇を目的とした一過性の増配や自社株買いに走っても、それは今風に言えば「サステイナブル」ではないため、上昇しても株価を維持できないだろう。株主還元ももちろんPBRの評価アップにつながるが、一過性ではなく継続的におこなうことが前提となる。それを実行するためには、やはり稼がなければならないため、結局は自己資本利益率であるROEの向上が必要となってくる。東証は今回の取引所自らが上場企業へPBRの改善を求めるのは「世界的にも珍しい取り組み」と認めており、仮にプライム市場に上場するPBR1倍割れ銘柄が1倍にまで是正された場合、時価総額は現在の約700兆円から約850兆円に増えると試算している。
もちろんすべての企業が真剣に取り組むことまでは期待できないが、そもそもマーケットにおける企業の時価総額は企業価値そのものだ。500億円の時価総額の企業と1000億円の時価総額の企業は価値が違う。従来の日本株への評価は「資本コストの意識が低い、リターンの低い、魅力的ではないマーケット」だったが、経営者の意識が変わりPBRが是正されていく方向が明確になれば、魅力的なマーケットに様変わりする。なぜなら、世界の主要株式市場に比べると日本市場はあまりにも割安だからだ。1973年に高値を付けた後に急落し1980年代初頭まで「株は死んだ」と言われた米国市場では半分以上の企業がPBR1倍割れだった…という遠い遠い昔のことをふと思い出した。
明日開催のWebセミナーで「勝者のポートフォリオ」の好調銘柄を紹介!
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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