売上げ約2倍! 純利益約9.4倍!──8月下旬に発表されたエヌビディア(NVIDIA、ティッカー:NVDA)の第2四半期(5-7月期)決算。その驚異的な前年同期比の数字に市場は息をのんだ。エヌビディアはアメリカの大手GPUメーカーだが、時価総額1兆ドルを超える巨大企業が、まだ規模の小さな新興企業のような「業績の跳躍」を見せたのだ。
熱狂の中ではなく、底値に近いタイミングでエヌビディア株に投資していた投資家がいた
X(旧ツイッター)を見てみると、そこにはエヌビディアの驚異的な決算に対する投資家の興奮があふれていた。実際、翌日のエヌビディア株は前日比6.6%高と高く寄り付く。その瞬間、チャート上に開いた大きな上窓は、投資家の興奮と熱狂の証明だった。しかし、この日のエヌビディア株は寄り付き後に下がって、結局、ハッキリとした陰線になってしまった。寄付の価格が高い、いわゆる「寄天」となってしまったのだ。
確かにエヌビディアはスゴい企業なのかもしれない。けれど、スゴい決算を見て「エヌビディア祭りだ~!」と飛びつき買いしても、そう簡単には儲からない。そんなことを思わせる値動きだった。
ここでカレンダーを少し前に戻してみよう。
以下のチャートを見てみると、この時、エヌビディアは下落トレンドにあったことがわかる。先ほどの熱狂とはほど遠い雰囲気だ。このチャートを見て、どこまで下がるかわからないと感じる人もいることだろう。
しかし、これはあの熱狂のほんの10ヵ月ほど前までのエヌビディアのチャートなのだ。そして、この頃、熱狂的にではなく、冷静沈着にエヌビディア株を買いに出た1人の投資家がいた。フィデリティ投信で中国株&日本株調査部長として活躍し、早々に資産を築いて、40代でFIREしたポール・サイ氏だ。
上のチャートでは、ポール氏がエヌビディア株を買ったところに赤マルをつけているが、その赤マルはそのままにして、チャートを直近のところまで延ばして見てみよう。以下のチャートがそれだ。
ポール氏は底に近いところでエヌビディア株を買い、その後の大きな反転上昇を享受していたことがわかる。どうだろう。こんなふうにうまく自分も取引してみたいと思った人もいるのではないだろうか。
できる。それは誰にでもできることなのだ。
そんなうまい話がこの世にあるものか? それがあるのだ。
なぜなら、ポール氏はメルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」にて、上記チャートの赤マルをつけたタイミングでエヌビディア株を買い推奨していたからである。ポール氏のメルマガを購読していた人は誰だって、このとおりにエヌビディア株を買うことが可能だったということだ。
分散投資をきちんと行った上で、1年間のリターンは55.56%! S&P500指数連動ETFに50%超の差をつけた!
ポール氏のメルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」は2022年8月にスタートした。メルマガ開始から丸1年を少し過ぎたことになる。
そのパフォーマンスはどんなものだったろうか? メルマガ内で取り上げられた銘柄で構成されたポール氏推奨ポートフォリオのリターンはどうだったのか、ということである。
ポール氏推奨ポートフォリオの構築は2022年8月15日から始まったが、そこからきっかり1年が経過した時、そのリターンは
55.56%
にもなっていた(為替差損益を含む)。
これがどんなにスゴい数字なのか。米国を代表する株価指数の1つ、S&P500指数と比べてみよう。
同指数に連動するETFが同期間に生み出したリターンはわずか4.11%。ポール氏の推奨ポートフォリオはS&P500指数に対し、1年で実に50%以上もの大差をつけていたことになる。
以下のグラフは直近までのポール氏の推奨ポートフォリオとS&P500指数連動ETFのリターンを並べたものである。オレンジ色のラインがポール氏推奨ポートフォリオ、赤色のラインがS&P500指数連動ETFだ。両者の差は小さく揺れ動きながらも、時が経つにつれ、徐々に着実に拡がってきたことがわかる。
先ほど、スタートしてから1年きっかりの時点で、ポール氏推奨ポートフォリオのリターンは55.56%とお知らせしたが、その後、この数字はさらに伸びている。上のグラフに示した直近までの最新データでは、そのリターンは65.43%にもなっているのだ。
本記事冒頭では、ポール氏のエヌビディア株の買い推奨について紹介したが、ポール氏の推奨ポートフォリオがもしもエヌビディア株に全集中していたら、リターンはもっと大きく伸びていたことになる。個人トレーダーの中にはそういった集中投資が得意という人も時々いる。しかし、集中投資はうまくいけば大きなリターンが望めるが、その反面、リスクはかなり高くなる。
その点、ポール氏の推奨ポートフォリオには現在、十数銘柄が組み入れられている。オーソドックスな分散投資が行われ、リスクは軽減されているのだ。その組み入れ対象は米国株を中心とした世界株である。ポール氏はリスクを軽減した分散投資をきちんと行った上で、1年間のリターン55%超というすばらしい数字を叩き出していたのである。
「いい会社が安くなったところで買う」という基本的投資方針。簡単明瞭だが、誰もがうまく実行できて、大きな成果を出せるとは限らない
ポール氏はどんなふうにして、あんなにいいタイミングでエヌビディアを買いに出られたのか。ポール氏の過去のメルマガやポール氏への取材などから、そこのところを今少し掘り下げてみたい。
ポール氏がメルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」の中でエヌビディアを買い推奨したのは2022年9月2日配信号でのことだった。当時のメルマガから少し引用してみよう。
