株式相場に最重要な日米の金融政策。先週の重要アナウンスメントを点検
今年の最重要ポイントは、日米中央銀行の金融政策転換―。
2024年の最初のコラムにおいて私はそう述べた。「今年のポイントは何と言っても日米の中央銀行の金融政策転換が最重要」「すなわち、米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めから金融緩和への転換」、そして「日銀のマイナス金利から金融正常化への転換である」と。
先週は日米中央銀行の重要なアナウンスメントが相次いだので順次点検したい。まずは日銀だ。1月22日~23日に開催された金融政策決定会合の発言内容をまとめた「主な意見」が公表されたが、植田和男総裁の記者会見では明確に伝わってこなかった部分がビシバシ伝わってくる内容だった。
1月会合で緩和維持を決めた一方、金融正常化へ手応えを示す意見が相次ぐ
1月の会合で日銀は従来通り「大規模金融緩和政策の維持」を決め、マーケット参加者の予想通りの展開となった。しかしながら、その会合に出席した政策委員から「物価2%の目標達成が十分な確度をもって見通せる状況にまでは至っていない」との声があった一方、「実現に向けての確度はさらに着実に高まった」といった見方も示された。そして、「マイナス金利解除を含めた政策修正の要件は満たされつつある」と金融正常化へ手応えを示す声が多く上がったことが明らかとなった。
これはまさしく、金融正常化実施に向け大きな一歩を踏み出す意見である。さらに欧米の中央銀行が利下げを視野に入れる中、「海外の金融政策転換で日銀の政策の自由度が低下することもあり得る」「今が正常化に動く千載一遇の状況」といった早期の政策修正を求める声や、「能登半島地震の影響を今後1~2カ月程度フォローし、マクロ経済への影響を確認できれば、金融正常化が可能な状況に至ったと判断できる可能性が高い」という具体的な意見も明らかとなっている。さらに「物価目標の実現が見通せるようになれば、上場投資信託(ETF)などの買い入れをやめるのが自然。やめても市況などへの影響は大きくない」という踏み込んだ意見も出ているのが印象的だ。
マイナス金利解除は4月会合が濃厚。3月の賃上げ動向を見て判断か
個人的には、4月の金融政策決定会合が焦点になると見ている。金融正常化に向けて日銀が重要な判断材料にしているのが賃上げの動向だからだ。春季労使交渉において、大企業の交渉結果がまとまるのは3月中旬。その労使交渉結果を詳細に検討した上で日銀が3ヶ月ごとの物価見通しを示す4月の会合で動くというシナリオだ。
日銀がマイナス金利を解除すれば実に17年ぶりの金利引き上げとなる。欧米の中央銀行がインフレ対応の利上げに動く中、日銀は主要国で唯一マイナス金利を含む大規模金融緩和を続けてきた。そのため、次のような質問を受けることがある。
「太田先生、日銀が金利を引き上げれば、日本だけ逆金融相場になりませんか?」
FRBが利下げを行い、日銀が金融正常化すれば、日本株は上昇する!
日銀が金融正常化に向けた政策変更を行なえば、利下げを視野に入れ始めた欧米と逆行し、日本株には逆風ではないか、という意見だ。これについて私は次のようにコメントしてきた。日銀が金融正常化を行なえば当然、日本の金利は上昇するため株式市場には逆風である。だが、それはあくまでも一時的なこと。日本株も含めて世界の株式市場の方向性を決めるのはFRBの金融政策。日銀はFRBのような急速な金融引き締め政策は行わない。日本の場合、あくまでもマイナス金利からの脱却、すなわち「金融正常化」に向けたステップを踏むだけであり、日本経済にはプラスになる。
「金利のない世の中では経済は活性化しない」と私は皆さんに申し上げてきた。「ゼロ金利、給料横ばい、増税、希望のない社会…」を過去10年来、我々は十分すぎるほど味わってきた。金融正常化は日本の株式市場にとって逆風ではない。「FRBが利下げを行い日銀が金融正常化すれば、日本株は上昇する」。とても重要な点だ。
1月FOMCのFRB議長のややタカ派的発言によって、3月利下げ期待が低下
ところで、FRBの結果はどうだっただろうか? 1月30日~31日に開催された今年最初の米連邦公開市場委員会(FOMC)。事前の予想通り、4会合連続での「政策金利の据え置き(5.25%~5.50%)」となった。昨年12月のFOMCではドットチャート(FOMCメンバーによる各年度末の政策金利の見通し)が変更され、2024年の利下げ回数が従来予想の2回から3回に引き上げられたことで、米国市場は「お祭りムード」となりNYダウやS&P500指数が過去最高値を更新。フェッドウオッチ(マーケット参加者によるFOMCの政策金利見通し)では3月の利下げ確率が82%まで上昇し、「3月から金融相場が始まる!」というシナリオに劇的に変化した。
ところが、今回のFRBパウエル議長はややタカ派的姿勢の発言を行った。「インフレが持続的な2%となるまで利下げは適切ではない」「3月の会合で利下げを行う確信には至らない」。これを受けてマーケットは急速に売りムードとなり、これまでの楽観論が修正され全面安となった。フェッドウオッチの3月の利下げ確率は36%まで低下したのだ。
最新のフェッドウオッチでは利下げ開始は5月。翌月移行も段階的引き下げ
最新のフェッドウオッチでは5月の利下げ確率は92%。そして6月、7月、9月と連続で0.25%の利下げが行われるとのシナリオになっている。タイミングは後ずれしているものの、やはり今年は「高水準に引き上げられた政策金利が引き下げられる」という形で進展していくと思う。FRBの利下げ開始で「金融相場」への号砲が鳴る。
日銀の金融正常化で銀行株、FRBの利下げで小型グロース株に追い風が吹くことは2024年の最初のコラムで述べた通りだ。金融政策変更のタイミングは微妙に揺れ、株式市場もその都度揺れ動くが、想定したシナリオどおりに動いていることが確認できた1週間だった。
明日Webセミナー「マイナス金利解除で株式市場はどうなる?」を開催!
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※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『太田忠 勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一水曜夜は、生配信セミナーを開催。
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