米名門投信運用会社、フィデリティ投信の東京オフィスで、日本株、アジア株の株式調査部長、ファンドマネジャーとして活躍した後、40代でFIRE(早期リタイア)したポール・サイ氏。現在は、DFR(ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ)アナリストとして、FIREするためのポートフォリオ作りや銘柄分析、推奨銘柄、投信の見極め方などを有料メルマガなどを通じて発信している。
前々回の連載から、投資にまつわることを中心として、私が幼い頃よりたどってきた道をご紹介しています。前回はMBAを経て、戦略コンサルティング・ファームで働き、その後、フィデリティに入社したところまでを書きました。今回はフィデリティで経験したこと、シクリカル銘柄(循環株)の分析方法、銀行株の今後について書いてみたいと思います。
[参考記事]
●私の歩んできた道(1)ネットバブルに乗り、バブル崩壊前に株を売り切った! バブルを若いうちに実感できた方がいい理由とは?
●私の歩んできた道(2)9・11同時多発テロで株の暴落を経験し、株の絶好の買い時を学んだ。フィデリティ投信の入社試験でドン・キホーテを分析して合格!
中国スーパーサイクルに乗った海運株。需給バランスを見て、本当のピークを見抜いた!
フィデリティは投資家を育てる会社と言えます。
フィデリティのアナリストは数年で担当セクターをローテーションします。さまざまなセクターを経験することで、投資家としての目が磨かれていくのです。
最初、私は運輸セクターを担当していました。運輸セクターには陸運、海運、空運会社が含まれていました。
今振り返れば、当時、海運業界は中国スーパーサイクルの真っ只中にありました。私が海運業界を担当するようになった時点で、株価はすでにある程度上昇していました。ですが、PER(株価収益率)は1ケタ台と低いものでした。
これが海運株のような循環株に対する市場の見方の定番です。循環株は景気循環株、景気敏感株と呼ばれたり、シクリカル銘柄と呼ばれたりします。
循環株はかなりの好業績となっても、市場はこんなに高い利益水準が続くわけがないとみなし、株価は上昇するものの業績の伸びほどには上昇しないのです。その結果、循環株は利益サイクルのピークでPERが低くなるものなのです。
しかし、私が海運株を担当していた頃、市場が思った利益のピークは本当のピークではありませんでした。本当のピークはまだ先でした。この時の利益サイクルは普通のサイクルではなく、中国の成長に牽引されたスーパーサイクルだったのです。このことに市場は気づいていませんでした。
これに気がつくためには、船の需給バランス、鉄鉱石・商品の需給バランスなどを把握する必要がありました。
スーパーサイクルに乗って海運株は大きく上昇したのですが、その後、需給バランスをよく見ていると、今度は利益が本当のピークにきたことに気がつきました。そこで株を売らなければいけないとわかったのです。
それから、海運株はほぼ10年お休み状態でした。下落か、横ばいのトレンドが続きました。
そして、10年以上経った2020~2022年にも同じことが起こりました。今回は海運株が上昇している最中、なんとPERは1倍台という異様な低水準にまでなりました。
この経験からの教訓は2つあります。
(1)シクリカル銘柄(循環株)の業績と株価は長いサイクルで動いています。まさに「歴史は繰り返す」ということが起こるのです。なので、過去のサイクルを理解することはとても重要です。
(2)株価が上がったから、これからはもう上がらないとは限らないです。シクリカル銘柄は特にそうです。
(3)シクリカル銘柄は上昇サイクルにあれば保有していていいですが、長期保有してはいけません。いつかは必ず売却しないといけないのです。
以上のような教訓は、このあと、私が担当した化学セクター、銀行セクターでもうまく使えました。
ライバル企業、信越化学工業とSUMCOの株価チャートに表れている特徴とは?
運輸セクターの次は化学セクターを担当しました。
日本の化学業界には多様な会社があり、シクリカルなコモディティ・ケミカル(付加価値のそれほど高くない化学品)の会社もある一方、テクノロジーに牽引された成長性の高い会社もあります。
コモディティ・ケミカルの会社は長期保有に向いていないですが、テクノロジーを持っている会社、強みを持っている会社はある程度のシクリカル性はあっても、長期保有に向いています。
テクノロジーを持っている有力化学企業はたとえば、信越化学工業(4063)が挙げられます。同社のチャートを見てみると、ある程度のサイクルを描きながらも、強い上昇トレンドが2010年頃からずっと続いているのがわかります。
信越化学工業の競合、SUMCO(3436)もシリコンウエハーを作っていて、強みは持っていますが、SUMCOにはウエハービジネスしかないので、チャートを見ると、大きな上昇トレンドよりも、サイクルの強さが目立っています。そのため、SUMCOの場合はサイクルを見極めることが重要になってきます。
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