「ビットコイントレジャリー企業」となった日本のメタプラネット。これはアメリカのマイクロストラテジーの戦略を模倣したもの
先日、友人と投資について話していた際、メタプラネット(証券コード:3350)という日本の上場企業の話題が出ました。
メタプラネットは元々、ホテル運営を主な事業としていた会社ですが、近年はビットコイン(BTC)を中心とした財務戦略へと大きく舵を切り、いわゆる「ビットコイントレジャリー企業」へと変貌を遂げています。
メタプラネット(3350) 週足 出所:TradingView
その背景にはアメリカの上場企業、マイクロストラテジー(現ストラテジー、ティッカー:MSTR)(※)の成功事例があると言われています。同社の戦略は「ビットコインを自社の財務資産として積極的に保有し、長期的なビットコイン価格上昇によって株主価値を高める」というものであり、メタプラネットはまさにその日本版とも言える存在です。
(※編集部注:2025年2月にマイクロストラテジーは社名変更を行い、新社名はストラテジーになりましたが、マイクロストラテジーという名称の方が知名度が高いため、本記事ではマイクロストラテジーという名称を多用します)
マイクロストラテジーは米国市場で「上場ビットコイン・レバレッジ銘柄」として認識されている
マイクロストラテジーは元々、ビジネスインテリジェンス(BI)のソフトウェア企業でしたが、2020年8月にビットコインを主力の財務資産として採用しました。
ストラテジー(旧マイクロストラテジー、MSTR) 週足 出所:TradingView
同社は社債(特に転換社債)や新株発行などを通じて資金を調達し、これまでに数十億ドル規模のビットコインを購入しています。結果として、ソフトウェア事業は名目上、残っているものの、実態としては「ビットコイン保有会社」へと変貌し、同社の株価はビットコイン価格とほぼ連動するようになりました。
「ストラテジー(ローソク足チャート、右軸)日足」と「米ドル建てビットコイン(ラインチャート、左軸)日足」 出所:TradingView
マイクロストラテジーは米国市場で「上場ビットコイン・レバレッジ銘柄」として認識され、ビットコインETF(上場投資信託)よりも高いボラティリティを持つビットコインの代替投資手段として注目を集めています。
現在のメタプラネットはホテル事業の規模は小さく、実質的に「上場しているビットコイン保有会社」となっている
メタプラネットもこの戦略を模倣する形で、自社の資本や調達資金を活用してビットコインを購入・保有しています。その狙いはビットコイン価格の長期的な上昇によって企業価値を高めることにありますが、元々行っていたホテル事業の規模は小さく、事業キャッシュフローの安定性は欠けています。
そのため、現在のメタプラネットは実質的に「上場しているビットコイン保有会社」となっており、事業会社というよりは資産運用会社に近い性格を持っています。
ビットコインや金(ゴールド)は本質的に利息や配当といったキャッシュフローを生まない資産
ただ、ビットコインは本質的に利息や配当といったキャッシュフローを生まない資産です。この点では金(ゴールド)と同様で、どちらも長期的に「価値を創造する」資産ではなく、「価値を保存する」資産と言えます。
ビットコイン価格や金価格の主な上昇要因は、法定通貨の価値低下、すなわちインフレや通貨の信用低下です。この構造的な特徴を踏まえると、ビットコインを大量に保有する企業は、経済的価値を生み出しているわけではなく、むしろ、通貨価値の減価に対して防衛的な立場を取っていると言えます。
そして、メタプラネットやマイクロストラテジーのモデルは、一見するとクローズドエンドファンド(※)に似ています。
(※編集部注:「クローズドエンドファンド」とは、発行者が投資家に対し、純資産価額に基づいた価格での換金を保証していないファンドのこと。その代わり、通常は金融商品取引所に上場され、そこで売買が行われている)
ビットコイントレジャリー企業とクローズドエンドファンドは似ているところがあるが、両者には重要な決定的違いがある
クローズドエンドファンドもビットコイントレジャリー企業も市場で純資産価値(NAV)と株価が乖離することがあり得る構造を持っていますが、決定的な違いは、前者が配当や利息を生む「内在価値を持つ資産」を保有するのに対し、後者はそうしたリターンを生まない資産を持つ点です。
そのため、これらの企業の株価はビットコイン価格と投資家心理に強く左右され、安定的な価格形成にはならず、投機的な値動きを示す傾向があります。
投資家にとって重要なのは、こうした企業がどのように価値を生み出すのかを理解することです。
メタプラネットが個人投資家よりも優れたマーケット・タイミングでビットコインを売買できれば、確かに付加価値を生む余地があります。
しかし、実際にはビットコイン相場を正確に読み切ることは極めて難しく、自社が優位性を持っているのを証明することは容易ではありません。結果的に、このビジネスモデルは「ビットコインのリターンが資本コスト(借入コストや株主資本コスト)を上回る」という前提に依存しており、その差が縮まれば企業価値の拡大余地も小さくなります。
なぜ、投資家は直接ビットコインを保有するのではなく、「ビットコイントレジャリー企業」の株式に投資するのか?
ではなぜ、投資家は直接ビットコインを保有したり、ビットコインETFを購入するのではなく、こうした「ビットコイントレジャリー企業」の株式に投資するのでしょうか?
その理由の1つは、これらの企業が実質的に「レバレッジ付きビットコイン投資」として機能する点にあります。
ビットコイントレジャリー企業は自己資本の他に借入れなども活用してビットコインを保有するため、ビットコイン価格が上昇すれば、それがより一層、増幅された形で株主価値が増大するのです。
つまり、ビットコイン価格の上昇局面では、ビットコインETFよりも大きなリターンを狙えるということです。
ただし、ビットコイン価格の下落局面では、上昇局面とは反対のことが起こり、損失がより一層、拡大することになります。
したがって、こうした企業の株はハイリスク・ハイリターンの投資対象であり、ビットコインETFやビットコイン現物保有よりも「投機的な株式」として位置づけるのが妥当でしょう。
ビットコインに長期投資するなら、メタプラネット株を買うより、ビットコインETFやビットコイン現物の形で直接投資する方がシンプルでいい
結論として、メタプラネットのような企業は、ビットコイン市場の盛り上がりを背景に短期的なトレード機会を提供する可能性はあります。
しかし、長期投資の観点では、ビットコイン価格の上昇が資本コストを上回り続ける保証はなく、企業経営や財務構造の複雑さを考慮すると、個人がビットコインを保有するなら、ETFや現物の形で直接投資する方がシンプルでリスクも管理しやすいでしょう。
投資家は「企業が何を保有しているのか」だけでなく、「なぜその保有を通じて価値を生み出せるのか」という点を冷静に見極めることが求められます。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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