今回は、ハウス食品グループ本社株式会社(2810)の戦略について書きます。
1913年に浦上靖介さんが漢方薬の原料を扱う「浦上商店」を創業したのが同社の源流となります。漢方の原料とカレーの材料とが類似していることから、カレー事業に参入することになったのです。1928年にハウスカレーを発売。一箱180グラムで40銭で20皿分でした。「一皿タッタ二銭」と宣伝しました。
戦後、1963年にハウスバーモントカレーが登場します。以来、同社の定番のヒット商品です。林檎と蜂蜜を入れることで、甘くなり、子供でも食べられることが評判になりました。一箱120グラムで6皿分で60円とその倍の240グラムで120円の二つが主力でした。カレーなのに甘口という斬新な発想で、後に「日本式カレー」として世界に普及することになります。
同社のカレールーの国内シェアは現在60%です。非常に高く、同社の製品の中でも最も利益率の高い商品の一つになっています。
日本のカレールー市場は減少基調。個食化対応で生き残りを図る
ところが、日本でカレールーの市場は3-4%の減少基調にあります。理由は、人口が増えないこと、日本では個食化が進んできた社会的な背景があります。ただし、同社は圧倒的シェアを背景に、ジワリとシェアを向上させつつあり、全体の市場はやや減少しつつも、同社のカレールーの売上は横ばい圏を維持しています。
戦略は、個食化への対応です。
「お肉を焼くだけでおいしいカレーの素」
これはわずか調理時間が10分のペースト状のルーです。フライパンでお肉(カット済み鶏肉200グラム)を中火で4-6分で焼いて、火を止め、水300mlとペーストルーを直接フライパンに入れて混ぜる。最後に3分間煮込むだけです。包丁もいらない。ターゲットは2人用の食事です(薄い豚肉を使えば8分ぐらいでできます)。
個食ではないですが、二人分、88グラムの商品です。通常、カレーを作る時は事前に野菜を切ったり、ルーを溶かして煮込んだりする時間がかかりますし、作り過ぎてしまいます。一方ハウス食品の製品は野菜の旨味がすでにペーストに入っていて時間がかからずしかも量も多すぎないことが特徴です。
このような個食タイプ、時間節約タイプのペーストルーの認知度を高めることでシェアを守りながら利益率を向上させる戦略です。
レトルト市場はレッドオーシャン。効率化がカギ
カレールーとレトルトカレーは作り方が全く違い、レトルトの方は、参入障壁が低い事業でもあります。設備を入れると比較的どの業者にも作ることは可能です。個食化のトレンドから、レトルトカレーは年率4-5%で伸びています。ただし、ハウス食品のシェアはトップとはいえども30%程度であり、競合が10社以上あるため、利益率はルーほどではないのです。
ハウス食品にとっては、ルーの市場が縮小し、レトルトの市場が拡大するということはプロダクトミックスの悪化になってしまうのです。レトルトの生産効率をあげることでレトルト部門の利益率を向上する戦略をとっています。現在主要2ラインを3ラインに増設をします。量産ものを一つのラインに集約することで段取りの手間が省け、生産性が向上する見通しです。
レトルトカレーの戦略には、高付加価値戦略があります。例えば、カレーマルシェは300円を超える価格帯です。
170-190円程度の中価格では、プロクオリティのようなレストラン品質のビーフカレーで単価をとる戦略です。工夫として4つを一つの袋にして700円程度で販売しています。一食175円です。少量で勝負をする小さなプレイヤーであれば具材で勝負したり単価をもっと高く設定します。倍程度の単価で売る参入者もいます。
100-120円程度の価格帯では29種類のスパイスと深いコクを打ち出しつつ、一食100-120円程度に価格を抑えることで、評価を確立し、量産効果が出る販売個数まで持って行きました。ニッチで高額を狙うのではなく、安く美味しいカレーをたくさん提供しているのです。
米国、中国市場は有望でまだまだ伸びる!
ハウス食品の海外事業は堅調です。米国では豆腐事業が健康意識の高まりとともに伸びています。プロテインを植物性から摂りたいというニーズが強いのです。エコロジーの視点でも肉よりも豆腐をという流れがあるようです。
市場も日本のように競争が激烈ではなく、シェアが40%あることから利益率は国内よりも随分と高いのです。トップラインも二桁近く伸ばす計画です。
日本式カレーが急速に認知度が高まっている国があります。それはお隣、中国です。中国(沿岸部)での同社の地道な活動が実を結んだのです。年間20000-30000回にも及ぶスーパー店頭での試食会などを20年前から行なってきました。もともとは中国には日本式カレーを食べる習慣がありませんでした。
ところが、中国人が日本式カレーを食べ始めたのです!!日本式カレーの認知度が上がるとともに、増収基調が続きます。浙江省に三番目の工場も昨年9月にできました。中国売上は、2割増収が今後可能であるとのこと。中国は大箱の半分で12人民元と日本よりも高い値段です。同社が開拓したマーケットですからブルーオーシャンなんですね。日本人のような頻度では中国人はカレーを食べないでしょうが、頻度は日本と比べて1/10程度だそうです。人口で10倍以上、頻度で1/10ですから、今後の中国市場の展開を期待したいところです。
同社は、かつて、カレールーやレトルトといった強い分野から、幅広い食品分野に進出を試みましたが、近年は、スパイスへの回帰ということで、バリューチェーンの強化を目指しています。具体的にはスパイス側の川上企業の買収、そして、川下側、外食の壱番屋の買収などです。スパイスは20-30種類がうまく分散ポートフォリオとなっていて調達コストが安定しています。日本は競争が厳しいですが、ルーの利益を維持しつつ、レトルトの利益率の改善を目指します。さらに、海外は大きく飛躍する可能性があります。
競争のない分野に経営資源を投入していることや、ディフェンシブセクターの食品の中で、利益率が高いことから株としても注目できると思っています。
インカム利回りは高くないが成長期待から注目!
優待と配当利回りを合わせて1.5%程度で、利回りが高いとは言えません。配当の急速な成長率の推移やこの数年の増益基調から、成長率と株価はしっかりと見合っていて、株価は割高ではありません。
減価償却は定率ですし、のれんも償却しますので、EBITDAでの評価が好ましいからです。基礎的な営業利益は180-200億円ではなくて、250-300億円とみなすことができるからです。ベータも低いことから、高いバリューエションが正当化されます。
今回は、ルー、レトルト、海外(米国、中国)の3つだけを紹介しましたが、乳酸菌、豆腐のやまみとの提携や壱番屋の海外展開、さらに海外ではアセアン(インドネシアやタイ)などでのビタミンC飲料の飛躍も期待されています。さらなる株価のアップサイドのためには、利益率の低い他の国内事業をどう整理するかという課題は残ります。
(DFR投資助言者 山本潤)
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