「GPIFの運用益は4四半期連続の赤字」のニュースに踊らされるな
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用益は4四半期連続の赤字に―。
日本の公的年金を運用するGPIFの2022年10~12月期の運用実績は1兆8530億円の赤字となり、2022年1~3月期から4四半期連続で赤字を記録した。4四半期連続の赤字は今から約20年前に起きた「エンロン・ショック」以来である。世界的な利上げに伴う金利上昇で債券価格が下落したことや、昨年秋からの急速な円高で円換算ベースの外国資産額が目減りしたことなどが要因である。
GPIFは言うまでもなく世界最大の年金運用機関であり、現在190兆円ものお金を運用している。国民が払った国民年金と厚生年金の保険料を一括運用しており、将来の給付に備えて「国内株式、海外株式、国内債券、海外債券」をそれぞれ25%の割合で運用している。
「GPIFの運用がマイナス」という報道がなされると、「年金支給額が減らされる!」「何でマイナスの運用なんかしているんだ!」「責任者出てこい!」のような世論が起こるが、それはあまりにも短絡的というものだ。これに同調して不満をぶつける人たちも多く見受けられる。意外と正しく理解されていないようなので、今回は「日本の年金財政とGPIFについて正しく知ろう!」をテーマに取り上げる。
少子高齢化が進む日本において、今の年金制度が適していない理由とは?
まずは日本の年金財政についてである。日本の年金は「日本国内に居住する20歳以上60歳未満の人全員」に加入義務がある皆年金制度であり、そのスタートは1961年に遡る。勤労者が毎月支払っている厚生年金・国民年金の保険料は将来の自分への積立ではなく「世代間扶養」である。すなわち、現役世代が納める保険料を高齢者の年金支給に充てる形だ。制度ができた当時は、日本が人口的にも経済的にも右肩上がりだったのでこの設計で良かったが、今問題となっているのは少子高齢化の進展で「世代間扶養」が日本の年金制度に全くそぐわない形になっていることだ。
現在、高齢者に給付している年金総額とその財源をみると、2020年度の年金給付額は56兆円であり、日本の人口の約3人に1人の割合に相当する4051万人が年金を受け取っている。そのための財源の約7割(39兆円)は現役世代からの保険料収入で賄っており、2割強(13兆円)は税金(国庫負担)が投入されている。だが、それでもまだ足りない。この不足分の4兆円をカバーしているのがGPIFの運用する年金積立金だ。
今の時代はとにかく年金給付のための支出が圧倒的に大きく、現役世代から徴収する保険料を積立金に回すことが全くできずそのまま高齢者への支払いに充てられている。一方、団塊世代が働き盛りだった時代には、入ってくる保険料のほうが給付する年金額よりも多く、毎年のように積立金が増えていた。これが今GPIFが運用している年金積立金のタネ銭になっているというわけである。
GPIFの累積の運用益は98兆円。運用力は世界の年金基金と比べても優秀
冒頭で「GPIFの運用益は4四半期連続の赤字」と記したが、GPIFの運用力はどうなのだろうか? まず2022年の1年間で見るとマイナス4.8%である。一方、世界最大級の政府系ファンドのノルウェー政府年金基金はマイナス14.1%、オランダ大手ABPはマイナス17.6%と惨憺たる成績になっている。株式と債券の同時安で苦戦したが、特に債券の値下がりが大きな痛手となった。厳しい運用状況が続いているものの、GPIFの運用成績は年金財政に与える悪影響は限定的であり、運用を始めた2001年度から2022年12月末までの実質利回りは平均で年率3.38%、目標とする1.7%を大きく上回っている。累積の運用益は98兆円であり、これはかなりの好成績といえる。現在の運用資産額は190兆円となっている。
この資産をどのように年金財政に回していくのか? 想定としては年間の年金給付額の1割を賄うという設定がなされている。すなわち、年間給付額が60兆円であれば6兆円を運用資産から充当する形だ。支出となる給付額をできるだけ抑えつつ、運用パフォーマンスを上げることが求められる。でないとGPIFの積立金をどんどん取り崩していかねばならないからである。現在の積立金190兆円をすべて年金給付に充てると3.3年分あるが、100年後でも1年分相当の積立金が残るように財政計画がなされている。なので、早々に日本の年金制度が破綻するようなことは起こらない。
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