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生成AIによってアメリカではクレームが急増!? 生成AIが生み出す“無料の粘り強さ”が新たな社会コストに。その現象が特にアメリカで深刻化する理由とは?

2025年12月17日公開
ポール・サイ
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 生成AIが生活のあらゆる場面に入り込み始めた今、私たち投資家はどうしても「効率化」や「生産性向上」といった明るい面に目が向きがちです。

 しかし、その裏側では、これまで想像されてこなかったような社会的負荷が静かに増しつつあります。

 その1つが、AIが人々に与えてしまう“無料の粘り強さ”です。

生成AIによって、役所や企業へ簡単に苦情を申し立てることができるようになった

 これまでであれば、役所や企業に苦情を申し立てるにしても一定の手間がかかり、その「摩擦」が自然な抑制として働いていました。ところがAIは、この摩擦をほぼゼロにしてしまいました。

 ちょっとした不満でも、AIは法律の条文や行政手続きの文言を引用し、専門家のような整った文書を瞬時に生成してしまいます。

 「記録を残しましょう」「再度確認をとりましょう」「権利を主張しましょう」。こういったアドバイスは、一見もっともらしく聞こえます。しかし、これらのことでユーザー側が負担するコストはほとんどなく、その一方、負荷が増えるのは受け手側――つまり市役所、企業、医療機関、不動産業者といった社会インフラなのです。

 そして、この問題が特に深刻化しやすいのがアメリカという国です。

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圧倒的に訴訟件数が多く、双方が主張を極限まで戦わせる文化が元々あるアメリカ。生成AIがそれをさらに過熱させる

裁判イラスト:いらすとや

 アメリカ社会は日本と比べて圧倒的に訴訟件数が多く、アメリカには双方が主張を極限まで戦わせる文化があります。

 アメリカ社会には、契約社会であること、訴訟リスクが常に視野にあること、そして、紛争の多くが裁判や和解交渉といった法的プロセスを通じて決着されるという構造があります。

 つまり、アメリカには元々“争いが可視化される土壌”が整っているのです。

アメリカの行政窓口や企業のサポート部門では、生成AIを利用したクレームの急増が問題視され始めている

 そこにAIが加わると、どうなるでしょうか。

 論理的な文書、法律調の文章、証拠作りに見えるメール――そういった“訴訟の準備”に見える行動を、AIがコストゼロで後押ししてしまいます。

 元々、訴訟リスクが高い国でAIが「粘り強さ」を無制限に供給すれば、紛争に至る閾値はさらに下がり、制度上の負荷は一段と重くなります。これは文化的にも制度的にも、アメリカが最も影響を受けやすいところです。

 すでにアメリカの行政窓口や企業のサポート部門では、生成AIを利用したクレームの急増が問題視され始めています。

 中身のない主張でも、AIによって“それらしい形”に整えられてしまうため、担当者は真剣に向き合わざるを得なくなるのです。

生成AIは非常に便利なものだが、その裏には社会全体の効率性を低下させるリスクが潜んでいる

 こうした制度疲労は、企業の利益率を圧迫し、行政のリードタイムを長引かせ、社会全体の効率性を低下させるリスクがあります。これらのことは不動産専門の弁護士の友人と話した時に言われたことでした。

 企業にとっては、AIへの投資が同時に“AI対策コスト”の増加にもつながりかねません。

 行政もまた、AIが生成した文書をどこまで正式な申し立てとして扱うか、フィルタリングの新しい基準作りが必要になるでしょう。

 生成AIは私たちに多大な恩恵を与える一方で、制度のキャパシティへ密かに負荷をかけています。

 特に、紛争が表面化しやすい文化と制度を持つアメリカでは、その影響がより深刻になりうる、と考えられます。

投資家はAI関連企業の成長性だけでなく、社会的コスト増大の影響も見極める必要がある

 投資家としては、AI関連企業の成長性だけでなく、こうした社会的コストの増大がどの産業に、どの程度の負荷を与えるのかを冷静に見極める必要があります。

 AI時代の「効率化」は、利便性だけでなく、制度疲労という影のコストを伴う――。そのことが今、静かに姿を現しつつあるのです。

 

●ポール・サイ  ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。

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