岸田政権が掲げる「新資本主義」は、国民を不幸にする
岸田政権が掲げる「新資本主義」。その実態は日本からお金持ちを撲滅すると同時に、低位層の人たちをも苦しめ続けかねない主義である。社会主義に似ていると言われるが、実態はかなり違う。新資本主義は、「万人平等」の発想の社会主義よりたちが悪いと言える。
なぜなら、その発想の原点は「金持ちは気に食わない」という嫉妬心から来ており、「国民を幸福にしよう」という視点が欠如しているからだ。さらに奥底では「国民を生かさず殺さず」をスローガンとして、自分たちだけは既得権益の拡大にいそしむ姿勢や態度が、政府の一挙手一投足を見ているとプンプンと臭う。政権発足時はモヤモヤしてあまり見えてこなかったが、最近はそういう光景が私には鮮やかに見えるようになった。皆さんは新資本主義についてどう思われるだろうか?
金融所得増税に続くお粗末な提案が、決算の四半期開示の是正問題だ
岸田政権のゆがんだ新資本主義のPart1で取り上げたのが金融所得増税問題だ(詳細は第10回コラム『「貯蓄から投資へ」に水を差す金融所得増税問題』参照)。岸田首相は「1億円の壁」の解消を打ち出したものの、その実、低所得者に20%という高率の税金をかけていることに全く言及しなかった。そんな中、一律でさらなる税率アップに持ち込もうとしているが、この考えは全く間違っている。富裕層ではない大多数の人に大きなメリットを与える金融所得課税こそが必要だ、と私は主張した。なぜなら、日本はもはや所得が上がらない社会構造になっている上に、お金の価値が下がり続けている。投資の恩恵をあらゆる国民が享受できる政策こそが今の日本には必要だ、と述べた。
今回、Part2の題材として取り上げるのが、決算の「四半期開示の是正」問題である。四半期開示の是正は、岸田首相が昨年10月に行った所信表明演説の目玉の一つとして述べたものだ。企業が3カ月ごとに業績を公表する四半期開示を見直し、情報開示を減らそうという案だ。さすがにこれには金融市場からも波紋が広がっている。
日本の上場企業の決算開示は、以前は上期と通期の年2回、すなわち6カ月に1回だった。ところが「欧米を見習ってもっと開示しよう」となり、3カ月ごとに四半期開示をする、というルールが1999年から東京証券取引所の主導で上場企業に求められるようになり、2008年には金融商品取引法で義務付けられた。企業と投資家の情報格差を埋めるのがその目的だ。
納得感がまるでない四半期開示を是正する理由とは?
では、なぜ今、四半期開示を是正して元に戻そうとするのか? その理由がヘンテコリンである。「四半期開示だと企業が短期的な利益の追求に走るから望ましくない」。「えっ? なんだって?」 もう一度言いますよ。「企業が短期的な利益の追求に走るから」。うーん、それともうひとつ「投資家が短期マネーに走る温床になるから」って。「えー、おやおや、それが理由ですか?」 そして続けて、「四半期開示をやめると、企業がもっと長期的な視点で経営できる」とのたまった。おー、すごーい!(思わず拍手喝采)。
皆さんもご存じのように、欧米では四半期開示が主流である。英国、ドイツ、フランスでは2010年代に法律上の義務付けは廃止されたが、それはあくまで法律上であって上場企業は四半期開示を継続している。もし日本が本当に見直したらどうなるか? かなりいいかげんな上場企業がたくさん混じる日本市場では四半期開示をやめてしまう例が多く出ると私は見ている。大企業は四半期開示を続けると思うが、「四半期開示なされていない企業もあるあるの日本市場」では主力プレーヤーの海外投資家が恐れおののき、日本市場から離れていくことは目に見えている。投資する人が減れば、結局困るのは誰? そう、他ならぬ企業だ。開示頻度が減れば、当然ながら情報格差も広がるわけで、時代に逆行している。
そもそも四半期決算の開示によって、これまで見えてこなかった季節的要因などの業績の偏りが分かって投資家の誤解が減り、経営成績や財務状況の進捗をチェックでき、中長期の目標達成に向けて着実に進んでいるかどうかの途中経過を確認できるメリットが享受できる。特に昨今のような新型コロナの影響で経営環境が急速に変わる状況では、企業がタイムリーに経営情報を投資家に開示する意義は大きいと考える。
政治家や官僚が自らの既得権益拡大を狙うパフォーマンスにすぎない
四半期開示の見直しが浮上した理由について、一部報道では「岸田政権で存在感を増した経済産業省の影響があるのではないか」との見方がある。すなわち、岸田首相が経済産業省と関わりが深い甘利明氏を自民党幹事長に、嶋田隆氏を筆頭首相秘書官に起用したことなどだ。開示見直し論は産業界でくすぶっていた問題だ。関西経済連合会や中部経済連合会などは2019年に四半期業績の開示義務の廃止を提言している。一連の行動にはやはり一連の流れがある、と見るのが自然だろう。
是正の意義を見い出せないことに加えて、「四半期開示だと企業が短期的な利益の追求に走るから望ましくない」だの、「投資家が短期マネーに走る温床になるから」だの、果ては「四半期開示をやめると、企業がもっと長期的な視点で経営できる」だのおかしすぎる理由を挙げているところが寒々しい。
間違った状況認識で改革をおこなえば、結果は正しい方向に行くはずがない。間違った結論にたどり着く。そういう点が私は苛立たしいし、「何だこれは!」となってしまう。タイムリーディスクロージャーは資本市場において最も基本的で重要なことだ。「新資本主義」と「新」をつけて、こんな低レベルの施策に取り組むなんてほんとバカバカしいことだ。
●太田 忠
DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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