「勝ち組」としてバブルを謳歌(おうか)してきたコンサルティング業界。アクセンチュアやBIG4、戦略系、ITベンダー、総合商社……。市場の膨張を背景に、多種多様なプレーヤーがビジネス面に加え、人材獲得でも熾烈(しれつ)なバトルを繰り広げてきた。コンサルビジネスの最前線を追う長期連載『コンサル大解剖』は、連載スタートから丸1年となった。本稿は、50本近くに上る連載記事の一部を紹介しながら、この1年のコンサル業界の動向をおさらいする。(ダイヤモンド編集部副編集長 名古屋和希)
デロイト、“予算未達ドミノ”でリストラへ
アクセンチュア、右肩上がりの給与に異変
「勝ち組」として近年、バブルを謳歌してきたコンサルティング業界。長期連載『コンサル大解剖』では、コンサルビジネスの最前線を追ってきた。連載を続けてきたこの1年で、コンサル業界の風向きも大きく変化してきた。
象徴的な事案が、ビッグ4最大手のデロイト トーマツ コンサルティングの内部崩壊である。昨年秋に配信した『【スクープ】デロイトが内部崩壊!“予算未達ドミノ”で大幅下方修正、「禁じ手」人員削減リストラ計画の全容』では、内部資料を基にデロイトの“予算未達ドミノ”ともいうべき急激な業績悪化の中身に加え、ひそかに策定した人員削減を柱とするリストラ計画を明らかにしている。
内部崩壊は複合的な要因が絡んでいる。代表例を挙げれば、アクセンチュア対抗策の不発や営業力の低下、人事戦略の失敗などだ。『【スクープ】アクセンチュア対抗策の不発、営業力低下、“社員ファースト”の弊害…デロイト内部資料が明かす業績悪化の「病根」』では、企業をコンサルする立場の「プロ集団」が陥った“落とし穴”について解説している。
コンサルバブルを追い風にデロイトのみならず、各ファームが大量採用を続け、人員体制を拡充してきた。だが、その積極策が裏目に出ている。デロイトでは、大量のコンサルタントの「アベイラブル(プロジェクトにアサインされていない状態)」が生じた。この失敗事例からは、絶頂期は終焉(しゅうえん)したともいうべきコンサル業界の現実が浮かび上がる。
コンサル絶対王者のアクセンチュアは、『【独自】アクセンチュアの「超重要顧客」の日本企業2社が判明!自動車メーカーと電力会社の実名公開』や『【独自】アクセンチュア&塩野義製薬、大型合弁会社の狙いが判明!「リストラ回避」の新スキームの全容』でも触れたように、大手企業にがっちりと食い込んでビジネスを拡大している。
ただし、アクセンチュアにも異変は生じている。今年は昇進の対象ではない社員の基本給引き上げを実施しない方針を決めたのだ(『【スクープ】アクセンチュアが基本給据え置きへ!コンサル絶対王者に生じた異変の中身』参照)。記事では、アクセンチュアの職位や具体的な年収を示した給与テーブルを基に、ここ数年は右肩上がりだった給与・待遇に生じた変化を明らかにしている。
昨春、欧米ではアクセンチュアやマッキンゼーなどの主要ファームが相次ぎ人員削減を打ち出した。アクセンチュアの人員削減は、コンサル業界では最大規模の1万9000人が対象となった。欧米で台頭するコンサルバブル終焉論は、日本にもあてはまるのか。
本連載では、相次ぐ人員削減を受けた日本市場への影響も分析している。『米アクセンチュア1.9万人削減へ、日本法人へのリストラ波及は?独自入手の内部メールに示唆』や『マッキンゼー、KPMGの大リストラでバブル終焉?外資コンサル日本法人5社に聞く「人員削減」』といった記事から浮き彫りとなったのが、各ファームの日本市場への強気の見方である。
各ファームのトップも直撃してきた。昨年3月にインタビューに応じたPwCコンサルティングの大竹伸明CEOは「5年後に売上高倍増」という大胆計画を明かした(『PwCが「5年後に売上高倍増」へコンサル大増員!トップが明かす秘策の全貌』参照)。
また、デロイト出身の“超大物”コンサルタントであるEYストラテジー・アンド・コンサルティングの近藤聡社長は昨夏、インタビューの中で独自の採用戦略の全容を語っている『EYが「年1300人」のコンサル大増員計画!元デロイトのトップが明かす中途採用の独自戦略』参照)。
各ファームのトップインタビューから浮かび上がるのが、明確な戦略の違いである。各ファームとも採用を強化しているが、狙いは全く異なるのだ。例えば、EYの近藤氏は、競合とは異なり、中途採用ではコンサル出身者を異業種出身者よりも多く採用する方針を明かす。そして、それはビジネス戦略にも反映されている。同氏は競合が推し進めるテクノロジー系のビジネスに「かじを切ることはない」と明言した。
アクセンチュアやビッグ4だけではない。本連載では、国内系のファームの動きもカバーしてきた。特にコンサル業界の“風雲児”とされ、爆速で成長してきたベイカレント・コンサルティングに関しては、アナリストなどへの取材を基に同社が持つ三つの強みを紹介している(『国内発コンサル「ベイカレント」爆速成長中!BIG4ら外資系にはない“3つの強み”』参照)。
ただし、ベイカレントは昨秋の決算業績をきっかけにストップ安に見舞われた。『コンサル業界に暗雲?業績好調もストップ安「ベイカレント・ショック」の真相、単価・稼働率・採用の3大指標ににじむ不安』では、コンサル業界に異変が生じる中で、ベイカレントからにじみでている不安について解説した。
各ファームの動向だけではなく、業界の報酬や待遇、採用動向の事情も1年で様変わりしてきた。前述したアクセンチュアの基本給据え置きに加えて、『【独自】アクセンチュアがリファラル採用強化で紹介報酬を8倍に爆増!「照準は管理職」の陰にデロイトの失速?』では、アクセンチュアが現場の社員が知人などを紹介する「リファラル採用」を大幅に強化していることを明らかにした。
特に各ファームの採用に対する姿勢は変わりつつある。実際、コンサル未経験者などを多く採用してきたファームなどでは、人材教育などが大きな課題になっているからだ。
報酬に関しては、『「年収が高い」上場コンサルランキング【全15社】ベイカレントが5位、トップ3の顔ぶれは?』では、上場する主要ファームの年収を紹介。転職事情に関しては、コンサル出身者の“ポストキャリア”の鉄板5ルートを解説している(『「コンサル出身」は転職市場で最強!超鉄板転身先5ルートを人材エージェントCEOが解説』参照)。
ここ数年沸きに沸いたコンサルバブルだが、足元では、フェーズが変わりつつある。「勝ち組」に異変が生じる中で、各ファームはどのように経営のかじを切っていくのか。また、採用や報酬・待遇はどう変わっていくのか。本連載では、コンサル業界の最新動向を引き続き追っていく。