今回はカオス理論と株式分析を比較して、論じてみたいと思います。そして、カオス理論を想起させる1つのストーリーを紹介したいと思います。
カオス理論は初期値のわずかな違いが将来大きな差となり、予測不可能な状態を生むことを示した
カオス理論は、ある種の物理現象が示す、予測が難しい複雑な動きを研究する学問です。株価の動きはカオスに見えます。
カオス理論とはどんなものでしょうか? 以下にもう少し詳しく、いくつかのポイントを挙げてみます。
●自然科学においては、ニュートンの運動方程式以来、初期状態とその時間発展を記述する法則が得られれば、未来は予測できるとされていた。
●複雑な事象の未来が予測できないのは、式が複雑すぎて現在の物理学ではわからないからであり、その式が解明されさえすれば、将来の予測は可能になると考えられていた。
●しかし、カオス理論は初期値のわずかな違いが将来大きな差となり、予測不可能な状態を生むことを示し、この考えを否定した。
●カオス理論によると、最初の非常に小さな差が最終的にまったく異なる結果をもたらすため、未来の状態を式で予測することは事実上不可能とされる。
●カオス理論は、決定論的な世界観を持ちながらも、予測不可能な未来が存在するという新しい視点を提供している。
●「カオス」は「混沌」と訳されるが、カオス現象は非常に単純な方程式からも生じうることを示している。カオス理論は、複雑性の根源を問い直す必要があることを示唆している。
株価の動きにカオス理論は当てはまる?
株価の動きはある意味、カオス理論に当てはまります。
株価は会社の業績から形成されていて、会社は社会・経済の中に存在していますので、初期状態はわかっています。しかし、長期的な将来の株価を予測するのはかなり難しいことです。
株価は小さな違いの重なりによって、遠い将来、大きく変わることがあります。ある意味、カオスのように見えます。なので、株価の予測、会社業績の予測は長期で考えると、そう簡単なことではないです。
しかし、株価・業績を深掘りすれば、その変化の仕方にはパターンがあったりします。株価は自然界の粒子のように見えて、その動きは予測しづらいものですが、しかし、粒子の動きよりは予測できるものだと思います。
任天堂・中興の祖の死が巡り巡って、アメリカの政治に影響を及ぼしたストーリーとは?
ここで、カオス理論が想起される1つのストーリーを紹介したいと思います。
任天堂創業家で、2002年まで任天堂社長を務め、任天堂・中興の祖と言われる山内溥さんが2013年に亡くなりました。日本を活性化したいという思いもあったのでしょうか、彼は遺言で3人の子どもと共に1人の孫へ遺産を残しました(孫は溥さんの養子になっていました)。
山内さんの孫はYFO(Yamauchi-No.10 Family Office=ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス)という任天堂創業家の資産運用会社を設立しました。ここまでの展開は、日本国内の話であって、海外とは関係ないように思えますが、実はそうではなかったのです。
山内さんの孫は日本のコーポレートガバナンスなどを良くするため、株式の取得、運用をしていました。そのミッションの一環として、米国シアトル郊外に本部を構えているタイヨウ・パシフィック・パートナーズという運用会社を買収したのです。タイヨウ・パシフィック・パートナーズは友好的アクティビストを看板にしている日本株ファンドです。
タイヨウ・パシフィック・パートナーズは当初、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)から資金を託され、その資金を日本の中小型株中心に運用していました。創業者はアメリカ人のブライアン・ヘイウッドとマイケル・キングです。
YFOによるタイヨウ・パシフィック・パートナーズの買収があったため、創業者の1人、ブライアン・ヘイウッドはお金と時間を手に入れました。
アメリカでは市民が直接的に立法に関われる制度のある州がいくつもあるのですが、ワシントン州はその1つです。そして、ブライアン・ヘイウッドはワシントン州で共和党が政治的な目標とするいくつかの法案(反増税など)を住民発議で出したのです。彼はこの法案を通すのに600万ドルもかけました。
ワシントン州は民主党の牙城なので、なかなか共和党のチャレンジャーは出てこないのですが、日本の山内さんが孫に巨額の遺産を残したことが、巡り巡って、アメリカの政治に影響を及ぼすこととなりました。
ある出来事の影響がどう出るか、数ステップ先まで深掘りしていく思考を続ければ、市場がまだ織り込んでいないことに気づけるようになる
このエピソードから言いたいことは、物事の最初の状態がわかっていて、あとあとのこととの関係性が推理できれば、一見、予想できなさそうな、カオスと思われる事柄からも、ある種のパターンが見えてくることはあり得るということです。
今度、自分の身の回りに何か出来事が起こったら、その出来事から推理して、数ステップ先を見据え、どうなるか考えてみたらいいのではないかと思います。
株式投資はそういうものだと思います。
たとえば、円安になったら、真っ先にどういうところに影響が出るかを考えます。まずは輸出企業に影響が出ますが、その後のステップも考えた方がいいです。
私の同僚だった有名な日本のファンドマネジャーがよく会社訪問の時に言っていた定型文を思い出します。
「xxxで考えますと、○○○になりますね」
投資はこういう定型文の連続だと思います。
こういう思考で、深掘りすればするほど、市場がまだ織り込んでいないことに気づけるようになっていくと思います。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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