株価の方向性を理解するのに欠かせない考え方が「マーケットサイクル」
当面の株価の方向性を決める最も重要な要素は何か? 企業の成長力や景気拡大と答える方々も多いと思う。もちろん長期的にはこの考え方で問題ない。だが、日頃株式投資をしていて「業績が伸びているのに株価が上がらない」や「上方修正したのに株価が下がる」という事態に直面することが多いと思う。その根本の原因は、業績や景気動向よりもっと重要な要素があるためだ。それは中央銀行の金融政策、ズバリ言えば政策金利の動向の方が株式市場に影響を及ぼすためだ。
私のコラムではマーケットサイクルの話を頻繁にしている。株式市場は金融相場、業績相場、逆金融相場、逆業績相場という4つの局面が繰り返されて進展していくが、その4つの局面は金融政策で決定される。皆さんもよくご存知のはずである。
9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)において米連邦準備理事会(FRB)は4年半ぶりに利下げを決定した。利下げ幅は0.5%と通常の0.25%の2倍。金融政策転換の初っ端での大胆な決断。サプライズだった。FRBのパウエル議長は記者会見で「景気後退の可能性を小さくする予防的措置」「後手に回らないという決意の表れだ」と説明した。これによってインフレ退治を名目とした利上げ&高金利政策に終止符が打たれた。日本時間の9月19日の未明に「金融相場」の号砲が鳴った。
景気後退や企業業績が悪化しても株価が上昇するのが「金融相場」の特徴
金融相場は金融緩和によってマネーが株式市場に流れ込み、景気後退や企業業績悪化の状況であっても株式市場が上昇する局面である。「不況の株高」という言葉があるが、不況だからこその金融緩和、不況だからこその流動性増大、不況だからこその「安心して買える」株式市場なのである。
本家本元の米国市場を見ると、9月18日のNYダウは4万1606ドルであったが11月21日現在で4万3870ドルと5.4%上昇しており、S&P500とナスダックを含めた主要3指数揃って最高値を更新している。11月5日の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が圧勝し、上下院議会とも共和党が多数派を占める「トリプルレッド」が実現したことも追い風だ。株価はほぼ右肩上がりに上昇している。
一方の日本市場である。9月18日の日経平均株価は3万6380円、11月21日現在は3万8026円。上昇率は4.5%である。この数字だけだと「ほぼ米国並みに上昇している」ということになるが、日経平均の年初来高値は7月11日の4万2224円だ。このレベルから10%も低いままなのである。9月下旬以降は3万8000円~4万円のボックス圏をウロウロしているだけであり、株式市場に高揚感はまるでない。ため息ばかり出るような相場展開が続いている。米国市場は最高値更新にもかかわらず、日本市場はボックス圏で横ばいしているのはなぜなのだろうか?
米国株が絶好調にもかかわらず、日本株はボックス圏で低迷する3つの理由
1つ目の答えが金利上昇である。「金融相場は利下げで金利が低下するのに、どうして金利が上昇するのですか?」という質問が出て当然だが、前回のコラムでその理由を解説した。現在の米債券市場では「トランプ政策」への先読みが長期金利の上昇をもたらしている。減税や規制緩和の経済政策を推進すれば、当然ながら財政支出は拡大してインフレ懸念は再燃する。加えて、トランプ政策の目玉の「関税引上げ」は米国内における販売価格に転嫁されて、それが物価上昇を押し上げてインフレ要因となる。米国市場では「インフレ懸念による金利上昇と米国株ラリーは異なる」という何とも都合のいい考え方、トランプ勝利のご祝儀相場で盛り上がっているが、日本市場は異なる立場に置かれている。
昨今の米国経済の堅調さやインフレ懸念再燃で12月のFOMCでの利下げ見送りシナリオが濃厚になってきたことに加えて、日本では日銀が利上げをしようと虎視眈々としている。現在の日本の政策金利はわずか0.25%。マイナス金利やゼロ金利からの脱却という名目で金融正常化を進めているわけであるが、ドル円相場が9月中旬の140円から今や155円まで円安が進んでおり、日本においてインフレ対策が必要になってきている。円安は日本にとってインフレを引き起こす最も大きな要因であり、対策を打つ必要がある。「米国は利下げを一時停止、日本は利上げ」という形になれば、日本の株式市場にとって逆風そのものである。
業績が伸び悩む日本企業。トランプ関税が公約のまま実施されれば痛手
2つ目の答えがトランプ政権における関税強化策だ。米国の製造業を安価な輸入品から守るという目的だが、「全輸入品に10%の一律関税、中国製品は60%の関税」とのシナリオが実施された場合、日本にとって大きなマイナスになる懸念がある。もちろん、欧米や中国にとっても大きな打撃となる。実際に公約通りに政策が行われるかどうかは不透明だ。もし公約通り実行されれば国際的な貿易摩擦を引き起こし、トータルで見た場合に米国にとって逆効果を招きかねない。一部製品を対象に時限的に関税を発動するやり方になるのでは、と個人的には見ている。
3つ目の答えが日本企業の業績懸念である。2024年4月~9月期の決算発表は一巡したが、市場の想定よりも伸びが鈍い結果となった。特に外需企業の業績不振が目立ち、「保守的な業績予想を上方修正する」とのシナリオが崩れてしまっている。想定以上の円安にも関わらず、業績が冴えない大きな要因が中国の景気減速によるものだ。
ボックス圏推移はエネルギー蓄積の時期。日経平均も来春に高値更新期待
とは言え、さほど焦る必要はない。どのようなマーケットサイクルにおいてもボックス圏での動きになる時期がある。例えば今年の3月から6月にかけての日経平均は3万7000円から4万円でのボックス圏、2023年7月から12月にかけては3万円から3万3000円でのボックス圏だった。次の相場局面にジャンプするにあたってエネルギーを蓄えている時期である。
私の見立てでは、日銀による0.25%の利上げが年末から年明けに行われて金融正常化が進み、米国では再び利下げモードになる。来春には4万2224円の直近高値を更新する展開になると考えている。今はじっと待つ時期だ。すでに金融相場に入っているのだから焦る必要もない。泰然自若の姿勢が重要である。
大好評だった11月のセミナー。年内ラストセミナーは12月12日に開催!
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●太田 忠 DFR投資助言者。ジャーディン・フレミング証券(現JPモルガン証券)などでおもに中小型株のアナリストとして活躍。国内外で6年間にわたり、ランキングトップを維持した。現在は、中小型株だけではなく、市場全体から割安株を見つけ出す、バリュー株ハンターとしてもDFRへのレポート提供によるメルマガ配信などで活躍。
※この連載は、ワンランク上の投資家を目指す個人のための資産運用メルマガ『勝者のポートフォリオ』で配信された内容の一部を抜粋・編集の上お送りしています。メルマガに登録すると、メルマガ配信の他、無料期間終了後には会員専用ページで「勝者のポートフォリオ」や「ウオッチすべき銘柄」など、具体的なポートフォリオの提案や銘柄の売買アドバイスなどがご覧いただけます。原則毎月第一木曜夜は、生配信セミナーを開催。
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