1976年3月13日号「ポスト・ロッキード!息の根が止まるのはどこか?――多国籍企業・総合商社総点検」1976年3月13日号「ポスト・ロッキード!息の根が止まるのはどこか?――多国籍企業・総合商社総点検」
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『ロッキード事件が提起した重要な問題点のひとつは、航空宇宙会社のような産軍複合体企業が、そのままの体質でもって、多国籍企業に転換していったことにある。(中略)日本の“多国籍企業”である総合商社も、ロッキード事件をきっかけにして国内国外に多国籍企業糾弾の波が一段と高まってきたことから、前途に不安を感じ始めたというのが正直なところだ。
(中略)
 総合商社のトップは、表面上は「問題は丸紅、それも個人の話。総合商社の機能には関係ない。危ない仕事はやらなければよい。要は「意識の持ち方だ」と答える。だが、裏に回ればみな総合商社経営の本質にかかわる深刻な問題として受け止めており、事実、総合商社の前途にからんで事件の意味するところは大きい。
(中略)
 商業資本は時と場所をうまく選んでの商売、それも取扱い商品は各社一様だから、人と人とのつながりが身上、といった性格を考えると、ロッキード事件のような暗い面とは背中合せであり、それが総合商社の宿命ともいえそうである。
(中略)
 通産省、農林省は、商業資本の限界から総合商社が海外投資で問題を起こしているため、厳しく監督する意向。輸銀、公取委も届出義務事項や融資審査を通じて、贈賄その他不公正なビジネスを取り締まる腹を固めている。海外からも国連はじめ先進国政府、発展途上国の反体制側からのチェックが厳しくなろう』

 事件発覚直後の緊急リポート「“ロッキード”で露呈した巨大商社の怪物性!」でも、多国籍企業である総合商社のビジネスは、複雑な構造であるがゆえに“伏魔殿”になりやすいことを指摘している。当時は連結決算が義務化されていないこともあり、多国籍企業の全貌をつかむのは経営者ですら難しいところがあったかもしれない。

 ロッキード事件では、事件当時の首相だった田中角栄に丸紅から5億円の賄賂が渡ったとされ、ロッキード社の日本総代理店だった丸紅の幹部、全日空の幹部の他、右翼の大物である児玉誉士夫と、児玉の依頼で政界工作をしたとされる田中元首相と親交の深い“昭和の政商”こと小佐野賢治(国際興業グループ創業者)らが起訴された。また、田中元首相をはじめ、元運輸相、元運輸政務次官も逮捕され、起訴された16人すべてが有罪となった。もっとも児玉、田中、小佐野らキーパーソンが上告中に死亡したこともあり、事件の全貌はいまだに明らかになったとはいえない。

 ただ、事件を通じて商社ビジネスの不透明な部分や政府高官との密接な関係、そして内部統制の欠如が腐敗の温床になっていることが明るみに出て、商社に限らず大企業に対して企業ガバナンスの強化が求められるようになったのは事実である。