バフェットが発表した最後の「株主への手紙」は彼自身の人生の総括であり、投資家へのいわば“遺言”だ
バークシャー・ハサウェイを率いてきたウォーレン・バフェットは毎年、「株主への手紙」を公開してきましたが、その2025年版がこのほど発表されました。
バフェットは今年で95歳。今年末(2025年末)でバークシャーのCEOを退任する予定です。
バフェットはバークシャーの年次報告書の冒頭にずっとメッセージを書いてきましたが、それもこれからはしなくなると今回の株主への手紙には書かれていました。
今回発表されたバフェットの株主への手紙は、彼自身の人生の総括であり、投資家へのいわば“遺言”であるとも言えるでしょう。そして、そこには彼の哲学が凝縮されていました。
長期的視野で企業の本質的価値を見極め、市場の波に一喜一憂せず、長期投資に徹する
ウォーレン・バフェット Warren Buffett at the 2015 SelectUSA Investment Summit パブリック・ドメイン
バフェットの成功は、派手な取引や短期的な利益ではなく、「本質的価値」を見極め、時間を味方につける姿勢にありました。彼はこんなふうに書いています。
「株価は気まぐれに動きます。時に50%下がることもあるでしょう。けれど、絶望しないでください。アメリカは復活し、バークシャーの株価も必ず戻ってきます」
市場の波に一喜一憂せず、長期的視野で企業の実力を見極める──バフェットのこのような姿勢こそ、個人投資家にも実行可能な普遍的メソッドと言えるでしょう。
バフェットの投資手法のもう1つの特徴は、「再現可能性」にあります。
バフェットの投資手法では、難解なアルゴリズムや高速取引などに関する専門的な知識を必要とするわけではありません。
バフェットは、堅実な企業が行っているビジネスを理解し、適正な株価で買い、その株式を長期的に保有します。それだけです。これは誰でも実践しようと思えばできることであり、個人投資家にとって現実的で、しかも精神的にも安定したアプローチと言えます。
つまり、バフェットの方法は「天才だけの戦略」ではなく、「日常的に実行できる戦略」なのです。
成功の背後にある「運」の力を認める謙虚さがリスク管理の出発点になる
彼はまた、自分の成功は自らの才能によるものというよりも、「運」の賜物だと語っています。
「私は1930年に、健康で、それなりに知的な、白人の男性としてアメリカに生まれました。なんという幸運でしょう」と率直に述べているのです。
投資の世界では、しばしば自分の実力を過信しがちです。しかし、バフェットのように偶然と環境の恩恵を認める謙虚さこそが、リスク管理の出発点となるのです。
「人の役に立つこと」が幸福の源泉
晩年の彼が強調したのは、富を持つことではなく、それをどう使うかという問いでした。
「偉大さは、巨額のお金や名声、政府の強大な権力から生まれるものではありません。誰かを助けることが世界を良くするのです」
バフェットが最後の株主への手紙に書いたこの言葉は心理学の研究結果とも合致しています。他者への貢献が幸福度を高めることは、心理学的にも実証されているのです。
ブリティッシュ・コロンビア大学のエリザベス・ダン教授らが2008年に『サイエンス』誌に発表した論文によると、「人は自分のためにお金を使うよりも、他人のために使うときにより幸福を感じる」ということです。
さらにこの傾向は世界136ヵ国で確認され、文化や所得を超えて普遍的な現象だとされています。
つまり、バフェットが語る「他人を助けることが幸せをもたらす」という考え方は、科学的にも裏づけられているのです。
バフェットの3人の子どもたちがそれぞれ慈善活動に情熱を注ぐ姿も、その哲学の延長線上にあります。これは「貢献こそ幸福」という幸せの構造を表していると言えるでしょう。
老いを恐れるのではなく、誰にでも訪れる「限界」に対し、冷静に備える
さらに印象的なのは、老いと判断力の衰えに対する冷静な洞察です。
バフェットは経営者に向けて、このような警告を発しています。
「優れたCEOでも認知症やアルツハイマーなどに罹患することがあります。取締役会はそれを見逃してはなりません」
バフェットは、老いを恐れるのではなく、誰にでも訪れる「限界」に備えるべきだと説いています。日本社会の高齢化を考えれば、このメッセージは投資家だけでなく、すべてのビジネスパーソンに響くことでしょう。
投資とは経済だけでなく、人生観そのものを問う営みだ
最後に私はバフェットが書いた「株主への手紙」について、解説記事を読むことだけで済ませるのではなく、「原文を直接読む」ことをみなさんに強くお勧めしたいと思います。
彼の文章には投資に関することだけではない深い洞察が含まれています。投資とは経済だけでなく、人生観そのものを問う営みであることを思い出させてくれます。
人は完璧にはなれないが、より良くなることはできる
バフェットは、株主への手紙の最後をこう締め括っています。
「人は完璧にはなれないが、より良くなることはできる」
長期投資とは、資産を増やすだけでなく、自分自身を磨き続けるプロセスでもあります。運を受け入れ、他者に貢献し、老いに備える──そのすべてが、バフェットの「本質的なリターン」なのです。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。
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