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なぜ日本企業は株価を気にせず、イノベーションも起きないのか?私が日本株ではなく世界株に投資する理由とは?

2022年11月10日公開(2022年11月10日更新)
ポール・サイ
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日本では敵対的買収がなかなか起こらない。いつ、誰から食われるかわからないという恐怖感が日本の経営者にはない

 最近、イーロン・マスクがツイッターを買収して、旧経営陣、社員の半分を一気にクビにしました。かなり激しいことです。

 日本では、小さな数十億円程度の時価総額の会社でも、敵対的買収がなかなかされません。そのため、株価が低ければ敵対的買収をされるかもしれないという恐怖感が経営陣になく、ハングリー精神がほとんどないのです。

 一方、アメリカの資本市場は弱肉強食です。いつ、誰から食われるかわかりません。

 日本の場合、いつ、誰から食われるかわからないということはほとんどありませんが、その一方、緩やかな自殺をするかのような会社はあります。

 内部留保によって資金が循環していれば、会社はなんとかなるのですが、赤字になり始めると大変なのです。ゆっくりと慢性病で亡くなっていくかのような会社がよくあります。

日本は形だけコーポレートガバナンス・コードを整えても、本質が変わっていなければダメだ

 日本政府はここ数年、アベノミクスでなんとか流れを変えようとしてきました。日銀は量的緩和政策を行ないましたし、コーポレートガバナンス・コード[上場企業が行なう企業統治(コーポレートガバナンス)においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したもの]が策定されました。しかし、効果はそこまで見えていません。

 コーポレートガバナンス・コードなどはほぼ効果がありません。なぜかというと、企業は表面的に形だけコーポレートガバナンス・コードの指針を満たしていれば、それでOKとされているからです。形だけ整えても、本質は全然変わっていないことが多いです。

 必要なのは競争であり、株式市場の自然な規律です。

 投資家は安い株を買って、株価が上がるのを待っています。しかし、市場規律がなければ、株価は上昇しません。日本の株式市場は規律がゼロではないですが、結構低い方だと思います。

 ガバナンスが効いていて、株主が会社への支配力をきちんと持っていることは、株の価値を決める重要な要素です。会社が儲かっていても、お金がいっぱいあっても、それが株主の方に返ってくる見込みがなければ、その株に価値はないのです。

純資産100億円に対して、時価総額が50億円しかない会社。そのように株価が放置される背景は?

 昔、企業価値(EV)(※)がマイナスというある日本の小型株を見つけました。謎だなと思いました。

(※編集部注:企業価値(EV)は、株式時価総額+有利子負債-現預金で算出される)

 正確な数字ではないですが、イメージとしては、純資産100億円に対して、時価総額が50億円しかないような感じでした。

 なぜそんなふうに放置されていたのか?

 株式の持ち合いが行なわれていた結果、一般の株主がその会社への支配力をほぼ持っていなかったからです。株式を持ち合っている企業と一般の株主の利害関係は一致しなかったのです。

 その会社は赤字を垂れ流すことによって、数年後、資産が大きく減りました。その間、会社の富は社員に移転されたことになります。規律のある資本市場であれば、その会社を解散して、その資産をもっと資本が必要なところへ再分配できるはずだったのです。しかし、市場に規律がなかったので、市場は資本再分配の機能を果たさなかったのでした。

 長期投資家にとっては、このようなコーポレートガバナンスの問題は重要です。そのあたりがしっかりしていない日本株は長年安く放置されることが多かったのでした。株価が長期的に継続して上昇することもあまりありません。多くの日本株は長期投資より、短期投資の方が向いています。

 株価が低いと、株式市場、会社、そして社会が悪い循環に入ってしまいます。グルグルと負のフィードバックが連鎖していきます。日本社会がここから脱出できるのか、今のところ楽観はできません。

長年勝ち続けていた凄腕日本株ファンドマネジャーの秘訣とは?

 ここまで説明してきた理屈は外国人投資家、グローバルファンドによくある日本に対する見方です。このような考え方によって、海外投資家の日本株への関心はかなり下がってきています。残念なことですが、海外では日本株のアナリストの人数も毎年減ってきているようです。

 ただ、私が知っている日本株の凄腕ファンドマネジャーはこのような状況下でも長年勝ち続けていました。その秘訣はなんだったでしょうか?

 それは、「TOPIXの中でグローバル株を買う」ことです。覆面グローバルファンドで、日本株のTOPIXと勝負していたのです。

 すごくシンプルなことでした。買わないのは内需株(特に銀行株)。ただ、インターネット関連の企業は革新性があるので、内需株の中で例外としていました。

 逆に買うのはグローバルに競争力がある会社、あるいはダイナミックな創業者がいる企業の株です。そして、同じ銘柄をずっと保有し続けます。毎年、ポートフォリオの回転率は20%未満でした。これで毎年、TOPIXに対して、楽々と超過リターンを得られていました。あなたも同じことができます!

 日本株は買えないのではなく、厳選して買わないといけないのです。

投機対象ではなく、投資対象にできる日本株は限られる。自由に投資できる個人投資家なら世界株、米国株に目を向けよう

 日本の個人投資家にとっては日本株の方が身近であり、このような日本の会社が持つ問題、日本株が持つ問題をよくわかっている人もいることでしょう。そういう人たちは株は投資ではなく、投機だと割り切って、株取引をやっているのです。もしくは、これで株式投資に失望して、株は博打だという認識になってしまい、すべての株式投資から離れていってしまいます。

 しかし、世界の株には投機対象ではなく、投資対象になるものがたくさんありますし、日本株もすべてが投機対象なのではなく、投資対象となる株もあることを個人投資家のみなさんにはわかってほしいと思います。

 ただ、日本株だけを見ていると、投資対象となる銘柄数は限られてきますし、投資できるセクターも限られてきます。個人投資家のあなたがするべきことは、世界の株を投資対象とすることだと思います。

 凄腕日本株ファンドマネジャーは投資対象が日本株に制限されていて、やむを得ずTOPIXの中で銘柄を探すしかありませんでした。投資対象に制限のない個人投資家であるあなたは、フルパワーで世界株に投資しましょう。ダイナミックな企業改革、企業買収、業界再編が行われている米国株に投資しましょう。

 

●ポール・サイ  ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。

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