「勝者のゲーム」と資産運用入門

景気後退のシグナル「逆イールド」発生するも、
米景気は強く、株式市場にマイナスではない。
2023年春から秋ごろまで上昇相場は続く太田忠の勝者のポートフォリオ 第26回

2022年4月6日公開(2022年4月7日更新)
太田 忠
facebook-share
twitter-icon
このエントリーをはてなブックマークに追加
RSS最新記事

景気後退のシグナルとされる「逆イールド」が発生

 先週の火曜日(3月29日)の米債券市場で2年物の国債利回りが一時、10年債を上回る「逆イールド」が発生。2019年の夏以来、約2年半ぶりに出現した。一般的に逆イールドの出現は「景気後退のシグナル」とされており、米連邦準備理事会(FRB)が今後金融引き締めに動くことで景気が冷え込むという展開を投資家が早くも織り込む動きをみせていると言われる。

 逆イールドを測定する最もポピュラーな指標が2年債と10年債との長短金利差だ。通常、債券の利回りは年限が長くなるほど返済リスクを踏まえて金利は高くなる。将来の経済や物価が不確実で見通せない分、高めの利回りが求められるからだ。なので、通常は1年債よりも3年債、3年債よりも10年債、10年債よりも20年債の方が利回りは高くなる。

金融正常化に向け短期金利は上昇する一方、景気不透明感で長期金利は上昇しにくい

 ただし、短期金利は足元の金利動向の影響を受けやすく、長期金利は長期的な景気見通しの影響を受けやすい。現在の債券市場では、FRBによる金融正常化の動きで足元の金利が上がっているため短期金利は上昇しやすく、一方の長期金利はウクライナ情勢や商品価格市場の高騰などがもたらす不透明感により景気見通しに自信が持てず金利が上がりにくい。

 実際、パウエルFRB議長は次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される5月に0.5%の大幅利上げに踏み切る可能性を示唆したことで、政策金利の動向に敏感な2年債利回りの上昇に弾みが付いており、3月に入ってから1.0%程度上昇した。一方、米長期金利の指標になる10年債利回りは3月に0.6%程度上がったが相対的に上昇幅は限定的だ。

 そうした結果、3月29日(火)に2年債の利回りが2.39%あたりで10年債の利回りをやや上回り、さらに4月1日(金)には2年債が2.46%(前日比+0.13%)、10年債が2.38%(同+0.08%)となり、長短金利差が-0.08%という明確な逆ザヤ現象が生じたのだ。

逆イールドが発生したからと言って、今の日本の株式市場にマイナスとはならない

 2年債と10年債の利回り逆転は、過去においても実際の景気後退の1~2年前に発生しており、市場参加者の関心が高い指標だ。2000年代初頭のITバブル崩壊やリーマン・ショックの前にも出現していた。直近では米中貿易摩擦が激化した2019年に一時発生し、その後の新型コロナ感染拡大で世界経済が大幅なマイナス成長に陥った。

 逆イールド現象は確かに景気後退のサインであるが、これが直ちに今現在の株式市場にとってマイナスか、と言えばそういうことにはならない。米国において1960年代半ば以降、2年債と10年債の逆イールドは8回出現した。最初に逆イールドが発生した後、S&P500指数が天井を打つまで平均で18ヶ月間の時間がかかっており、その間のパフォーマンスは+19%となっている。

FRBが現在重視しているのは短期の金利差

 ところで、FRBは現在の米景気や雇用環境の強さを強調しており、2年債と10年債の利回り逆転ではなく、より短い年限における債券の動きを注視している。そのきっかけは2018年だ。トランプ政権時代、米中貿易摩擦を背景に2年債と10年債の金利差が急激に縮小し、逆イールド騒ぎが起こったときだ。

 この時FRBは「長期金利を物差しにした金利差は景気予測の指標に適さない」と述べ、「短期の金利差が重要だ」と主張した。具体的には「18カ月先の3カ月物先物金利」と「3カ月物国債利回り」の差だ。パウエル氏はこの2つの金利水準について「もし逆転すれば、それは景気が弱いことを示唆しており、FRBが利下げに向かうことを意味する」との見解を表明した経緯がある。

 それでは今、この短期金利差はどうなっているのだろうか? 実は足元で2%超に広がっており、2年債と10年債の逆イールドとは対照的である。3月の雇用統計は好調、失業率は3.6%とコロナショック前の2020年2月の3.5%だった完全雇用に迫っている。「景気後退のリスクは小さい」とするFRBにとって一般論的な逆イールドが発生しても、それは正しい警告にはならないことを示す格好の材料といえる。

2023年の春~秋頃まで上昇相場が続いた後、「逆金融相場」に突入する可能性が高い

 ここまで書いたが、皆さんの関心は「この先の日本のマーケットはどうなるのか?」だと思う。もちろん、FRB流に言えば「短期的には気にするな」であるが、これまでの経験則を当てはめると、昨年春から始まった業績相場がテーパリングというガタガタする局面を経て、ようやくマイルドな局面に戻りつつあるが、上昇相場が続くのは2023年の春~秋頃までということになる。

