金利が上がったら、円安になったら、原油が上がったら、どの会社が儲かり、どの会社が苦しくなるか?
金利が上がったら、どの会社が得をするか。円安になったら、どの会社が一番恩恵を受けるか。原油が上がったら、どこが儲かり、どこが苦しくなるか。「○○が上がったら…」のところには原油の代わりに、銅が入ることもあれば、天然ガスが入ることもあります。
私がフィデリティでアナリストをしていたころ、こうした問いにすばやく、筋道立てて答えられることは、アナリストが持つべき大事な能力の1つでした。
私は運輸、化学、銀行と担当セクターが変わりましたが、どのセクターでも、市場の別の場所で起きたことが、担当の会社にどう響くかを考えるのが仕事の中心でした。
こうした市場のつながりを理解することは、株式投資の基本です。しかし、AIの登場によって、誰もが短時間でこうした分析をできるようになりました。
では、プロの投資家と一般の投資家の差は、どこで生まれるのでしょうか。
重要なのは、AIが教えてくれる「何が起きたら、どの会社に影響するか」という知識だけではありません。その変化がこれから本当に起こるのか、どのくらい続くのか、そして株価にどこまで織り込まれているのかを考えることです。
[参考記事]
●私の歩んできた道(3)アメリカの名門投信会社フィデリティで経験したシクリカル銘柄の見極め方。銀行株はもう追いかけない方がいい。その理由とは?
原油が上がれば、運輸会社は燃料費に、化学会社は原料のナフサ高に苦しみます。金利が上がれば、銀行の利ざやが広がる一方、借金の多い会社は苦しくなります。
原油価格上昇で起こった「風が吹けば桶屋が儲かる」の例
経済と会社と株価は、網の目のようにつながっています。
池に石を投げると波紋が広がるように、市場の1ヵ所で起きたことは、別の場所に伝わっていきます。その網の目を知っていれば、波が次にどこへ届くかを、ほかの人より早く読めます。それが、短期から中期で稼ぐアナリストの強みでした。
1つ例を挙げてみましょう。
原油が上がると、石油会社が得をするのは誰にでもわかります。
その一歩先を読むと、日本は原油のほとんどを輸入に頼っているので、原油高は貿易赤字を広げ、円安につながりやすい。そうなると、輸出企業には追い風になる一方、原油を買う会社は、原油高と円安のダブルパンチに襲われます。
さらに、原油高はインフレを通じて金利を押し上げ、金利の上昇は成長株を冷やします。
9月には、中東の緊張で原油が100ドルに戻り、金利が上がってハイテク株が冷え込む一方で、石油株が相場を支えました。日本のことわざで言えば、「風が吹けば桶屋が儲かる」です。
出所:生成AIで作成
昔は経済と会社と株価をつなぐ網の目を理解しておくのはアナリストの大事な仕事だったが、今はAIを使えば誰もがすぐにわかってしまう
ところが、この網の目を描く力は今、AIのものになりました。
「原油が1バレル100ドルを超えたら、得をする会社と損をする会社を、理由とともに挙げて」とAIに聞けば、数十秒で答えが返ってきます。
円安で一番得をするのは、海外の売上が多いうえに、日本で作って輸出している会社だ、という一段深い答えまで出てきます。アナリストが何年もかけて身につけた地図を、今は誰もが持てる時代になりました。つながりを知っていることの価値は、AIによって大きく下がったのです。
良い医者は目の前の症状だけでなく、長い時間をかけて身体の中で起きている変化をみる
これは、医者の仕事に似ていると思います。
医者は症状を聞き、つながりを考え、手がかりを探して、何を検査するか、決めます。症状から原因を推測することは、AIもかなり得意になりました。
でも、良い医者はそこで終わりません。患者の生活や体質から、10年後に何が起きそうかまで考えます。目の前の症状だけでなく、長い時間をかけて身体の中で起きている変化をみているのです。
AIで世界のつながりを学ぶ価値はある。しかし、それは長期的なトレンドを読む入り口にすぎない
株も同じです。
原油と会社をつなぐのは、第一歩にすぎません。その前に考えるべきことがあります。
第一に、原油価格はこれからどちらに向かうのか。
第二に、景気や金利がどうであれ、伸び続ける会社はどこか。
第三に、その事業を長い目で押し上げるトレンドはあるのか。
風が吹けば桶屋が儲かることは、AIが教えてくれます。しかし、風がどちらに、どれくらい長く吹くのかは、自分で考えるしかありません。
それでも、AIで世界のつながりを学ぶ価値はあります。
つながりがわかれば、短期と中期の動きが読めるようになります。そして、短期と中期を読めるようになることが、長期を理解する入り口になるのです。つながりを知らなければ、長期のトレンドが、どの会社にどう効くのかも見えないからです。
市場のつながりはAIに聞けばいいが、その先にある、風がどちらにどれぐらい吹くかは自分の頭で考える必要がある
たとえば、原油高によって利益が増える企業がわかったとしても、その企業の株を買えばよいとは限りません。原油高が一時的なものなのか、数年続く構造的な変化なのかによって、投資判断は大きく変わります。
さらに、その企業の株価がすでに将来の利益増加を織り込んでいれば、業績が好調でも株価が上がらないことがあります。
つまり、AIで企業同士のつながりを調べることと、実際に投資する企業を選ぶことの間には、もう一段深い分析が必要なのです。
結論はシンプルです。市場のつながりは、AIに聞けばいい。ただ、それはスタートであり、ゴールではありません。AIで地図を手に入れたら、その先の、風がどちらにどれぐらい吹くかは、自分の頭で考える。そこが、これからの投資家の腕の見せどころだと思います。
AIに市場のつながりを聞くとき、どのような質問をすれば、より深い分析につながるのでしょうか。また、原油高や金利上昇といった変化が、思いがけない業種や企業に波及する「2つ目、3つ目の波」は、どうすれば見つけられるのでしょうか。
毎週金曜日に配信しているZAi投資戦略メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」では、こうしたAIの活用方法も今後取り上げながら、米国株・世界株の分析やポートフォリオをお届けしています。
市場の変化を投資判断にどう結びつけるか。私がフィデリティで株式アナリストとして培った経験も踏まえ、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査に12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。台湾系アメリカ人で中国語、英語、日本語に堪能。
メルマガ「米国株&世界の株に投資しよう!」毎週金曜日配信。個別銘柄の分析、AIを使った株式調査、ポートフォリオ提案などをお届けします。著書『台湾系アメリカ人が教える 米国株で一生安心のお金をつくる方法!』発売中。
※メルマガ「ポール・サイの米国株&世界の株に投資しよう!」募集中! 米国株&世界の株の分析が毎週届き、珠玉のポートフォリオも提示! 登録から10日以内の解約は無料。

















