日米の金融政策の違いから円売りドル買いの動きが加速
3月28日月曜日の外国為替市場で円が対ドルで一気に下落し、一時2015年8月以来6年7カ月ぶりとなる1ドル=125円台を付けた。その後反発して122円台を推移しているが、急激な円相場の下落に歯止めがかかりにくくなっている状況にある。
その背景にあるのは日米の金融政策の明確な違いだ。米連邦準備理事会(FRB)は金融正常化に向けて3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で既にゼロ金利を解除。今年7回、0.25%ずつ金利を引き上げる方針を示したが、パウエル議長は先週の民間講演でインフレ対応のために0.5%の大幅利上げを行う選択肢を排除しないと述べ、米長期金利は一時2.50%近くまで上昇した。
一方、日本の長期金利は0.25%まで上昇しているものの、日銀は大規模な緩和を続ける姿勢を全く崩していない。「金利の低い通貨を売って、金利の高い通貨を買おう」。金融政策の違いが円売りドルの動き加速させている。
「有事の際の円買い」はどこに行った?
ロシアによるウクライナ侵攻の当初こそ、やや円高に振れる局面もあったが、ウクライナ情勢が長期化する様相を見せ始めてから115円台だった為替水準が一気に122円台まで円安になった。要するに「有事のドル買い」が顕著になっている。これだけ金利差が開いてしまうと、一番強い通貨にマネーが流れるのは自然なことだ。しかも米国はロシア経済への依存度が極端に低い国である。昔よく見られた低金利の円を調達して海外で運用する「円キャリートレード」も今や鳴りを潜め、その巻き戻しによる円買いもほとんど見られない。
円安はいつの時代も日本の株式市場にとってはプラスに受け取られるようだ。ロシアによるウクライナ侵攻で揺れた2週間前の日経平均は一時2万4700円台まで下落したが、今や2万8000円台にまで戻る原動力となっている。もちろん、原油先物価格にピークアウト感が見られることや、ロシアが国債の金利・償還の支払いをドル建てでおこない当面のデフォルトを回避したことも要因に挙げられるが、欧米諸国に比べて日本市場が際立って力強く戻っているのは円安効果が大きい。
黒田日銀の異次元緩和が円の価値を一段と下げた
さて、日銀の金融政策である。黒田東彦氏が2013年3月に総裁に就任した当時は「メリハリのない白川前体制では金融政策は立ちいかない」「俺が一気に変えてやる」との思いが強かったに違いない。だからこそ、我々が今まで見たことのない「異次元緩和」をやり始めた。おそらく短期決戦で物価上昇率2%を達成し、株式市場からのETFの買い入れも短期決戦での効果を想定していたと思う。当初は我々マーケット関係者もかなりの期待感を持っていた。
ところが、経済・金融は生き物である。教科書通りの効果は現れず、それが明らかになっても一貫して期初の政策を継続し、日銀総裁を再任した後も同じ政策を延々と続けている。「消費者物価の上昇率が4月以降に2%程度になる見通し」、「物価が上昇する中でも金融政策を修正する必要性は全くない」、そして「円安は日本経済にとってメリット」と黒田氏は述べ、まだまだ緩和を続ける考えを強調した。
今年1月に記した第16回コラムで私は「円安は日本にとってマイナスの時代」と書いた。円の総合的な実力を示す実質実効為替レートは約50年ぶりの低水準となる68.0まで低下。これまで最も円の実力があった1995年頃のレートは1ドル150円台なのでそれに比べると半分以下だ。バブル崩壊以降の長引く景気停滞によって他国と比べて日本の賃金や物価が上がらなかったこと、輸出競争力を重視して政府が円安につながる政策を押し進めたのが要因である。かつてとは経済構造も変わり、円安は日本の成長力底上げに寄与していない。「さらに言えば、2013年に始まった黒田日銀総裁による異次元金融緩和で円の価値は一段と下がってしまった」と述べた。
黒田日銀は円安誘導政策をマイナスと認め、軌道修正を図るべし
かつては円安が製造業の輸出競争力を後押しする形で経済成長に寄与した。今でも黒田日銀は「円安は経済成長率を押し上げる」と主張している。だが、多くの企業が海外に拠点を移すことにより経済構造が変わり、円安による日本経済の押し上げ効果は弱まった。ちなみにGDPに占める製造業の比率は1970年代は35%あったが、2010年代になると20%に低下。もはや足元では円安のデメリットが目立ってきている。
黒田氏の会見を見ながら、「さすがにこれは異次元暴走だ」と私は思った。自ら主導してきた円安誘導政策は日本にとってもはやマイナスだと認めるべきなのに、円安への固執がものすごい。「円安を否定することは自己否定につながるから、政策修正には動かない」、としか私には見えない。日銀総裁と言えども、時代にそぐわない政策でひずみが出てくれば適宜、軌道修正するのが本来あるべき姿である。それを自分のメンツを保つために継続するー。
会見の席では、記者たちからあちこち突っ込まれてイライラを募らせる場面も多くみられた。黒田氏の総裁任期は来年の4月8日までである。さらにあと1年、誤った政策を続けるつもりなのだろうか?
●太田 忠
DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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