米バイデン大統領が日本製鉄によるUSスチールの買収案を阻止
新年早々、大きなニュースが飛び込んできた。日本製鉄(5401)によるUSスチールの買収を米国政府が拒否する決定をバイデン大統領が下した。この決定は予想されていたこととはいえ、国内外で大きな波紋を広げており、個人的にも非常に残念なニュースである。一番の問題点は買収阻止の理由が「安全保障」を拡大解釈していることにあり、今回の非合理的な決定が日米関係に禍根を残す可能性があることだ。日本との緊密な連携を一方的に断ち切り、経済的パートナーシップを無視しているとしか思えない。米国の政府関係者からも同様の反応が多く聞かれる。
バイデン大統領のみならずトランプ次期大統領もこの買収には反対しているが、興味深いのは第一次トランプ政権で「日米経済対話」を取り仕切ったペンス元副大統領が自身のX(旧ツイッター)において「ひどい決断だ。ラストベルト(さびた工業地帯)は再び空洞化し、ワシントンに裏切られるだろう。それでは中国の思うツボだ」と批判していることである。当然、中国がこの一件を日米関係やその他の同盟国との亀裂を深めるために積極的に利用しようとするのは目に見えている。「バイデン氏の愚かな行動」という見方が多い。
85万の組合員を誇る全米鉄鋼労働組合の組織票欲しさの政治的介入か
USスチールはかつては世界一の鉄鋼メーカーであり、米国の製造業を象徴する存在だ。その「偉大なる米国」が日本によって買収されようとしているのはいたたまれない。だが、競争力を無くし自力での再建が困難になったUSスチールにとっては日本製鉄の傘下に入り、高度な技術力を生かしつつ再び復活を果たすことは唯一の道であり、経営陣はこの買収案に賛成していた。今回の不当な判断を受けて、日本製鉄とUSスチールは共同でバイデン大統領の提訴に踏み切った。何としても買収を阻止したい競合の米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが全米鉄鋼労働組合(USW)のマッコール会長と結託してバイデン大統領に働きかけたわけであるが、こともあろうにバイデン大統領はこの働きかけに応じて、政治的介入を行った。
2023年12月の発表以来、マッコール会長は買収案に一貫して反対している。そのため85万人の組合員が所属するUSWの組織票を目当てにバイデン氏とトランプ氏がいずれも買収計画に反対して政治問題化したという背景がある。安全保障上の懸念を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)は買収の是非を審査してきたものの、最終判断はバイデン大統領に委ねた。訴訟の行方は見守りたいと思うが、仮に「バイデン大統領による中止命令は無効」となれば、トランプ政権下にCFIUSで再審査されることになる。ちなみにCFIUSが作られたのは1980年代の日米半導体摩擦がきっかけである。カナダやオーストラリアなどの同盟国には審査の例外規定が設けられているが、日本は今だに例外扱いされていないところに大きな問題があると思う。
1月20日トランプ氏が大統領に就任。目玉の関税引上げ政策はどうなる?
いよいよ1月20日(月)にトランプ氏が正式に次期大統領に就任する。第二次トランプ政権が発足するわけだが、トランプ氏は大統領選挙の時から米国第一主義を掲げ、大統領になればその公約を果たすと主張してきた。2024年11月12日のコラムで『注目の大統領選はトランプ氏の圧勝、トランプ政策を点検する』で解説したように、一番の目玉は関税の引上げだ。「日本を含め全輸入品に10%の一律関税、中国製品には60%の関税」をトランプ氏は主張している。狙いはもちろん、米国の製造業を安価な輸入品から守るのが目的だ。特に7つの激戦州のうちミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニアの3つの州は製造業が集積するラストベルト(さびた工業地帯)と言われ、そこから非常に多くの支持を得た。
実際に公約通りにこの政策が行われるかどうかは不透明だ。もし公約通り実行すれば国際的な貿易摩擦を引き起こしトータルで見た場合に米国にとって逆効果を招きかねない。一部の製品を対象に時限的に関税を発動するやり方になるのでは、と個人的に見ている。関税は輸出側ではなく輸入業者が支払うため、米国内での販売価格に転嫁される公算が大きい。結局は自国民が高い買い物をさせられるのだ。物価が上昇し、インフレの要因となる。
就任前からトンデモ発言連発のトランプ氏。実行するか、ブラフか不透明
すでに自身のSNSにおいて「メキシコ・カナダに25%の関税、中国には追加で10%の関税」と投稿している。どうしてメキシコ、カナダ、中国を名指しで脅しているのか。答えは明白だ。これら3つの国が米国の輸入のトップ3だからである。メキシコ15%、カナダ14%、中国14%であり、3カ国で全体の43%を占める。「麻薬が米国に流れる元凶だから」との理由もあるが、それはある種のこじつけに過ぎず、本音は大きな比率を占めるこれらの国々から手を付けようということだ。ちなみに4位がドイツの5%、5位が日本の4%台と少ない。とはいうものの、「日本のトヨタはメキシコで自動車を生産しているから大変なことになる」との見方あるが、生産台数はGMとフォードの方が圧倒的に多くGMとフォードは大きな影響を受ける。米国メーカーが大きなとばっちりを受けるのだ。本末転倒ではないの、トランプさん!
最近では「グリーンランドを購入したい」とか「カナダが米国の第51番目の州になればカナダ国民が喜ぶ」とか「メキシコ湾の名称をアメリカ湾に変更する」などのトンデモ発言が飛び出している。ブリンケン国務長官らが火消し役に走っているが、これらはトランプ流のビジネス交渉の道具だ。実際に実行に移すことを想定しているのではなく、自身の言動を通じて現状の修正を求め、牽制を強めようとする意図が働いている。
2025年は金融相場で上昇基調だが、トランプ発言で乱高下の可能性あり
2025年は年間を通じて金融相場とは言え、昨年同様にシステマティックリスクが多発すると考えている。震源地は米国、張本人はトランプ次期大統領だ。「関税引き上げ」に関する話題は言うに及ばず、トランプ氏のトンデモ発言によってマーケットが掻き回されることは目に見えている。多発的なシステマティックリスクにひるむことなく、むしろネガティブな動きこそ好機ととらえ大胆にポートフォリオ運用に取り組んでいく。今年も「勝者のポートフォリオ」に期待していただきたい。皆さまとともにワクワクする資産運用を行っていきたいと思う。
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
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