アマゾンが高級スーパーマーケットの
「ホールフーズ」を買収
先週金曜日、アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)がホールフーズマーケット(ティッカーシンボル:WFM)を一株当たり42ドルで買収すると発表しました。買収総額は137億ドルです。
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ホールフーズは、新鮮で安心できる生鮮食料品を売っている高級スーパーマーケットです。同社は、折からの自然食品ブームならびに裕福層のグルメ志向化のトレンドを背景に、近年急速に成長してきました。
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日本にはホールフーズの店舗が無いので、イメージしにくいかもしれませんが、ちょうどスターバックス(ティッカーシンボル:SBUX)と同じような、消費者に熱烈に支持されているブランドです。
なぜアマゾンはホールフーズ買収に関して
きちんと説明しないのか
さて、この買収が発表された先週金曜日、ちょっとした当惑がウォール街に走りました。その理由は、アマゾンがこの買収に関するカンファレンス・コール(電話会議)を実施しなかったからです。
普通、アメリカでは、今回の買収くらいの大きなM&Aがあると、その買収の意図や合併後の業績に関する見通しなどを説明するカンファレンス・コールを急遽開催するのが常です。
しかしアマゾンは、そのような説明会を開催しなかったばかりか、買収に関するプレス・リリースも極めて簡潔で、ホールフーズ買収に絡めてどのような戦略を今後展開してゆくのかに関して一切説明がありませんでした。
アマゾンがその意図を一切説明しなかった理由は、これからアマゾンと実店舗を持つ小売店との間でいよいよ激しいバトルが始まるからだ、と解釈したウォール街関係者も多かったです。その戦いをするにあたって、アマゾンは自分の「手の内」を世間に晒すことを避けたというわけです。
ベンダーと良い関係を築いているホールフーズは
アマゾンにとって安い買い物
アマゾンがカンファレンス・コールを省略したもうひとつの理由は、普通なら、買収に際して資金調達をする必要からひとこと投資家に断りを入れる必要があるのですが、アマゾンの場合、買収資金の用立てにはぜんぜん困らない、ということによります。「投資家は、黙って俺についてこい!」というわけです。
アマゾン株は、株価収益率(PER)186倍で取引されており、仮に将来、アマゾンがホールフーズ買収のために転換社債を発行するような場合でも、極めて有利な条件で実行することが出来ます。言い換えれば、現在のアマゾンにとって、資金調達コストは問題にならないくらい低いのです。
むしろホールフーズを買収することにより、アマゾンが今後それを踏み台としていろいろ新しい展開が出来るようになれば、こんなに安い買い物はありません。
実際、ホールフーズはEBITDAマージンが8.6%あり、これは実店舗の小売業としてはかなり高い方に属します。つまり「しっかり儲かっている会社を買収する」わけです。
また、ホールフーズは、ローカルな農家などのベンダーとの関係を築いてきました。言い換えれば、安さだけで勝負するのではなく、新鮮さや安心感で勝負しているのです。このリレーションシップは、簡単に構築できるものではありません。
アマゾンが資金力にものを言わせて、これに匹敵するようなサプライチェインを構築しようと思っても、農家などのベンダーの側がそれに賛同するかどうかはわからないのです。その意味で、アマゾンはホールフーズ買収により、貴重なものを手に入れたと評価できると思います。
スーパーマーケットのビジネスは
普通のやり方では儲からない
ホールフーズの食料品売上高は157億ドルです。これは全米の食料品売上高の2%に過ぎません。つまり、未だ成長の余地はあるということです。しかも、ホールフーズは裕福層の客筋をつかまえているので、スーパーマーケットのビジネスでも、最も美味しいセグメントだけを相手にしているわけです。
実は、アメリカのスーパーマーケットのビジネスは競争がし烈であり、身売りや倒産が多いことで知られています。折から食料品はデフレ圧力に晒されており、事業規模が大きい会社だけが生き残る構図となっています。
その事業規模では、ウォルマート(ティッカーシンボル:WMT)が食料品売上高2,721億ドルと、他を圧倒しています。すると、いかにアマゾンでも、無益な消耗戦をウォルマートと戦うのは得策ではないのです。
アマゾンの今後の戦略は
ネット通販と実店舗の連携か
アマゾンは「実店舗を、すべてネット通販に置き換える」という未来図を予想していないと思います。もしそう考えているのなら、最近同社がやっているような実店舗の本社の出店など、やる意味がないからです。
つまり、実店舗は今後も絶滅することはなく、むしろ実店舗とネット通販の新しい連携のカタチを模索することにアマゾンは関心を持っているように見えます。
具体的には、ホールフーズの464の店舗は、主に裕福な都市部の便利なロケーションに展開しています。会社の帰りや昼休みのランチの時間に、ちょっと立ち寄ることが出来るわけです。
実際、ホールフーズは、デリカテッセンやベーカリーなどの売上が19%を占めており、単なるスーパーマーケットと言うよりは、ランチの時に立ち寄るトレンディーなレストランの性格を帯びています。とりわけ女性やミレニアル層(2000年代に成人した比較的若い層)に、このような利用のされ方をしています。
すると、アマゾンの顧客が、ネットで注文した商品を受け取る場所として、これほど最適な場所はありません。
アマゾンは「プライム」というメンバーシップを展開しており、6千万人を超えるメンバーが居ます。それらのメンバーに対して特別なサービスを提供するにあたって、ホールフーズの実店舗の拠点を持つことは、極めて有利です。
利便性とは、全ての商品を自宅で受け取ることを必ずしも意味しません。顧客の仕事や生活のルーチンの中で、いちばん便利な時間や場所で接点を持つことが大事なのです。
その意味で、アマゾンのホールフーズ買収は、「ドローンによるデリバリーなどより、遥かに脅威だ」とライバル企業は感じる事でしょう。
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