一般市民や原発への攻撃など暴挙が続くロシアの孤立は深まるばかり
ロシアが侵攻するウクライナで両軍の攻防が激しさを増している。ウクライナの首都キエフや第2の都市ハリコフでは、ロシア軍のミサイルなどによる攻撃が一般市民に対しても無差別に広がっている。欧州最大級のサポロジエの原子力発電所を攻撃するという暴挙に出て、この地を制圧するに至っている。
当然ながら、ウクライナに侵攻しているロシアに対する国際社会の批判が強まっている。3月2日に開催された国連総会の緊急特別会合でロシア軍の即時・無条件の撤退や核戦力の準備態勢強化への非難を盛り込んだ決議は、193カ国の構成国のうち141カ国の支持を集め、反対は5カ国、棄権も35カ国にとどまった(反対国、棄権国の大半はロシアから武器を輸入している国々であり、軍事的な依存関係が強いという特徴がある)。もちろん、法的な拘束力はないもののロシアへの風当たりの強さは明白である。国際社会から叩かれてロシアは孤立し、「ひとりぼっち」の状態になりつつある。
欧米日などの強力な金融制裁で信用危機に直面し、デフォルト懸念高まる
さらに今や、欧米日による金融制裁でロシアは信用危機に直面している。SWIFT(国際銀行間通信協会)からロシアの銀行を遮断する制裁により、通貨ルーブルは急落。債券と株式市場も急落し、ロシアの対外債務にデフォルト(債務不履行)の懸念が高まっている。
ウクライナへの本格的侵攻を受けて、2月28日にロシアの国債や社債は急落した。2047年償還のドル建て国債は、その価値がわずか1日で半値以下となり、前週末に8%だった利回りは18%になった。ロシアは2014年のクリミア併合後、国際的制裁と原油安のダブルパンチで経済が苦境に陥った経験から、今回の制裁への備えを進めてきた。ロシアの現在の外貨準備高は6300億ドル(約70兆円)あり、クリミア危機直前の2013年末と比べて2割超多い水準にある。一方、7000億ドル(約80兆円)を超えていた対外債務は現在5000億ドル(約56兆円)を切る水準にまで低下している。
ところが、今回の制裁は中央銀行にまで及んでいるため、せっかく積み上げた外貨準備の大半が凍結されてルーブルを支えられない状況にある。ドル建て債務の負担が急速に膨らんでいるのだ。ドル建て国債の未償還残高は約330億ドル(約4兆円)あり、4月に最初のまとまった償還を迎える。また社債などを含む対外債務の3割弱に相当する1350億ドル(約15兆円)の満期は1年以内だ。
ロシア国債の債務不履行リスクを示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の保証料率(5年物)は2月28日に15%を突破し、クリミア併合後の6%台を大きく上回り、足元ではデフォルト確率が80%程度まで上昇している。SWIFTからロシアが締め出されることでロシア国債の利息や元本の支払いに支障が生じ、デフォルトに陥るとの警戒感である。
ロシアがデフォルトしても、金融システム全体に及ぼすリスクは限定的
3月に入ってから世界の格付け機関も動き出した。ムーディーズはロシアの格付けを従来の「Baa3」からジャンク級の「B3」にまで引き下げ、S&Pグローバルとフィッチ・レーティングスも「投資適格級」から「投機的水準」に引き下げた。
ロシア中銀は無制限の資金供給で銀行を支援している。政策金利も9.5%から20%に引き上げた。預金金利を高め、引き出したり、外貨に交換したりする動きを抑制する狙いだ。だが、国際決済網から遮断されるロシア銀は外貨調達が難しくなっている。金融不安から連日最安値を更新するルーブル安により、インフレを懸念して預金を外貨や物に換える動きが続いてしまう悪循環が強まっている。
もしロシアがデフォルトすれば世界中で大騒ぎになるのは容易に想像できるが、実際にデフォルトしても金融システム全体に及ぼすリスクは限定的だと私は見ている。ロシア向けの対外与信残高は世界全体で1047億ドル(12兆円)、全世界の対外与信残高の0.3%に過ぎない。ルーブル建て国債のうち海外投資家の保有分は2割にとどまる。外貨建てでも海外投資家の保有額は200億ドル(約2兆円)程度である。
米国にとってロシア経済の存在は小さく、米国経済への影響も限定的
また、世界最大のGDPを誇る米国にとってロシア経済の存在は小さく、ロシア向け輸出は全体の0.3%、輸入は0.7%を占めるに過ぎない。短期的にはウクライナ情勢を受けた原油価格の高騰などが物価を押し上げるが、米国自体はロシアやウクライナ経済の影響を受けるわけではない。ロシアやウクライナ情勢の影響が大きいのは欧州や新興国である。世界から制裁を受けるロシア経済が窮地に立てば結びつきの強い欧州経済は貿易、金融の様々な経路から打撃を受ける恐れがあるため、その点は留意しておく必要がある。
ロシアのデフォルトは既定路線シナリオとしてマーケットに織り込まれつつあると思う。皆さんもご存知のようにロシアは1998年にもデフォルトを起こしているが、ロシアがドルペッグ(連動)制でがんじがらめとなり、経済や財政が最悪だった当時とは比較にならない。足元で急速に上昇している原油価格、その投機的な動きも沈静化していくはずだ。
●太田 忠
DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。プロが評価したトップオブトップのアナリスト&ファンドマネジャー。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
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