通貨価値が薄まり続けるインフレの時代に入り、同時にAIが生産性を爆発的に押し上げる時代。そんな時代に見るべきものとは?
世界は、通貨価値が薄まり続けるインフレの時代に入り、同時にAIが生産性を爆発的に押し上げる時代にも突入しました。
かつてのように、すべての国が同じ方向に進む「均質な成長」は終わり、国家間・企業間・資産間で、価値を生む構造の違いが急速に拡大しています。こうした環境で投資家が向き合うべき問いは非常にシンプルです。
それは
「どの資産が、通貨の希薄化を超えて“実質的な価値”を生むのか」
ということです。
世界各国の政策は名目上の経済成長を維持するため、緩やかな通貨安を容認し、それは政府債務の負担軽減にもつながります。
そんな通貨が弱くなる世界で最も重要なのは、名目価格ではなく、「価値を生み続けるしくみそのもの」なのです。
インフレが進むほど、希少性と生産性を持つ資産が選別され、価値の基準がより構造的になっていきます。
インフレ下の資産選別──「希少性 × 生産性 × 心理的流動性」の3つの軸で見る
AI時代に入った今、こうした資産の階層構造はこれまで以上に明確になってきました。
資産の価値は、以下の3つの軸で決まります。
(2)生産性
(3)心理的流動性(危機時の需要)
この3つの軸に沿って、さまざまな資産が持つ特徴をまとめると、以下のようになるでしょう。
●不動産は(1)(2)は強いが、危機時には(3)の流動性が弱まる
●農地・森林には(1)はあるが、(2)(3)が構造的に弱い
●株式(特にAI・半導体・データセンターなどの生産性資産関連株)は(3)が強く、(2)は圧倒的に強い。他の資産と比べると(1)の希少性は相対的に弱いが、生産性の伸びという最強のリターン源泉を持つ
[参考記事]
●不動産はいつ投機資産になり、いつ安全資産になるのか? 金(ゴールド)を超える「生産性のある希少資産」──不動産・農地・森林の特徴とは?
●金(ゴールド)は高すぎて買えないが、安全資産は欲しい…代替先は「不動産」と「パイプライン」がおすすめ! 土地には希少性があり、安定収益も生まれる
そして、この(2)の「生産性」は、短期的な値動きやマクロ経済のノイズを超え、長期的なリターンを支える基盤になるものです。
国家が通貨を希薄化させても、企業が生み出す付加価値そのものが増大していれば、株式の本質的価値は損なわれません。むしろ、通貨安が輸出企業の競争力を高め、価値を押し上げる局面すら存在します。
資産の強さを分けるのは価格ではなく、背後にある“構造”です。
この3つの軸は、AI時代におけるポートフォリオの基準を根底から書き換えつつあります。
AIがもたらす“生産性の爆発”──私の弟の事例が示す未来の労働価値
このような構造変化を最も象徴しているのがAIです。
最近、私の弟が非常に興味深いシステムを作りました。
特にビジネス目的で作ったというわけではなく、ただの遊び感覚で手を動かしただけだったのですが、結果はかなり印象的なものでした。
弟はコンピュータサイエンスの学位と長い実務経験がありますが、先日、Claude.ai(※)を使い、スポーツベッティングのモデルをわずか3時間で構築したのです。
(※編集部注:「Claude.ai」はOpenAIの元メンバーによって設立されたアンソロピック(Anthropic)社が開発した生成AI)
弟が作ったのは、以下のようなモデルです。
●NFLなど試合中のライブデータをリアルタイムで取り込み、
●50以上の要因を用いて勝率を動的に算出し、
●実際の賭け市場とモデルの予測が大きく乖離した瞬間に“期待値のある賭け”を特定する
従来であれば、データ処理、アルゴリズム設計、API連携、UI構築……こうした作業を行うには経験豊富なエンジニアでも数週間は必要だったはず。それを弟はまさに「遊びの延長」で数時間後には動くモデルを完成させたのです。
イラスト:いらすとや
彼が行った仕事の本質は、「コードを書くこと」ではなく、“問題の構造をAIに説明し、どう解くべきかを設計すること”でした。
弟が話していた次の言葉が私の記憶に強く残っています。
「コンピュータサイエンスは、そのうち行き止まりの職業になると思うよ。必要なのはコードを書くことじゃなくて、構造を理解し、解決策を描く力」
AIが技術的作業を肩代わりすればするほど、人間の価値は“問題の本質を理解する力”に集約されていきます。
これは、AIによって単純労働が置き換えられるという話ではなく、“価値を生む思考の主役が人間の設計力へ移る”というパラダイムシフトです。
この変化は、投資にもそのまま当てはまります。
市場データの処理はAIができます。企業分析もAIがこなすようになります。
しかし、何が価値を生むのか、どの構造が本質的なものなのかを判断する役割は人間の側にあるままなのです。
通貨の時代から“構造の時代”へ──投資家が見るべきもの
インフレが進み、AIが生産性を押し上げる世界では、以下の通り、投資家が見るべき基準は非常に明確です。
●その国は通貨価値を維持できる構造を持つか
●その企業はAIによって強くなる側か、置き換えられる側か
●その市場は希少性・生産性・心理的流動性の3つの軸のどこに強みがあるか
これらのことを理解できる投資家は、価格の変動ではなく、価値の構造に投資できることになります。
AIとインフレが同時に加速する時代は一見複雑に見えます。しかし、構造さえ理解すれば、むしろもっともチャンスの大きい時代と言えます。
価値を生み出すしくみを理解し、そのしくみを持つ銘柄を長期で持ち続けること──この原則こそ、AI時代の投資家の最大の武器になると言えるでしょう。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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