金融相場入りで絶好調な米市場に対し、日本市場はボックス圏推移で低迷
前回のコラムでは『金融相場なのにボックス圏から抜け出せない日本市場』について解説した。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において米連邦準備理事会(FRB)は4年半ぶりの利下げを決定し、インフレ退治を名目とした利上げ&高金利政策に終止符が打たれたことでマーケットは「金融相場」入りした。トランプ大統領誕生とトリプルレッドの実現で減税&規制緩和が進み米国に追い風が吹くとの思惑から米国市場の主要3指数が揃って最高値を更新。米国市場はまさに順風満帆な金融相場の状況となっている。
一方の日本市場。FOMC直前の9月18日の日経平均株価は3万6380円、11月28日時点では3万8349円で、その間の上昇率は5.4%である。同期間のNYダウの上昇率7.5%には及ばないものの、5%を超える上げ相場となっており一見すれば米国同様、金融相場入りしたかに見える。だが、日経平均の年初来高値は7月11日の4万2224円。高値水準から9%も低いままだ。9月下旬以降は3万8000円から4万円のボックス圏を推移しているだけであり、株価上昇の高揚感はまるでない。ため息ばかり出るような相場展開が続いている。米国市場の最高値更新に対して、日本市場はボックス圏での動きにとどまっている。
トランプ氏が中国に追加関税、メキシコとカナダにも関税を課すと投稿
日本株が低迷する理由は前回のコラムで詳しく述べた。インフレ懸念による金利上昇、トランプ新政権における関税強化策、そして日本企業の業績懸念の3つの要因が上値を重くしている。とりわけ関税強化策については、先週大きな動きがあった。トランプ氏が自身のSNSに「中国からの全ての輸入品に対して追加で10%の関税をかける」「カナダやメキシコについても2025年1月20日の就任初日に25%の関税を課す大統領令に署名する」と投稿したからだ。
中国への追加関税の理由は中国からメキシコなどを経由して合成麻薬「フェンタニル」が米国に流入していることへの対抗措置、カナダやメキシコへの関税についても違法薬物や不法移民の流入が終わるまでの措置としている。米商務省によると米国の今年1~9月の輸入額はメキシコから3788億ドル、中国から3221億ドル、カナダからが3093億ドルで1~3位を占め、3カ国合計で全ての輸入額の4割に上る。トランプ氏は選挙戦で不法移民対策を争点の1つにしていたが、問題を解決するために関税を最大限活用する姿勢を明確にしたわけだ。
貿易戦争を警戒し、アジア市場で自動車や半導体関連銘柄の下落が目立つ
これに対して各国は即座に反応した。在米中国大使館の報道官は「フェンタニルの流入は事実ではない」「貿易戦争や関税競争に勝者はいない」との声明を発表。メキシコのエブラルド経済相はトランプ氏に「自分で自分の足を撃つようなものだ」と警告し、「米国で約40万人の雇用が失われるだろう」とコメント。カナダのフリーランド副首相は「国境の警備と保全を最優先事項とおり、トランプ政権ともこうした問題を引き続き協議していく」との声明を出した。
金融市場ではメキシコとカナダの通貨が対米ドルで急落、アジアの株式市場でも貿易戦争の標的になりやすい自動車や半導体関連銘柄の下落が目立った。もっともトランプ氏の次期大統領就任を控えて、世界の企業は先回りで貿易戦争に備えている。関税引き上げ前に在庫を積み増す動きを強めており、アジア発米国向けの海上輸送量は2024年が過去最高になりそうだとの観測が出ている。第一次トランプ政権下では米中関税合戦によって2019年の世界経済が減速したが、その二の舞にならないように早め早めの動きが出ている。
停滞の株式市場に対してドル円市場は活発。最大の焦点は日銀の利上げ
日本株市場は先週も相変わらず抑圧的で冴えない動きをしたが、華々しくドラスチックに動いているのがドル円市場である。
「米国の利下げ&日本の利上げが今後進めば、日米金利差は縮小してドル売り&円買いで円高になる」とのコンセンサス通りの展開で7月3日の161.94円から9月16日には139.57円と22円もの円高が進んだ。ところが、それが再び巻き戻されて11月15日には156.74円と2カ月前から15円もの円安となった。「米国利下げ&日本利上げ」のシナリオ自体は崩れていないのに、なぜここまで再び円安となったのか? 過去のコラムで解説したが、為替市場の方向性を決めるのは単一の理由ではないということだ。メインシナリオが実現すれば円高であっても、サブシナリオが働いて円安になるという事例である。そのサブシナリオとは「景気減速が起こらないほど米国経済は強い」=「ドルを買う」という動きが起こった事、そしてトランプ氏が大統領選で勝利するという「トランプトレード」でドル高と米金利上昇が起こった。
そして、また再びの円高・ドル安である。11月29日に149円台を付けたことでトランプ氏当選が決まった後の円安進行が帳消しになった。この流れはメインシナリオである。12月のFOMCでFRBがさらに利下げを行う一方、日銀は12月の金融政策決定会合で利上げを行うとの観測が増えているからだ。先日公表された11月のFOMC議事要旨では参加者の多くが段階的な利下げを支持していたことが明らかとなっており、日銀の植田和男総裁の講演会での発言は従来のハト派色は薄かった。「トランプトレード」が一旦落ち着いて巻き戻しが進み、足元の米長期金利は4.5%台から4.1%台まで低下した。日米の金融政策の方向性の違いによる金利差縮小に再び脚光が当たり、円買い・ドル売りが膨らみやすい地合いにある。
再投資を促す配当金総額は8.1兆円と巨額も、今年の年末ラリーは期待薄か
日銀が利上げを行うのは金融正常化の一環であるが、もちろん金利上昇は株式市場にとっては逆風となる。すでに日本の長期金利は11月22日に一時1.100%と4カ月ぶりの高水準にまで上昇しており、日銀の利上げを先取りする動きが出ている。国内金利上昇圧力とトランプ政策への懸念が日本の株式市場の上値を押さえている。毎年12月は企業の中間期配当の支払いを受けた再投資や、再投資を睨んだ買いが活発に入ることで年末ラリーに一役買う形になる。今年の11月20日から12月23日に支払われる配当金総額は8.1兆円と巨額であり、年末ラリーを期待したいところであるが、すんなりとはいかない可能性が高そうだ。
前回のコラムでは「現在のボックス圏相場は次の局面にジャンプするにあたってエネルギーを蓄えている時期である」とコメントした。その考えに変わりはないが、今年7月につけた4万2224円の直近高値を更新はしばらくお預けとなりそうだ。今はじっと待つ時期、忍耐の時。すでに金融相場に入っているのだから焦る必要もない。泰然自若の姿勢が重要だ。興味のある方は先物に絡んだヘッジファンドの動きをチェックしていただくと今後の相場を占う参考になる。
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