「勝者のゲーム」と資産運用入門

厳しく非難されるべきロシアのウクライナ侵攻。
有事の株価下落は一時的で「開戦は買い」が経験則。
3月FOMCで利上げペースが緩まれば市場には追い風太田忠の勝者のポートフォリオ 第21回

2022年3月2日公開(2022年3月2日更新)
太田 忠
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ウクライナ侵攻による代償で「トリプル安」に見舞われているロシア市場

 やっぱりロシアは「恐ろしあ」―。2月24日未明にロシアがウクライナに軍事的侵攻を開始し、世界のマーケットが激しく揺さぶられている。国際法違反のとんでもない行動であり厳しく非難されるべきであるが、ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないため欧米諸国からの目立った援助もなく、ロシアによる一方的な攻撃にウクライナが孤立無援で徹底抗戦の展開となっている。本題に入る前に、まずはロシアがどれくらい金融市場で影響を受けているのか見てみたいと思う。

Photo:and4me / PIXTA(ピクスタ)

 今回の事態を受けてロシア市場からマネーが激しく流出している。ロシア通貨のルーブルは対ドルで90ルーブルの安値を付けた。ウクライナ侵攻直前は81ルーブルの水準。わずか2時間程度で9%もの下落となった。その後、さらに下落し、現在は110ルーブル前後だ。海外の投資家がロシアから資金を引き揚げ、ロシアが国際金融市場から締め出されるとのシナリオも織り込み始めており、ルーブルはさらに下落する可能性がある。ロシアの中央銀行は政策金利を9.5%から20%に上げるという対抗策を打ち出したが、急激な金利引き上げは「通貨防衛」と「景気悪化」の諸刃の剣である。

 もちろん「ロシア売り」は通貨だけにとどまらない。ロシアルーブル建ての国債も売られ10年物国債利回りは一時11%近くまで急上昇した。欧米や日本は対ロシア制裁の一環としてロシアのソブリン債に対して、3月以降に発行する新発債の流通市場での取引禁止を発表した。さらにロシアの主要株価指数であるRTSは前日比で一時50%安と暴落。これは強烈だ。モスクワ証券取引所は全市場の取引を一時停止。為替・債券・株が同時に売られるという、まさに「トリプル安」の様相にある。今後想定される欧米の大規模制裁による経済弱体化に警戒感が強まっているからだ。

 ロシアへの経済・金融制裁で我々に直接関係してくるのが、個人マネーにも影響が及ぶ可能性があることだ。ロシア政府が発行する国債の残高は2021年末で約21兆円。うち外国人投資家が2割を保有している。ロシア国債は投資信託や、仕組み債などさまざまな金融商品に組み込まれている。日本政府がロシア国債の取引を制限するなどの規制が増えれば、個人の取引に制限がかかってくる可能性もある。

今後の株式市場を占う「パウエル・プット」への期待

 さて、ロシアがウクライナに侵攻した24日における米株式市場でNYダウは6営業日ぶりに反発し、前日比92ドル高の3万3223ドルで終了した。実は朝方に一時859ドル安となり、VIX指数も一時37台後半と前日から2割も上昇。しかし、その後はハイテク株への押し目買いが増えて上げに転じた。これは注目すべき動きである。今回のテーマであるパウエル・プットの話に繋がってくるからだ。ロシアのウクライナへの軍事侵攻による地政学リスクが高まったことで、FRBが金融引き締めペースを緩めて株価の支えになるという「パウエル・プット」への期待が浮上しているからだ。

 もちろんロシアがウクライナに侵攻することは許せない。しかもウクライナ東部の親ロシア派が支配する地域で「ロシア系住民への虐殺が行われている」という自作自演で侵攻を仕掛け、自らの勢力圏を広げるために武力侵攻するなんて信じられない。「力づくによる現状変更」がまかり通ってしまえば、北方領土問題を抱える日本だって今後脅威にさらされる。将来的に懸念される中国による台湾侵攻だってそうだ。

