1月20日(月)、トランプ氏がアメリカの第47代大統領に正式に就任しました。大統領就任演説が行われ、本稿執筆時点では、それ以外にもさまざまなトランプ新大統領の発言などが報道されていますが、それらのことについてはまた別の機会に詳しく触れたいと思っています。
今回はトランプ大統領就任式前の週末にアメリカで起きた大きな出来事を取り上げたいと思います。それは動画共有アプリ「TikTok」の禁止を巡る騒動です。
アメリカでTikTokがサービスを停止。しかし、トランプ氏の言動により、サービスを再開
1月18日(土)の夜、TikTok禁止法の施行を前にTikTokはサービスを停止しました。しかし、翌1月19日(日)には再び利用可能になりました。これは、トランプ氏がTikTok禁止法の施行を延期することを約束したためです。
TikTokが中国政府の影響を受けていること、そして、アメリカ社会に与える影響力が大きいことは明白です。TikTokのサービス再開とトランプ氏の意見の変化は、文化的にも投資的な観点からも重要な意味を持っています。
1期目のトランプ政権時代には、国家安全保障への懸念からTikTok禁止が議論の的に
1期目のトランプ政権時代にはTikTok禁止が議論の的になりました。それは主に国家安全保障への懸念からでした。2020年、トランプ大統領は、中国企業バイトダンス社が所有するTikTokが、アメリカ人ユーザーのデータを中国政府に提供するリスクについて指摘したのです。
このことへの懸念から、トランプ大統領はTikTokがアメリカでサービスを停止するか、TikTokをアメリカ企業へ売却するよう求めました。この問題は大きな政治的議論を巻き起こし、TikTok側もデータの透明性を高める措置を講じましたが、全面的な解決には至りませんでした。
バイデン政権下でTikTokを巡る議論は再燃
その後、バイデン政権下でTikTokを巡る議論は再燃しました。
特に子供への影響やプライバシーの問題が新たな焦点となりましたが、トランプ氏が提起した安全保障上の懸念は完全には解決しておらず、TikTokは引き続き規制対象として注目されました。
その一方、TikTokはアメリカ市場で重要な存在となり、クリエイターや中小企業にとって欠かせないプラットフォームとなっていました。
最近では、トランプ氏自身がTikTokの存続を支持する姿勢を見せていました。
トランプ氏はTikTokに対する考え方を変えた
トランプ氏はTikTokがアメリカ経済や若者文化、特に雇用に重要だと認識し、考えを変えたのです。さらに、トランプ氏はTikTokが自身の再選にプラスになったと考え、自身の政権にとってメリットのある存在だと考えました。
彼は自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」で「TikTokの50%はアメリカが所有すべき」と述べました。
TikTokはアメリカ政府の許可がなければ価値がゼロであり、許可があれば1兆ドルの価値もあり得るとして、アメリカは無料で50%を取得できると主張したのです。
この主張にはあいまいな部分がありましたが、TikTokを買収するアメリカの民間投資家が政府に対価を払う可能性を示唆していたとも解釈できます。
TikTokの禁止措置が実行されるまで90日間の猶予が確保されたことで、運営元のバイトダンス社はトランプ氏に感謝の意を示しました。このように特定の政治家に感謝の意を示すのは異例のことです。トランプ氏は王様のように見られるよう、アピールしているのだと感じます。
このようなトランプ氏のスタンスの転換は、TikTokに対する世間の見方や政治的圧力に対応する戦略的な動きとも言えます。
TikTokについてトランプ氏が態度を変えたことからわかる4つのポイントとは?
以上のことからわかるのは以下の4点です。
(1)トランプ氏は自己の利益が絡むと意見を変えることがあります。
(2)トランプ氏は取引主義的(Transactional)です。つまり、TikTokに関して、アメリカが利益を得られるなら、そうする姿勢をとります。
(3)中国のインターネット産業は非常に強いです。中国のソフトパワーは結構大きくなっています。
(4)トランプ大統領のパワーはおそらくこの半年か1年がピークです。トランプ大統領は今回がもう2期目になるので、これ以上の再任はできません。そして、2026年に実施される議会の中間選挙に注目が移ると、トランプ大統領のパワーは落ちてしまうでしょう。したがって、トランプ氏が一番動きを見せるのは大統領に就任したばかりの今の時期だと考えられます。
トランプ大統領は台湾、ウクライナ、中東といった地域の地政学的問題も商取引の一環として扱うリスクがある
前述したようなトランプ大統領の姿勢は、アメリカにとって短期的には有益かもしれません。しかし、確率は低いとは思いますが、地政学的な混乱を招くリスクも高めます。
たとえば、条件が良く、利益が見込めるなら、トランプ大統領はどのような取引でも受け入れる可能性があり、そこにイデオロギーやモラルはあまり関係がありません。
台湾、ウクライナ、中東といった地域の地政学的問題も商取引の一環として扱われる恐れがあるのです。
この結果、アメリカ人にとっては一定の安定が得られる一方で、他国の人々にとってはアメリカ優位な結果が生じるリスクがあります。
ちなみにバイトダンス社は言論の自由を謳って、アメリカでTikTokのサービスが禁止されるべきではないと主張していますが、皮肉なことに本国の中国ではFacebookとGoogleが禁止されています。
中国はメディア産業への規制の政治的な重要性をよくわかっているのです。
「アメリカ・ファースト」のもと、アメリカだけがうまくいき、世界はうまくいかないケースも考えられる。アメリカへ投資することは重要だ
今、アメリカは世界で最もパワフルな国となっています。
これまでのアメリカは、比較的マイルドな姿勢で、パワーを一方的に自国のためだけに使うことはありませんでした。しかし、トランプ政権下では、イデオロギーよりも「アメリカ・ファースト」が優先されるようになりました。その結果、アメリカに有利な状況が生まれるのは確実です。
これがうまく運べば、アメリカも世界もうまくいき、世界は平和となりますが、そこまではうまくいかず、アメリカだけがうまくいき、世界はうまくいかないケースもあり得ます。
こうしたリスクをヘッジするためにも、アメリカへ投資することは重要だと私は考えます。
日本のみなさんがアメリカ人になるのは簡単なことではありませんが、日本人がアメリカへ投資することは自由にいつでも可能です。
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長はトランプ氏の当選後、いち早くトランプ氏に会いに行き、アメリカへの投資を表明しました。日本の個人投資家のみなさんも孫氏と同じようなスタンスで行動するのが賢明ではないでしょうか。
●ポール・サイ ストラテジスト。外資系資産運用会社・フィデリティ投信にて株式アナリストとして活躍。上海オフィスの立ち上げ、中国株調査部長、日本株調査部長として株式調査を12年以上携わった後、2017年に独立。40代でFIREし、現在は、不動産投資と米国株式を中心に運用。UCLA機械工学部卒、カーネギーメロン大学MBA修了。台湾系アメリカ人、中国語、英語、日本語堪能。米国株などでの資産運用を助言するメルマガを配信中。
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