トランプ氏の大統領選勝利により、彼の関税政策への注目度が高まっています。
関税を上げることは、アメリカ経済にとって良い政策なのでしょうか? そのことを検討するために、まず、世界貿易とグローバリゼーションの関係について考えてみましょう。
グローバリゼーションによって、企業は低コストで効率的な生産地を求めるようになっている
世界貿易とグローバリゼーションの関係を理解するには、製品がどのようにして国境を越えて移動するかを知ることが大切です。
グローバリゼーションによって、企業は低コストで効率的な生産地を求め、製品は最も費用対効果が高い地域で生産される傾向があります。
こうした地域では、低コストだけでなく、クラスター化などの利点も享受でき、地域全体で効率と生産性が向上するのです。経済学者ポール・クルーグマンも指摘するように、特定の産業が一箇所に集まることで相乗効果が生まれ、コスト削減以上の利点が得られるとされています。
企業の低コストで効率的な生産地を求める動きによって、高コスト地域の労働者が職を失う結果になることも少なくない
企業が低コストの地域に生産を移す理由は明確です。
安価な労働力や効率的なサプライチェーンにより、コストを最小限に抑えることができ、消費者に低価格で製品を提供できるからです。
しかし、これによって高コスト地域の労働者が職を失う結果になることも少なくありません。
たとえば、アメリカの製造業が中国や他の地域にシフトした例が挙げられますが、これはそれらの地域がより低コストな生産地だったために、そうなったのです。
これによって、アメリカの製造業で失業した労働者が仕事を取り戻すのは非常に難しいでしょう。なぜなら、彼らはもはや最もコスト効果の高い生産者ではないからです。
労働者がこういった社会的変化に対応するためには、単に関税を上げることを求めるのではなく、バリューチェーンの上位に移行し、より高い生産性を追求する必要があります。
つまり、労働者はより付加価値の高い仕事に従事できるよう、教育や職業訓練を通じてスキルを向上させていく必要があるのです。
トランプ政権が計画している関税の導入は、アメリカ経済の長期的な利益に貢献するものとは考えにくい
関税は一時的に国内産業を保護する効果があるかもしれませんが、それは長期的な問題解決策にはならないのです。
そのため、トランプ政権が計画している関税の導入は、アメリカ経済の長期的な利益に貢献するものとは考えにくいです。
関税によって、短期的には特定の産業を保護することができても、それはグローバル市場での競争力を根本的に高めるものではありません。クルーグマンも指摘しているように、グローバリゼーションの流れを完全に止めることは不可能であり、関税はその力を抑える一時的な手段に過ぎません。
特に、グローバルな競争力が鍵となる時代において、企業は依然として低コスト地域を生産地として選び続けます。この現象は市場原理に基づくものであり、関税ではその根本的な流れを変えることはできません。消費者は安い価格を求め、企業はその需要に応えるための最適な方法を模索し続けるからです。
短期的な投資では、関税の影響を見極めてリターンを狙うことも可能だが、長期的な投資で関税の影響は限定的
投資家にとっては、関税が短期的に特定の企業や産業に与える影響を見極めて取引を行うことも1つの戦略かもしれません。どの企業が関税の悪影響を受け、どの企業が関税の恩恵を受けるかを見極め、短期的なリターンを狙うことが可能です。
しかし、長期的な投資においては、関税の影響は限定的であることを理解することが重要です。むしろ、関税の有無に関わらず、最も優れた企業に投資する方が、長期的なリターンを期待できるやり方でしょう。
最終的に、グローバリゼーションの力に対抗するためには、関税ではなく、教育や技術訓練に投資することが必要です。こうして生産性と競争力を高めることこそが、持続的な経済成長を支える唯一の手段なのです。
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●ポール・サイ ストラテジスト。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人で中国語、英語、日本語堪能。外資系資産運用会社・フィデリティ投信では中国株調査部長、日本株調査部長、ファンドマネジャーを歴任。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。米国株などで資産運用を助言するメルマガを配信中。