11月の米CPIは2カ月連続で市場予想を下回ったが、株価上昇は限定的
マーケットの流れが変わってきた ―。
私が従来から言っている「インフレピークアウトという事実だけで、今後の景気減速を無視してまで買い上がっていくのは困難」「景気減速懸念が強まることで再び売り基調となり、ベアマーケットラリーが終了する」。先週は11月の米国の消費者物価指数(CPI)と12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果発表という2つの大きなイベントがあったが、マーケットの関心は金融政策から景気動向へ完全に移っているように思う。
まず、先週火曜日に発表された11月の米CPIを見てみよう。総合が前年同月比+7.1%となり市場予想の+7.3%、10月の+7.7%を下回った。またエネルギーと食品を除いたコア指数が+6.0%と市場予想の+6.1%、10月の+6.3%を下回る形となった。これで2カ月連続で市場予想を下回る結果となったことで、「インフレのピークアウトで利上げは鈍化する」との見方が広がり、発表直後のNYダウは700ドルあまりの上昇、またナスダックは4%近くもの上昇と大きく反応。しかしその後は急速に伸び悩み、結局この日のNYダウは103ドル高、ナスダックは1%の上昇にとどまった。
利上げ幅0.5%に減速も、2023年末の政策金利見通しは5.1%に引き上げ
そして、先週水曜日に12月のFOMCの結果が発表。3月にゼロ金利を解除して利上げをスタートしてから初めての減速となる0.50%の利上げで決着した。過去4回のFOMCでは通常の3倍にあたる0.75%の利上げを連続して実施してきたが、今回は事前予想通りの0.50%となった。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は「インフレ率を2%に戻すため、十分に引き締め的な水準まで安定したペースでの大幅な利上げが必要」「10月、11月のCPIは市場予想を下回ったが、インフレ低下を確認するにはかなりの証拠が必要」と述べ、慎重姿勢を崩さなかった。また、今回のFOMCの参加者による2023年末の政策金利見通しの中央値は9月時点の4.6%から5.1%に引き上げられた。
12月のFOMCにおいて政策金利の誘導目標は4.25%~4.50%になった。これをベースに考えると、2023年の最初の3回のFOMCで通常ベースの利上げ幅の0.25%ずつ引き上げたとすれば5.00%~5.25%となり、FRBが想定する政策金利水準と合致する。2023年の3回目の会合は5月に開催されるが、この5月を最後に利上げが停止されるシナリオが示されたわけだ。利上げのターミナルレート(到達点)はリーマン危機前の最高水準であった5.00~5.25%に並ぶ形だ。
FRB議長の「2023年に利下げはない」とのタカ派発言でマーケットは急落
パウエル議長は「ターミナルレートの予想をさらに引き上げることがないとは自信を持って言えない」と述べた。また「2023年中の利下げへの転換はない」と強調してタカ派的姿勢を改めて示した。FOMCの結果発表直前まではNYダウは200ドルあまり上昇していたが、発表後は400ドルあまり下げる場面もあり、前日と同じく不安定な動きだった。そして、翌日木曜日の米国市場はNYダウが764ドル安、ナスダックは3.2%安と急落した。
急落の要因は、仮に3回の利上げで打ち止めになっても、その後に金利の引き下げがないとすれば金融引き締め状態が続き、景気後退を招くとの見方が広がったためだ。そもそも今回のFRBによる金融引き締めは半端ないスピードだ。前回の金融引き締め局面、すなわちイエレン前議長が2015年12月にゼロ金利を解除して中立金利の2.0%に達するまで3年を要した。だが、今回のパウエル議長が2022年3月にゼロ金利を解除して中立金利2.0%に達するまでに要した時間はたった4ヵ月である。同じ目標に到達するまでに片や3年、片や4ヶ月。大きな違いだ。夏頃までは堅調さを保っていた米国景気も、ここにきて主要経済指標はどれも減速感が顕著である。2年金利と10年金利の逆イールドは依然として-0.70%から-0.80%の水準で推移しており、驚くほどの深いマイナスギャップである。
逆イールドが深まる米国の2023年の景気後退は不可避か
「逆イールドは景気後退のサイン」とよく言われるが、皆さんはその意味をきちんと理解されているだろうか? 2年金利(短期金利)は足元の金融政策に大きな影響を受けるのに対して、10年金利(長期金利)は将来的な景気動向に大きな影響を受けるという特徴がある。足元の金融政策ではバンバン金利を引き上げているため、2年金利はバンバン上がっているのに対して、将来の景気はどんどん不安感が高まっているため10年金利は下がるという構図だ。これが普段はありえない逆イールドを生み出す。これほど深い逆イールドになれば、2023年の景気後退は顕著になる可能性が高い。「長期金利が下がればマーケットは上がる」という通常の方程式は崩れて、「長期金利が下がるからマーケットも下がる」という流れに変化していることに注目していただきたい。
最近のコラムで述べてきたように、私の12月初め頃の関心事は次の2点であった。
①インフレピークアウトという事実だけで、今後の景気減速を無視してまで買い上がっていくのか?(逆業績相場をすっ飛ばす形での金融相場の到来)
②景気減速が強まることで再び売り基調となり、ベアマーケットラリーが終了する(逆金融相場から逆業績相場への移行)
逆金融相場から逆業績相場への移行が濃厚。業績不振で株は売られる構図
FRBによる政策金利の見通し引き上げや、パウエル議長のタカ派的姿勢の維持、また長期金利の一段の下落により景気減速懸念が高まっている。今までの「金利上昇が終われば、そこから金融緩和へまっしぐら」という①の考え方にやはり無理が生じており、「景気減速懸念の高まりからベアマーケットラリーが終了する」という②の兆候が強まっている。
そして景気減速に対する解釈にも変化が見られる。これまでは「景気悪化になればFRBは金融緩和をするのでポジティブだ」から「景気悪化になれば企業業績不振で株は売られる」への変化だ。すなわち、逆金融相場から金融相場へいきなりジャンプするのではなく、逆金融相場から逆業績相場への動きである。2023年のマーケットでいかに戦うかを考える、において非常に重要なポイントになる。
新春Webセミナーに参加して、逆風下でも勝てる2023年の投資戦略を練ろう
さて、私がDFR(ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ)で投資助言をおこなっている「勝者のポートフォリオ」は先週もベンチマークをアウトパフォームして好調だった。マーケットが大きく下がる中、「勝者のポートフォリオ」はほとんど下がらなかった。年初来高値更新も2銘柄あり、冴えないマクロ環境下でも株価上昇が期待できる保有銘柄が増えてきている。逆風の中でも、資産を積み上げる運用をおこなっていきたい。
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。
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