今回は投資の基本的な考え方、「投資哲学」について、読者のみなさんにぜひお伝えしたいことを書きたいと思います。
特に日本の個人投資家のみなさんが米国株に投資する際に、しばしば見落としがちなポイントに焦点を当てます。それは、「配当だけに注目しすぎないこと」です。
日本では高配当株を好む傾向が強く見られるが、投資の目的は“資産の最大化”であり、重要なのはトータルリターン
日本では、安定的な収入を求めて高配当株を好む傾向が強く見られます。「配当利回りが高いから安心」「毎年この金額が入ると心強い」といった心理的な安心感は確かにあります。
しかし、投資の目的は“資産の最大化”であり、そのためには「トータルリターン」に目を向ける必要があります。
トータルリターンとは、配当収入と株価の値上がり益(キャピタルゲイン)を合わせた合計のリターンのことです。つまり、いくら高配当でも、株価が大きく下がれば全体のリターンはマイナスになることもあるのです。
S&P500構成銘柄のデータは「配当利回りが高い=トータルリターンが高い」とは限らないことをはっきりと示している
下の図は、S&P500の構成銘柄を対象に、横軸に過去1年の配当利回り、縦軸に過去1年のトータルリターンをプロットしたものです。ご覧いただくとわかるように、配当利回りが高い銘柄群の中には、リターンが低迷しているものが少なくありません。
特に「配当利回りが高い=トータルリターンが高い」とは限らないことがはっきりとわかります。むしろ、ある程度の範囲で見ると、配当利回りが低い銘柄の方が、トータルリターンが高い傾向すら見られます。

なぜ、「配当利回りが高い=トータルリターンが高い」とは限らないのか?
この現象は、アメリカの企業ガバナンスが合理的であることと関係しています。成長余地のある企業は、得た利益を社内に留保して積極的に再投資を行います。その結果、配当をあえて出さずに成長を優先するのです。
逆に、成長機会が少ない企業は、利益を株主に還元する選択をします。つまり、「配当が高い=成長の余地が少ない」というシグナルにもなりうるのです。また、株価が大きく下がって利回りだけが相対的に高く見える「見かけ上の高配当株」にも注意が必要です。
日本企業は内部留保が必ずしも成長投資に活かされていないことが多い。そのため、株主が株主還元を重視するのはある意味、合理的
一方で、日本企業はガバナンスの改善は進んでいるものの、まだ米国ほどではなく、内部留保が必ずしも成長のための投資に活かされていないことが多くあります。そのため、株主としては「配当や自社株買いなど、実質的に株主の手元に返ってくるもの」を重視するのはある意味、合理的です。
実際、日本株にはPBR(株価純資産倍率)が1倍を割っている企業が多く見られます。これは、社内に現金や資産が多くあっても、それを有効活用できていないという市場の評価の現れです。
まとめ:日本株と同じ感覚で米国株を見ると判断を誤る。米国株投資では「成長を取りに行く」というマインドセットに切り替えることが重要
日本株と同じ感覚で米国株を見ると、誤った投資判断を下してしまう可能性があります。米国株に投資する際は、「成長を取りに行く」というマインドセットに切り替えることが重要です。
たとえ配当利回りが低くても、将来の成長が期待できる企業に投資することで、最終的には大きなリターンが得られる可能性があります。「米国株は“配当”ではなく“トータルリターン”で考える」、これを1つの投資哲学として持っておくと良いでしょう。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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