 その頃には米国の政策金利は3%前後まで上昇し、金利のピーク局面手前でクラッシュが始まる「逆金融相場」に突入する可能性がある。そこからは景気減速を伴って「逆業績相場」がやって来る。要するに2023年の半ば前後から「逆金融相場」が始まり、2024年初頭には「逆業績相場」が来る、という見立てを私はしている。そして経済立て直しのために再び金融緩和に転じて、2025年頃から「金融相場」に戻る。

 このシナリオはかなり大雑把なものであるが、マーケットは常に変化してゆく。その変化にきちんと対応した投資行動が取れるかどうかが個人投資家にとって重要だ。なので、個人投資家の皆さんにおいてもある程度、自分の見通しを持っていた方がいいと思う。

 今後、都度、マーケットサイクルについては言及していきたい。

●太田 忠

DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。

 この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、週2回のメルマガの他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。

 

国内外で6年連続アナリストランキング1位を獲得した、
トップアナリスト&ファンドマネジャーが
個人投資家だからこそ勝てる

「勝者のポートフォリオ」を提示する、
資産運用メルマガ&サロンが登場!

老後を不安なく過ごすための資産を自助努力で作らざるを得ない時代には資産運用の知識は不可欠。「勝者のポートフォリオ」は、投資の考え方とポートフォリオの提案を行なうメルマガ&会員サービス週1回程度のメルマガ配信+ポートフォリオ提案とQ&Aも。登録後10日間は無料!

太田忠の勝者のポートフォリオ

10日間無料 詳細はこちら※外部サイトに移動します


【ザイ投信グランプリ2024】を発表!本当にいい投資信託だけを表彰
【クレジットカード・オブ・ザ・イヤー 2023年版】2人の専門家がおすすめの「最優秀カード」が決定!2021年の最強クレジットカード(全8部門)を公開! 最短翌日!口座開設が早い証券会社は? おすすめ!ネット証券を徹底比較!おすすめネット証券のポイント付き
ZAiオンライン アクセスランキング
1カ月
1週間
24時間
ダイヤモンド・ザイ最新号のご案内
ダイヤモンド・ザイ最新号好評発売中!

配当&株価が10倍株!
NISA投信グランプリ
ふるさと納税

6月号4月19日発売
定価780円(税込)
◆購入はコチラ!

楽天で「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!Amazonで購入される方はこちら!

[配当&株価が10倍になる株!]
◎第1特集
配当&株価が10倍になる株!
10年持ちっぱなしで「配当が10倍」になる株や「株価10倍」になる大型優良株を発掘
・誰もが知ってる大型株・優良株で実現
・新興国に進出/AI・半導体/
高齢化・人手不足/環境・EV
・番外編:1年で株価2倍になる株


◎第2特集
ダイヤモンド・ザイ
NISA投信グランプリ2024

2回を迎える、投資信託のアワードを発表!
NISAの投信選びや保有投信のチェックに最適

・NISAで運用できる投資信託のみが対象
・個人投資家が選びやすいよう、本数は30本のみ!
・個人投資家がわかりやすい部門で表彰


◎第3特集
ふるさと納税 日本3大グルメ&生産地
返礼品60 

日本3大和牛、3大地鶏、といったブランド食品や、日本3景、3名泉のベストグルメ、大注目の魚介、フルーツの3大産地の返礼品などを紹介

◎第4特集
FXで1億円!
年億稼ぐトレーダーの「神トレ」大公開!

ドル/円が34年ぶりの安値更新など、活況の為替市場。
FX界隈では、1年で「億」を稼ぐ「年億」の個人投資家が続々誕生しています。その手法を、わかりやすくお届け


◎【別冊付録】

いつまでたっても始められない人に贈る
新NISA「超ラク」スタートBOOK
完ペキさを求めてなかなか始められないより、「ラク」に「早く」始めたほうが、結果的にオトク
なかなか始められない人向け、ぐうたら指南書


◆出遅れJリートに投資チャンス! 利回り4~5%台投資判断&オススメJリート 
◆おカネの本音:渋澤 健さん
◆10倍株を探せ! IPO株研究所
◆マンガ恋する株式相場「コンビニがGAFAの一角に!?」
◆マンガ「昭和のボロ空き家はそのまま貸せばいい!?」
◆人気毎月分配型投信100本の「分配金」速報データ!


>>「最新号蔵出し記事」はこちら!



「ダイヤモンド・ザイ」の定期購読をされる方はコチラ!


>>【お詫びと訂正】ダイヤモンド・ザイはコチラ

【法人カード・オブ・ザ・イヤー2023】 クレジットカードの専門家が選んだ 2023年おすすめ「法人カード」を発表! 「キャッシュレス決済」おすすめ比較 太田忠の日本株「中・小型株」アナリスト&ファンドマネジャーとして活躍。「勝つ」ための日本株ポートフォリオの作り方を提案する株式メルマガ&サロン

ダイヤモンド不動産研究所のお役立ち情報

ザイFX!のお役立ち情報

ダイヤモンドZAiオンラインαのお役立ち情報