私がフィデリティでアナリストをしていた頃、仕事は「セクター」で決まっていました。最初は運輸、次に化学、そして銀行。担当が変わるたびに、見る指標も、会う会社も、使う言葉も変わりました。
[参考記事]
●私の歩んできた道(3)アメリカの名門投信会社フィデリティで経験したシクリカル銘柄の見極め方。銀行株はもう追いかけない方がいい。その理由とは?
長らく株式市場を見るための地図として機能してきたGICS(世界産業分類基準)が今、役に立たなくなっている
会社をどの箱に入れるかを決めていたのが、GICS(世界産業分類基準)です。
これは1999年にMSCI(当時はモルガン・スタンレー傘下)とS&Pが作った分類で、「何を売っているか」によって会社を11のセクターに振り分けるものです。
GICSは私にとって20年近く、株式市場を見るための地図でした。
その地図が今、役に立たなくなっています。
S&P500の約40%が情報技術セクターだが、この数字は今、米国市場で起きていることをほとんど説明していない
S&P500のセクター構成を見ると、情報技術が約40%を占めています。
この数字を見て「米国株は4割がハイテク」と理解する方は多いと思います。結論から言うと、この40%という数字は、今、米国市場で起きていることをほとんど説明していません。
AIは、業種をまたいで需要を生み出す「横串」だからです。
エヌビディアとマイクロソフトは情報技術ですが、アルファベットとメタはコミュニケーション・サービス、アマゾンとテスラは一般消費財、データセンターに電力を売る会社は公益事業、ガスタービンや冷却設備の会社は資本財に分類されています。
AIという1つの需要が、11セクターのうち、5つに散らばっているのです。
逆に、公益事業という同じ箱の中には、AIの電力需要で株価が数倍になった会社と、昔ながらの規制電力会社が同居しています。セクター指数を買っても、自分が何に賭けているのかがわからない。これが、いまのGICSの問題です。
エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが示したAIの「5層のケーキ」とは?
では、今の株式市場はどのように見ていけばいいのでしょうか。
私が使っているのは、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが今年(2026年)1月のダボス会議で示した「5層のケーキ」という整理です。
下から順に、第1層がエネルギー(発電と電力設備)、第2層が半導体(GPU、メモリー、製造装置、ファウンドリー)、第3層がインフラ(クラウド、サーバー、データセンター設備)、第4層がモデル(基盤モデルの開発企業)、第5層がアプリケーション(AIを組み込んだソフト、ロボット、自動運転)です。
出所:エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが2026年1月のダボス会議で示した内容を元に生成AIで作成
そして、フアンCEOは「経済的な価値が最終的に生まれるのは一番上のアプリケーション層だ」と繰り返し語っています。
「5層のケーキ」の各層ごとに業績と株価を見ていくと、「AI株」と一括りにしていては見えないことが見えてくる
私はこの5層に沿って主要36社を選び、層ごとに業績と株価を追っています。すると、「AI株」と一括りにしていては見えないことが見えてくるのです。
過去5年(配当除く、10月12日時点)、各層を等金額で持った場合の騰落率は、半導体が+426%、インフラが+442%と、S&P500の+79%を大きく上回る一方、一番上のアプリケーションは+51%にとどまります。
今年(2026年)に入ってからは、半導体が+91%なのに対し、アプリケーションはマイナス15%です。
36社の時価総額、約32兆ドルのうち、42%を半導体層が占め、アプリケーション層は9%です。
簡単に言うと、今のAIは「クラウドが代金を払い、チップ(半導体)が利益を取る」構造になっています。19世紀の鉄道ブームで儲けたのが、線路を敷いた鉄道会社よりも、線路を鉄道会社に売る側だったのと同じ構図です。
「5層のケーキ」のうち、価値は上層へ移っていくのか、下層が価値をとり続けるのか? 分岐点を決めるのはハイパースケーラーの…
ここに、投資家にとっての本質的な問いがあります。フアンCEOの言う通り、価値はいずれ上の層へ移っていくのか。それとも、下の層が価値を取り続けるのか。
インターネットの歴史では、1990年代末、先に株価が頂点をつけたのはシスコシステムズなどのインフラ層で、その後の10年で勝ったのはグーグルやアマゾンといったアプリケーション層でした。
[参考記事]
●【シリーズ連載:エネルギーから知能へ】第2回 鉄道狂時代、ドットコムバブル期と比較して考える。2026年7月の一部AI関連株下落、AI懐疑派の主張は妥当か?
シスコシステムズ(CSCO、赤いライン、右軸)とアマゾン(AMZN、青いライン、左軸)の株価推移 1997年頃~2010年頃 出所:TradingView
正直に言うと、今回どちらになるかは私にもわかりません。ただ、分岐点を決める変数ははっきりしています。ハイパースケーラー(大手クラウド事業者)の2027年の設備投資計画です。
10月下旬に発表される第3四半期決算で、それが増え続けるなら下の層の希少性は保たれ、横ばいや削減の兆しが出れば、ストーリーは変わります。
S&P500のインデックスファンドを持っているとしても、その構成銘柄がどうなっているかは従来型のセクター分類ではなく、「5層のケーキ」で把握すべき
日本の読者にとって、ここまで述べてきたような視点が特に重要な理由があります。
S&P500に連動する投資信託やETFを通じて米国株を持っている方は、意識せずにこのケーキを時価総額の比率で丸ごと買っています。半導体だけでS&P500の2割、エヌビディア1社で8%強です。これは「分散投資」というより、AIの下層への集中投資に近いと言えるでしょう。
それが悪いと言いたいのではありません。私自身、エヌビディアを最大の保有銘柄にしています。
ただ、自分が何を持っているかは、「情報技術40%」という表示ではなく、5層のどこにいくら載っているかで把握すべきだと思います。
「情報技術40%」という1つの数字の代わりに、エネルギー、半導体、インフラ、モデル、アプリケーションの5つの数字を把握しよう
GICSが無意味になったわけではありません。「その会社は何を売っているか」という問いには、今も客観的に答えてくれます。
ただ、「その会社の株価は何に動かされているか」という問いには、もう答えられません。AIが米国株の主役である限り、投資家にとって重要なのは後者の問いです。
結論はシンプルです。セクターの名前で持ち株を把握するのをやめて、需要の層で把握するのです。「情報技術40%」という1つの数字の代わりに、エネルギー、半導体、インフラ、モデル、アプリケーションの5つの数字を持つ。それだけで、同じS&P500がまったく違って見えてくると思います。
本稿では、「5層のケーキ」の枠組みの話にとどめました。
AI関連主要36社を5層に並べた一覧と、層ごとの利益率、ROIC、PERの数字、ハードウェア企業とソフトウェア企業で評価が逆転している話、私の推奨ポートフォリオを5層で見た地図、そして10月28日から始まるハイパースケーラーの決算で何を点検するかは、毎週金曜日に配信しているメルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」に書きたいと思います。
ご自身の持ち株を5層に分ける方法も、そこでご紹介します。AIを使えば簡単にできるのですが、正確な分類を行うには、ある程度の準備とAIへの聞き方に関するコツが必要になります。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査に12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語に堪能。米国株などの資産運用について助言するメルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」を配信中。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
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