今回は海外のファイナンシャル・プランナー(FP)がよく勧めている、「60・40ポートフォリオ」について紹介したいと思います。
60%を株、40%を債券に配分する「60・40ポートフォリオ」
60・40ポートフォリオは60%を株に配分して、40%を債券に配分するポートフォリオです。このポートフォリオはETFの普及によって、簡単に、かつ安く構築できるようになりました。通常、債券は普通株と逆相関するので、このポートフォリオを構築すれば、リスクを最小限に止めながらリターンを最大化させることができます。
60・40ポートフォリオは、ノーベル経済学賞受賞につながった現代ポートフォリオ理論に基づく定番の投資戦略です。この戦略で、同じリスクで最大のリターンが得られる効率的フロンティアに近づこうとします。
個人投資家が60・40ポートフォリオを構築しようと思ったら、どのようなETFに投資すれば良いのか?
個人投資家が60・40ポートフォリオを構築しようと思った時、自動的にリバランスして60・40ポートフォリオを保つETF、たとえばVGSTXに投資するという方法もありますが、S&P500に連動するSPYまたは全世界の株式に投資するVTというETFと米国債券に投資するAGGというETFを組み合わせ、自分でリバランスするという方法もあります。
各ETFの経費率はVGSTXが0.31%、VTが0.05%、SPYが0.0945%、AGGが0.03%です。みんな、かなり低コストです。
この投資戦略の良いところは、分散が効き、バランスが取れていて、リスクは抑えられており、簡単なことです。
10年間の累計リターンはSPYのみだと206%、60・40ポートフォリオは66.21%
この戦略の過去のパフォーマンスを分析し、さらに、この戦略の将来はどうなりそうか、検討してみましょう。
まず、実際に過去10年、どんなパフォーマンスを出していたか、調べてみました。VTとAGGで60・40ポートフォリオを構築し、毎月リバランスするバックテストをやってみたのです。
ただその前に、比較対照用としてSPYだけのポートフォリオを見てみましょう。過去10年でそのリターンは年率12.94%、リスク(標準偏差)は14.62%でした。
その一方、60・40ポートフォリオのリターンは年率5.62%で、リスクは9.51%でした。
シャープレシオ(※)はSPYだけだと0.79、60・40ポートフォリオは0.47になります。
(※「シャープレシオ」とはリスクに見合ったリターンが上がっているかを測る指標。当該資産のリターンから無リスク資産で得られるリターンを差し引いたものを当該資産のリスクで割って求める。この数字が高いほど、投資効率が良いことになる)
また、最大ドローダウン(利益のピークから落ち込んだ率)は、SPYのみだと33.7%、60・40ポートフォリオは22.32%でした。10年間の累計だと、SPYのみのポートフォリオは206%のリターンを見せてくれました。一方、60・40ポートフォリオは66.21%のリターンでした。
日本国内のゼロ金利預金、リターンの低い年金保険、ドルベースの日本株ETF(EWJ)の同時期のリターン49.51%と比べると、SPYのみのポートフォリオ、60・40ポートフォリオは両方いいリターンを見せてくれました。
過去10年、60・40ポートフォリオにすればリスクが低減できたが、リターンはそれ以上に激しく減った。それはなぜか?
この結果からまずわかるのは、60・40ポートフォリオのリスク、すなわちブレ幅はSPYだけよりは低いということです。しかし、リターンはリスク低減分よりも激しく減っています。リスクを減らすことに払う対価はここ10年は高かったということになります。
これはなぜでしょうか?
債券価格は2014年から2020年まで、レンジ内の動きをしていました。言い換えると、金利は2020年までの15~20年間は基本的にずっと低かったのです。金利が動かないと、債券価格もあまり動きません。
そして、2021年以降、インフレが到来したことなどで金利は上昇し、債券価格は暴落しました。一方、株は一時的なクライシスを除けば、基本的に右肩上がりでした。
60・40ポートフォリオに投資することによって、リスクは低減できても、リターンはだいぶ目減りしたことになります。基本的に、2020年までの15年ぐらい、金利がずっと低かった時代は、リスクに少し耐えられるのであれば、株だけに投資する方が良かったのです。
今後10年は「株と債券が両方上昇」するシナリオがあり得る。投資初心者などには60・40ポートフォリオが魅力的な投資戦略に
では、これからはどうなりそうでしょうか?
まず債券の方から見てみましょう。中長期金利(5年債利回り、10年債利回り)は高止まりするか、いつかは下がると私は考えています。インフレが緩和されているからです。
それと、アメリカがクライシスになるほど、不安定になるほど、みんなは米国債に逃げますので、ある程度以上の債券需要はあると考えています。そう考えると、これからの10年間、債券のリターンは過去10~15年ぐらいよりも良いと考えていいだろうと思います。ハイパーインフレになれば話は違いますが、今はそこまでのことは見えません。
今後、株はAIの発展などによって上がるでしょう、特に大型テクノロジー株は金利上昇の中でも株価が上がっています。短期金利、長期金利が上がっている割には景気も堅調です。中長期で見ても、株は悪くないと思います。
過去10~15年だと「債券は横ばいまたは下落、株は上昇」というシナリオでしたが、今後10年は「株と債券が両方上昇」するシナリオがあり得ます。
もちろん債券のリターンは長期で見ると、株の上昇よりは低いはずなので、60・40ポートフォリオのリターンは株だけを持つより悪くなりますが、これから10年のシャープレシオ、すなわちリスクに対して得られるリターンは高くなると思います。
投資アドバイザーに高い手数料を払わなくても、60・40ポートフォリオは自分で構築でき、低コストです。なので、かなり魅力的な投資戦略だと思います。特に投資初心者、リスクをあまり取りたくない投資家などには良い投資戦略だと思います。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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