ここでNvidia(エヌビディア・NVDA)という銘柄を推奨したいです。NvidaはGPU (画像処理装置・Graphics Processor Unit)のリーダーの会社です。
投資する理由を3点で説明すると、
1.GPUはAI, 仮想通貨に不可欠なものです。NvidiaはGPU分野で圧倒的な強さを持っていて、これから長期に伸びることが期待できます。仮想通貨の弱さに釣られて株が下落している今は、買うチャンスだと思います。(後略)
(2022年9月2日配信「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」より)
ポール氏の基本的な投資方針は…
「いい会社が安くなったところで買う」
というものだ。実に簡単明瞭だ。わかりやすい。
しかし、簡単明瞭だからといって、誰もがそれをうまく実行できて大きな成果を出せるとは限らない。それは自ら投資を行って、相場と格闘してきた少なからぬ個人投資家がうなずくことではないだろうか。
ここで、このポール氏の簡明な基本的投資方針から2つの要素を取り出して、さらに簡単にしてみる。すると…
(2)安くなったところで買う
という2つの要素が抽出できる。
先ほど引用したポール氏のメルマガで言えば、(1)の「いい会社」というのは、エヌビディアがGPU分野で圧倒的強さを持っており、GPUはAI、仮想通貨に不可欠なものという部分がそれに該当する。なお、この時のメルマガでポール氏はエヌビディア推奨理由を計3つ挙げているが、先に引用した文章は1つめの途中までに止めている。ポール氏のメルマガに会員登録すれば、メルマガのバックナンバーは誰でもすべて見られるようになる。
次に(2)の「安くなったところ」についてだが、先ほどのメルマガからの引用の中では「仮想通貨の弱さに吊られて株が下落している今は、買うチャンス」というのが「安くなったところ」について触れている部分になる。
「悪いニュースはいいニュース」ってどういうこと!?
今回、筆者がポール氏に取材した時、ポール氏から
「悪いニュースはいいニュース」
という言葉を聞いた。この言葉を聞いて、筆者はいささか面食らったが、これはいったいどういう意味なのか?
先ほど挙げたポール氏の基本的投資方針の1つめを思い出してほしい。ポール氏が狙うのは「いい会社」である。しかし、将来性のある「いい会社」は株価がなかなか安くならない。だから、待ち望まれるのは悪いニュースなのだ。「いい会社」の株価は悪いニュースでも出てこないとなかなか安くならないからである。
これがポール氏の「悪いニュースはいいニュース」という言葉の真意だ。
「悪いニュースはいいニュース」といっても、何でもかんでも悪いニュースが出た株を買えばいいというものではない。それが「いい会社」でなければ、悪いニュースは長く大きな株価下落をもたらしてしまうかもしれない。
そうではなく、その企業が将来性のある「いい会社」であることをあらかじめわかっていた上で、悪いニュースが出て安くなったところを中長期投資で買うのがいいということなのだ。そうすれば、悪いニュースの影響でさらに下がることもあるかもしれないが、その下落は短期的なもので終わり、中長期的には株価は上昇して、投資家は報われるはず、という考え方なのである。ただし、そのような投資法を行う投資家にはその会社が「いい会社」であることを判別する確かな目が求められるが…。
エヌビディアのGPUは仮想通貨(暗号資産)のマイニングに使われる。そのため、仮想通貨相場の盛り上がりとともにエヌビディア株も大きく上昇する局面があった。その後、仮想通貨相場が盛り下がると、エヌビディア株も大きく下落してしまった。両者が連れ安している様子は以下のチャートによく示されている。
しかし、エヌビディアのGPUが活躍する場は仮想通貨のマイニングだけに止まるものではない。エヌビディアのGPU、エヌビディアという会社はもっと大きな将来性を持った存在なのだ。
詳しいことは本記事シリーズの中で、さらにこのあと述べていくが、大まかには上記のようなことで、ポール氏は、エヌビディア株が仮想通貨相場に連れ安して悲観視されていた局面を買い場と判断していたのだった。
ちなみに「悲観視」という言葉もポール氏の投資法の重要なキーワードだ。
これまで筆者がポール氏への取材を繰り返す中、ポール氏からはたびたび「チャンスは悲観視されているところにこそある」という言葉が出てきた。
[参考記事]
●ネットフリックス(NFLX)やメタ(META)を総悲観の中で果敢に買いに出られたワケとは? S&P500に28%もの差をつけたヒミツに迫る!
ポール氏のここまでのポートフォリオ全体は「石油株を中心としたコモディティ関連銘柄」と「テクノロジー株」を中心としたものになっていた。対照的な投資対象を組み合わせる「バーベル戦略」を取ってきたのである。
[参考記事]
●S&P500に大差をつけた「バーベル戦略」の片翼を担った石油株。中期ではいいけれど、長期でなぜ持ってはいけない?
世界的に脱炭素が叫ばれるなか、石油株には未来はないと市場は考え、しばらく前まで石油株はかなり売り込まれ、セクター全体が悲観視された状態にあった。そこにポール氏はチャンスがあるとみたわけだ。
(「株式市場は詐欺的!? ハイテク株の女王、キャッシー・ウッド率いるアークの旗艦ファンドはなぜ悲惨な成績なのか?」へつづく)
(取材・文/フリーライター・井口稔)
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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