有事での株価下落は一時的で「開戦は買い」が経験則

 さて、そういう非難はさておき、投資家として有事をどう捉えるかについて考える。過去の有事の際の下落率とイベントが起こってからの安値を付けた日数は果たしてどれくらいだったのか、NYダウの動きを点検してみたい。まず思い出されるのが2001年の9.11同時多発テロだが、9日後に-14.3%を記録。また1990年のイラクのクウェート侵攻では16日後に-14.3%とこの2つが突出していた。2003年のイラク戦争では-2.5%、1991年の湾岸戦争は-0.0%、1980年のイラン・イラク戦争では-4.3%、大きく遡って1941年の真珠湾攻撃では-8.8%という記録がある。第二次世界大戦についてはマーケットがクローズしていたので残念ながらデータがない。言えることは、有事での株価下落はいずれも一時的であり、有事が収まると株価は戻るケースがほとんどだ。したがって「開戦は買い」という経験則がある。

 さて、米国市場の動きに話を戻すが、ハイテク株中心に買われた。これまで金融正常化で割高感が意識されて、徹底的に売り込まれていた銘柄群だ。短期的な大きな下落でハイテク銘柄には値頃感があり、世界景気の影響を受けにくい、という点が買い戻しの起こっている要因である。

最大の注目は3月FOMCの利上げ幅

 パウエル・プットを測る一つのモノサシがある。米金利先物の値動きから利上げ確率を算出する「フェドウオッチ」だ。興味深いデータが出ている。米連邦準備理事会(FRB)が3月の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.50%の利上げに動くとみる確率が、2月24日に一時5.6%と前日の33.7%から低下。一方0.25%の利上げ確率は一時94%と前日の66%から上昇した。

 これまでの想定ではFRBがインフレ対抗策として3月に0.25%ではなく一気に0.50%の利上げをするという見方が増えていた。1回の利上げで0.25%ではなく0.50%へ引き上げるのは何と2000年5月以来22年ぶりで通常はこうした荒療治はやらない。さすがに今回の有事を受けて金融市場にダメージを与えることを控えようと配慮する可能性が高まっている。FRBがインフレを抑制しながら景気を冷やさないペースで金融正常化を進めるとの方針を示せば、マーケット展開は変わってくる。すなわち、テーパリング最中のガタガタする局面からマイルドな業績相場への回帰という株式市場にとって望ましい展開だ。

短期的には油断は禁物。ロシアによる暴挙が続けば下値模索も

 「開戦は買い」という経験則について述べたが、短期的には油断は禁物だ。25日のNYダウは「ロシアがウクライナとの停戦交渉に応じる構えをみせた」との報道で834ドル高と大幅続伸となったが引き続き二転三転ありそうだ。有事の際において底値を付けるのは少なくとも営業日日数で10日~15日程度は必要であり、我々はまだ底打ちしたマーケットにいるわけではない。ロシアによるさらなる暴挙が継続すればさらに下値を模索する動きになる可能性がある。

 私の今年の日経平均の安値予想は2万4500円(前回のテーパリング期間中に15%の下落が起こったことを考慮)と年初に述べたが、ロシアによるウクライナ侵攻という全く想定していなかった事態を考慮してもこの考え方に変わりはない。今回の有事を受けてFRBの金融正常化のペースがやや弱まる可能性が出てきたことで相殺されるからだ。短期的には有事は相場を左右するポイントになるが、いずれマーケットの関心は金融政策に移る。「世界経済が悪化したらどうするの?」と思われるかもしれないが、コロナショックを思い出してもらいたい。ロックダウンの連発で各国経済が急減速し企業業績も急激に悪化した中、株式市場は急騰した。株式市場の方向性を決めるのは景気動向よりも圧倒的に金融政策なのだ。

●太田 忠

DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

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