元フィデリティ投信の東京オフィスで、日本株、アジア株の株式調査部長、ファンドマネジャーとして活躍した後、40代でFIREしたポール・サイ氏。現在は、DFR(ダイヤモンド・フィナンシャル・リサーチ)アナリストとして、FIREするためのポートフォリオ作りや銘柄分析、推奨銘柄、投信の見極め方などを有料メルマガなどを通じて発信している。
前回の連載から、投資にまつわることを中心として、私が幼い頃よりたどってきた道をご紹介しています。前回は私が社会人になった頃、インターネットバブルが起き、その後、それが崩壊したところまでを書きました。今回はその続きです。
[参考記事]
●私の歩んできた道(1)ネットバブルに乗り、バブル崩壊前に株を売り切った! バブルを若いうちに実感できた方がいい理由とは?
モルガン・スタンレーのサマーインターンで、プロの金融の仕事に初めて触れた
前回書いたとおり、私は社会人としての第一歩をエクソンモービルで踏み出したわけですが、そのエクソンモービルは2000年に辞めました。
そして、カーネギーメロン大学のMBA課程に入学したのです。機械工学部出身だった私は、独学で株式投資と企業分析のやり方を学んでいましたが、ちゃんとした会計・ビジネスの知識は欠けていました。そこで、そういった知識を身につけようと考えたのです。
カーネギーメロン大学のビジネススクールは規模が小さく、私が通っていた頃は1学年に150人ぐらいしか在籍していませんでした。工学部卒の学生が半分ぐらいいて、数学・統計分析に強いMBAでした。
ビジネススクールでは夏休み期間にみな、サマーインターンを経験します。
私は日本語ができましたので、日本のインターンの仕事を探しました。そして、モルガン・スタンレーのセールス・トレーディング部で2ヵ月研修しました。セールス・トレーディング部のすべての部門へ1週間ごとに勉強・研修に行きました。その時、初めてプロの金融の仕事に触れたのです。
そこで体感したのは金融の仕事の多様さでした。証券会社はどちらかというと、売買を促す仕事の方が多いです。あるいは、お客さんが取引する中でサヤをとる仕事です。
本当の投資家、または投資を専門にしている人たちは、証券会社の中では実は少ないです。営業マンは取引を促すのが仕事で、投資について知識は持っていますが、投資の一番のプロとは言えません。
投資の勉強で得られるのは投資するためのツールのところまで。投資で成功するには、ツールを使いながら自分の知恵を発揮する必要がある
また、ビジネススクールでは、ある教授と1回討論したことで、そこで習ったことは、投資のやり方というよりも、投資分析のツールにすぎないことに気がつきました。
たとえば、彫刻家はいくらいい工具を揃えても、それをどのように使うのかという考えがなければ、いい作品が作れません。
それと同じように、株式分析の本をいくら読んでも、それだけで投資がうまくなるわけではないのです。投資はすべてケースバイケースのことが多く、本に書かれていることはツールにすぎないことが多いです。
なので、みなさんには投資の勉強をしてほしいと思っていますが、勉強だけでは投資に成功することはできないとも思います。投資の勉強で得られるのは投資するためのツールのところまで。投資に成功するためには、さらにそのツールを使いながら、自分の知恵を発揮することが必要になるのです。
9・11同時多発テロで株は暴落。それは絶好の買い時だった
サマーインターンが終わったとき、アメリカでは9・11同時多発テロが起きてしまいました。
まったく信じられない出来事でした。
これで金融関係の業界への就職は難しくなりました。モルガン・スタンレーから仕事のオファーはもらいませんでした。
その瞬間を私はリアルタイムでは把握していませんでしたが、9・11で株式は暴落しました。それを知ったとき、私もフリーズしてしまいました。投資はしませんでした。
でも、その経験から、暴落があった時は絶好の買い時と勉強することができました。
なぜかというと、長期的に見れば、世界が終わらなければ、アメリカが終わらなければ、景気・株は元に戻ると考えられるからです。
9・11の大きな変化を経験できたことは投資の勉強としては良かったです。世界はそれによって変わりました。ウェストポイント(※)に入学し、士官にはなっても、戦場には行かなくてもいいと予想していた人たちは数年経ったら、アフガニスタンで戦っていました。
(※編集部注:「ウェストポイント」とはアメリカの陸軍士官学校の通称)
株価指数が20%以上下落すると、ベアマーケット(弱気相場)入りとみなされます。しかし、このような下落が起きても、だいたいいつかは戻ると思います。場合によって、戻る期間は数年、または5年、10年とかかることもあり得ますが、分散して投資していれば、戻る確率は大きいです。
戦略コンサル時代には、市場の将来性を分析し、具体的に数字で表すことを身につけた。これは株式投資でも重要なこと
金融業界のモルガン・スタンレーには就職できませんでしたが、幸い、マース・アンド・コーというフランス系戦略コンサルティング・ファームに就職できました。
マースはボストン・コンサルティング・グループやマッキンゼーと同じような戦略コンサルですが、1つの業界で1つしかクライアントを取らないので、顧客からもっとも信頼され、もっとも深いデータを共有されます。
マースでは日本の案件、マレーシアの案件、中国の案件、食品会社、飲料会社、半導体会社、発電重工業会社、自動車会社などの案件に携わりました。
マースは数量的な分析が得意です。他の戦略コンサルは言葉で曖昧なことを言いますが、マースが奨める戦略では、具体的にどれぐらいの利益を上げることができるか、提示していました(もちろん、推測は入りますが)。
株式投資でもこういうことは重要です。数字で予想を表すこと、定量化することが重要なのです。そうでないと、その株の上昇可能性について、感覚がつかめません。
私は中国語ができますので、中国関連の仕事も多かったです。当時の中国は高成長の時代でした。中国市場に参入しようとしている会社はみんな、中国でシェアをとりたいと考えていました。
そのような仕事を通して、市場の将来性を分析する方法を身につけました。企業の業績を予想するのに役立つスキルをたくさん身につけることができたのです。
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