「勝者のゲーム」と資産運用入門

日銀がYCCを再修正し、長期金利1%超えを容認。
日本経済もようやく金利のある、まともな世界に。
FRBの利下げ&日本の金融正常化で日本株は上昇!太田忠の勝者のポートフォリオ 第109回

2023年11月7日公開(2023年11月13日更新)
太田 忠
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3週間ぶりに急反発!NYダウは1644ドル高、日経平均は958円高

 NYダウは1644ドル高、そして日経平均は958円高―。

 先週は日米市場とも3週間ぶりに急反発した。先々週はNYダウが3万2400ドル台まで下がって3月以来の安値水準、日経平均は3万600円台まで下落して5月以来の安値水準となっていた。株式市場は金利に振り回されて高いボラティリティが続き、もう一段の下落を覚悟せざるを得ない雰囲気が漂っていた。

 SNS上では「この相場はヤバそう…」「チャートの形はブラックマンデーが来ることを示唆している!」などの悲観的なコメントが散見されたが、そうした妄想を吹き飛ばす1週間となった。とにかく、SNSは根拠のない無責任な意見や、極端に偏った感想に溢れており「百害あって一利なし」である。気をつけていただきたい。

FOMCの金利据え置きに安堵した市場だが、日銀のYCC修正に要警戒

 先週は日米中央銀行による金融政策発表が相次いだ。まず米連邦公開市場委員会(FOMC)だが、事前の予想通り9月に続いて11月も政策金利の据え置きを決定した。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の記者会見は「今後は経済データに基づいて注意深く金融政策をおこなう」「必要があれば利上げをまだ行う可能性はある」という従来通りのコメント。これを受け、フェッドウオッチ((シカゴ・マーカンタイル取引所グループが算出する利上げ予想確率))は12月が20%、来年1月が28%、3月が23%、5月が13%となっており、現在の5.25%~5.50%の政策金利は今回の利上げのピークとの見方が強まってきた。

 そして日銀だ。「日銀内部では現在、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)再修正の議論が出ているため目が離せない」「YCCの再修正が行われれば株式市場の一時的な下落は避けられず、ボラティリティが高まる可能性がある」と私は投資助言のレポートで最近コメントしていたが、植田和男総裁はYCCの修正を行った。

日銀はYCCを再修正し長期金利1%超えを容認したが、ショックは起きず

 「突然のYCCショック!」。皆さん、覚えているだろうか? そう、黒田東彦前日銀総裁が2022年12月に長期金利の上限を0.25%から0.5%へ引き上げた「黒サンタショック」のことだ。まさにクリスマスのシーズンに黒いサンタクロースが日銀からやって来たのだ。事前にフォワードガイダンス(先行きの指針)を示すことなく、市場との対話を無視した決定で市場を驚かせ、日経平均株価は一時800円安、マザーズ市場は5%近い下げを記録した。

 植田総裁は今年7月に0.5%を「めど」に変え事実上の上限を1.0%に、そして今回は1.0%を「めど」に変えて長期金利の1%超えのレベルを容認した。一方、短期金利である政策金利は-0.1%とマイナス金利政策を継続した。

重要なので繰り返す。「金融正常化は日本株にとって逆風ではない」

 果たして、実際の日米金利はどうなったか? 米国の長期金利は4.9%台から一気に4.5%台に低下し、日本の長期金利は一時0.955%と2013年5月以来となる10年5か月ぶりの高水準となった。相場のボラティリティの要因であった金利に好ましい動きが出てきたと言える。

 「これからFRBが金融緩和をして金利を下げれば金融相場が来ることは理解していますが、日銀は逆に金利を上げていくとしても日本株は上がるのでしょうか?」という質問を受けた。この半年の間で、私が一番よく受ける質問である。

 日本株も含め世界の株式市場の方向性を決めるのはFRBの金融政策である。日銀はFRBのような急速な金融引き締め政策は行わない。日本の場合、あくまでもマイナス金利からの脱却、すなわち「金融正常化」に向けたステップを踏むわけであり、日本経済にとってはプラスだ。株式市場の下落があったとしても一時的なものだ。金利のない世の中では経済は活性化しない。それは過去10年来我々が体験してきたことだ。「ゼロ金利、給料横ばい、増税、希望のない社会…」を十分すぎるほど味わってきた。金融正常化は日本の株式市場にとって逆風ではない。とても重要な点だ。これが皆さんに言ってきた私の回答である。要するに、FRBが利下げをおこない日銀が金利正常化すれば、日本株は上昇する。

早くもYCC修正の効果。三菱UFJ銀行が10年定期預金金利を100倍に!

 日銀が金融政策を再修正したことで、久しくゼロ%台だった日本の金利の常識が変わるのだ。幅広く金利が上がれば家計は利子収入が増える。資産運用にもプラスになる。適度な金利上昇は経済活性化の潤滑油の役割を果たす。もちろん負の側面もあるが、社会全体で見れば活力が出てくるはずだ。

 このように考えている最中、早速大きなニュースが飛び込んできた。「三菱UFJ、10年定期預金の金利100倍」というビックリの見出しが新聞に躍った。三菱UFJ銀行は10年定期預金金利をこれまでの0.002%と比べて100倍の水準となる0.2%に引き上げるとのことだ。まさにYCCの修正に伴う長期金利の上昇を反映した形である。従来は100万円を預けても年間利息が20円だったのが、2000円になるのだ。金利が死んでいた状態から、少し目を覚ましたことがよく分かると思う。10年定期の金利引き上げは12年ぶりだそうだ。家計の金融資産は2000兆円を超え、そのうち半分を現預金が占めるのはご存知のとおりだ。個人が失っていた金利収入に復活の兆しが出てきた。もちろん、来年は新NISAのスタートで「貯蓄から投資へ」の本格的な号砲が鳴る。金融所得が増えてくれば、沈滞している消費意欲の改善につながる可能性がある。

見透かされた岸田首相の「減税・給付案」。策士、策におぼれるの典型だ

 ところで、岸田文雄首相が打ち出した「減税・給付案」。税収増の還元策というのが表向きの理由だが、そもそも歳出増加が著しく還元するほど税金は増えておらず、しかも1年限りの政策だ。明らかに選挙対策を狙ったものであることが見透かされており、当然ながらこのような政策に期待する国民はほとんど皆無の状況である。「増税メガネ」と揶揄されるのが嫌で減税にこだわった。それが国民に見透かされた。「策士、策におぼれる」というわけである。

 歴代政権もたびたび打ち出してきた減税策だが、政権浮揚につながった例は乏しく、むしろ混乱を招いた場合の方が多い。税金を一時的な政治の思惑で使うのは本末転倒。1998年に橋本龍太郎内閣が所得税の定額減税で失敗して橋本氏は退陣、後を継いだ小渕恵三内閣も不作、2007年の安倍晋三内閣でようやく軌道修正された。また過去の失敗の轍を踏もうとしているのだろうか。残念である。

●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。

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