ウクライナ侵攻、エボラ熱など世界の有事に強い投資先とは？

老後や有事の備えとして注目を集める金。今年に入ってからも、ロシアのウクライナ侵攻、イスラム国での緊張、そしてエボラ出血熱と、私たちの予想をはるかに超えた時限で起こる世界の有事。投資においてこれらに対処する方法としての金の魅力や価格動向、投資法について、金の第一人者、豊島逸夫さんに聞いた。

金は1トンもの原石の中から
たった3グラムしか採れない貴金属

豊島 まずは、珍しいものをお見せしましょうか。これが金を含んでいる原石、金鉱石です（写真）。

村井 この原石からどれぐらいの金が取れるんですか？

豊島 1トンの鉱石から3グラムも取れればいいほうですね。

村井 1トンからたった3グラム！

豊島 米国の西部開拓史時代には、幌馬車が何かにぶつかったと思ったら天然の金塊だった、なんていう逸話も残っていますが……。でも現在ではそんな形で金が採れることはなく、供給には限りがあるのです。

村井 本当に希少なんですね。

豊島 また、需要のほうはどうかというと、同じ宝飾品でも日本の女性は18金や小ぶりのもの、あるいは落ち着いたプラチナやシルバーを好む傾向がありますよね。でも、国によっては24金を大量買いするような人たちもいる。このパンフレットを見てください。

村井 赤に金……。わあ！ 随分、派手なデザインですね（写真）。

豊島 僕がアドバイザーをしている中国工商銀行の貴金属商品のパンフレットです。この銀行の資産規模は中国一どころか世界一。口座数は約3億口座もあるんです。そして、その大半は金が大好きな人たちなのです（笑）。

スマホがある快適な生活を
支えているのも実は金

村井 中国を代表する銀行が、これほど大々的に金を売り出しているなんて。中国の人って金が本当に好きなんですね。

豊島 政権や王朝がめまぐるしく変遷してきた長い歴史の中で、中国人には紙幣に対する不信感が少なからずある。だから価値が変わらない金への信認が根強いんです。そして、中国と並ぶ金の消費大国がインド。この国で多いのがブライダル需要です。嫁ぐ娘に親が金を持たせる風習があって、花嫁1人当たり日本円換算で30万～50万円分もの金を持たせるんですよ。

村井 万一に備えての親心としても大変な額ですね。

豊島 インドは若年層がとても多い国なので、今後の結婚件数も減ることはまずありません。さらに、金の需要として見逃せないのがハイテク部品です。金は他の貴金属と違ってさびない耐性がある。そして、導電性にも優れているので、スマートフォンの電子製品などでも活躍しています。

村井 宝飾品として人気があり、お金代わりにもなり、私たちの便利な生活も支えている。金の需要って幅広いんですね。

南アフリカの現在の金鉱は
深さ地下3キロの極限の場所

村井 需要があるなら、もっと金を掘り出すことはできないんですか？

豊島 海底にはまだかなりの金が眠っていますが、今の技術ではコスト的に採掘は難しいでしょう。南アフリカなどでも地上付近の金はすでに掘り尽くされ、今や地下３キロまで掘り進まないと採掘できない時代になっています。エレベーターを乗り継いで地下に降りるのですが、採掘現場の温度は40度以上、湿度98％という非常に過酷な環境で、深く掘れば掘るほど、冷房や換気設備や電気代などの生産コストも加速度的に増えていくんです。

村井 どれぐらいかかるんですか？

豊島 十数年前、金価格が1グラム約1000円だった時代、生産コストは700円程度。それが現在は約4000円と5倍以上に上がっています。でも、この生産コストがあるからこそ、金価格は株価のように「底が抜ける」ことはないのです。

村井 どういうことですか？

豊島 生産コスト以下にまで金価格が下がれば、金鉱山は減産、閉山を余儀なくされます。つまり、供給が減少するので、ある程度の下落で価格は下げ止まるわけです。それにこうした下落での買いチャンスを手ぐすね引いて待っている人たちもいる。

村井 中国やインドの人ですか？

豊島 はい。彼らの購買スタイルは非常にシンプルで、高いときは絶対に買わない。金の生産コストがギリギリになって、金価格が下落するときを狙って買い増ししていくんです。

過去の値動きから見ても
金の有事での強さは明らか

村井 それに、金は有事に強いとも言われますよね。

豊島 6年前、リーマンショックが起こって、世界のあらゆる資産が大暴落した中で、安全資産である金はすぐに価格が回復しました。僕もそうですが、株で大きく負けても金のおかげで資産全体の損失をカバーできた投資家は多いはずです。

村井 危機が起こったときにこそ、頼りになるわけですね。最近ではニュースなどで米国の景気が回復してきたと聞きますが……。

豊島 そうですね。世界経済は瀕死の状態から脱して、米の金融緩和縮小や利上げ観測を受け、金価格は調整局面にあります。しかし、米国経済が回復すれば、中国やインド経済にとっても好影響。今、両国の購買量は金の年間生産量の約7割を占めていますが、8～9割を買い占める時代が来ることもあり得ます。

村井 じゃあ、金価格はまだまだ上がるんですか？

豊島 短期的な予測は私たちプロでも難しい。でも、長期的に見れば2020年、つまり東京オリンピックの年には1グラム当たり7000円ぐらいまでは上がる可能性もあると予測しています。だからこそ、今から金を買い増していくのが賢いやり方だと思いますよ。

最適な貴金属への投資額は
資産全体の約10％が目安

豊島 貴金属投資にはさまざまなツールがありますが、利便性ではＥＴＦ（上場投資信託）がお勧め。株と同じように値動きを見ながら売買ができる商品で、ＥＴＦの中でも貴金属の現物の裏付けがあるものを選べば、現物の所有権も得られ一定量以上になれば現物との交換も可能です。

村井 貴金属はどこに保管されているんですか？

豊島 金融機関や倉庫会社の金庫で厳重に保管されるので、災害リスクや盗難リスクを回避する上でも優位性があります。

村井 現物管理もお任せできるのは安心ですね。買いたくなりました。

豊島 買うときは一気に買わないことが大切。金ＥＴＦなら一口4000円程度で買えるので、女子会に一回参加するぐらいの感覚で、コツコツと買い貯めていくのがお勧めです。

村井 はい、お財布を守るためにも、“女子会に行ったつもり投資”で金投資にチャレンジしてみます！